「なぜ綺麗なのか」を分析する。ベテラン造園デザイナーT.Nが実践する、日常をデザインの種に変える方法
造園業界ひと筋、半世紀近くにわたって「庭」と向き合い続けてきたベテランのT.Nさん。約10年間現場と設計の最前線を走り抜けた後、一度は会社を離れた。他社で十数年間腕を磨き、2016年に再び岐阜造園へ。現在は東京支店を拠点に、デザイン・設計の指導役として若手の育成に力を注いでいる。波乱万丈のキャリアの中で培われた確かな目と技術、そして造園への尽きない情熱——その原点と現在地を聞きました。
自己紹介とキャリアの歩み――10年の時を経て再び岐阜造園へ
──入社までの経緯を教えていただけますか?
T.Nさん:
僕は実は出戻りなんですよ。もう半世紀近く造園業に携わっていますね。岐阜造園に入って最初は色々やりました。正直に言うと、昔は何でも屋みたいな感じで、訳もわからず親方について回っていましたね。入社から10年ぐらい本社の工事管理課(当時)にいて、外構工事(ガーデンエクステリア事業)の現場監督も、外構・造園の設計も担当しつつ、造園工事(ランドスケープ事業)も担当しました。日々現場の割り振りをしたり、自分の現場も見たりという仕事をしていました。
──そこから一度退社されたとのことですが、岐阜造園に戻られたきっかけは何だったんですか?
T.Nさん:
その当時働いていた会社が、事業の再編で造園関係の仕事を一旦やめるという話になったんです。ミドルマネージャーとしての仕事をやれば残ることもできたのですが、やっぱり造園のデザインとか設計をやりたかったので、どうしようかなと思っていたときに、どこで話を聞いてきたのか鼻が効くのか、岐阜造園の社長から電話がかかってきて(笑)。「会社も上場したし、何とか戻ってきて手伝ってくれないか」と。それで2016年に戻ってきました。ちょうど今戻ってきて10年ぐらいですね。
──社長から直接お声がかかったんですね。戻ってきてからはどんなお仕事をされているんですか?
T.Nさん:
戻ってきてからは、デザインや設計業務を担当しつつ、後進の指導にも携わっています。
──昨年9月に東京支店へ異動されましたが、どういった経緯だったのでしょうか。
T.Nさん:
会社として、首都圏のガーデンエクステリア事業を強化していきたいという話が出てきたことがきっかけだと思います。岐阜造園の持つノウハウやデザイン力をお見せしたり、首都圏で色々なお話をさせてもらう機会が増えていたので、それを機に東京へ異動することになりました。

デザインという仕事の面白さ
──仕事のこだわりや大切にしていることについて教えてください。
T.Nさん:
どうしたらいい感じの庭や外構になるか、自分が心から納得できるようなものが作れるかということを日々こだわってやっています。自分はデザイン面を買っていただいて戻ってきたので、その部分をないがしろにしちゃうと意味がないんです。経営とか営業とか、そういう部分であれば自分より長けた人がたくさんいる。デザインを核として、こだわっていかないといけないかなと思ってやっています。
──デザインがT.Nさんの核なんですね。仕事の面白さについても聞かせてください。
T.Nさん:
面白さは、施主様の予算の中で、どうやって自分がやりたいデザインを形にするかということですね。こんな面白いことはないなと。与えられた予算を最大限に活用して、高品質のデザインをやらせてもらえる。それを喜んでいただいて買っていただくというのは、すごく面白い仕事だと思っています。建築とかも同じなのかなと思います。
──たしかに、この仕事ならではの醍醐味ですね。
T.Nさん:
自分のお金で何か作ろうと思っても限界があるじゃないですか。だから日々色々な建築やアートを見たりして、すごいなとリスペクトしながら「今度機会があればやってみたい」と思ってアイデアをストックしておくわけです。自分のお金じゃできないけど、そういうチャンスがあったときに、自分のやりたいことをいかに実現させようかと意気込んでいますね。
「なぜ感動するのか」を分析する。自然という最高の師に学ぶデザインの極意
──T.Nさんがやりたいデザインというのは、無限に出てくるのですか?
T.Nさん:
無限ってこともないけど、やっぱりありますね。色々なものを見て「やりたいな、何かいいな」と心に留まるものを、引き出しにずっと入れておくんです。施主様の要望とマッチングしたときに、その引き出しが開くんですよ。
──なるほど、日々ストックをしているのですね。ストック元は日々の生活の中で、目に映るものからなのでしょうか?
T.Nさん:
それはそれであるんですけれど、日々の生活だとなかなか単調なので。昔は山登りとかもしていたんですよ。そういうことをしていると、例えば谷を歩いていたりすると、やっぱり自然の中に色々なものが見えてくるんですよね。
──自然の中で感じたことを、実際の仕事にどのように活かしていくのですか?
T.Nさん:
これは若手社員にも伝えているのですが、例えば観光で自然を見に行ったときに「綺麗だな」「感動するな」と思うじゃないですか。それをもうちょっと具体的に分析するんです。なぜ綺麗なのか、なぜ感動するのかを考える。そうすると実践に役立つんですよね。例えば、ここに岩があって、水が地下からこのように出ていて、こういう構成だから綺麗なんだよねと。それを別の場所でも同じようにやっていやれば、自分の中にインプットされていく。様々な作庭家の方たちもいらっしゃいますが、みんな基本的には自然が先生というのは一緒なんです。自然に敵うものはないっていう。
──「自然が先生」、すごくいい言葉ですね。その分析は脳内にインプットしていくのでしょうか?
T.Nさん:
自分はスケッチしたりしますね。例えば、この石があってこんな風に木が出ていて、木の樹種なども描いていくという感じで。ちょっと描くだけでも脳にインプットされるんです。

クラフトビールとアート巡り。東京の刺激をインプットに変える休日
──オフの日に何かされることはありますか?
T.Nさん:
昔は岩登りをしてリフレッシュしていましたね。登りに行くとすごく景観がいいじゃないですか。そういうものが自然と目に焼き付いたり、頭の中にインプットされたものが今の仕事に役立つのかなと思います。ただ岩登りは、数年前に病気をしてからは全然やっていなくて。
──山登りではなく、岩登りですか!危険ではないですか?
T.Nさん:
危険ですね。5mくらいロープ無しで登るので、落ちたら怪我しちゃうし、マルチピッチと言って、1回のロープの長さ(約50〜60m)では登りきれないほどの長い大岩壁を、いくつかの区間(ピッチ)に分割して複数回に分けて登ることなのですが。自分で安全を確保しながら、足場の悪いところをどんどん登っていく。あれもアドレナリンが出るんですよね。刺激を求めてやっていたんじゃないかなと思います。
今のリフレッシュは、東京にいるときは、クラフトビールが好きなのでクラフトビール屋を巡っています。休みの日に昼間から飲むのが最高ですね。
──クラフトビール屋さんも、いま増えていますよね。
T.Nさん:
お店によってテイストが違うので、ふらっと行って、自分の好みに合うかどうかを楽しんでいます。東京は結構クラフトビール屋さんも多いので、休みの日にインターネットで調べて行っていますね。岐阜だと車社会なので、なかなか飲みに行くハードルが高いのですが、東京だと普通にお昼ぐらいから行けちゃいます。ビールってやっぱり新しさを求めてもらいたいなとか、モルトでちゃんと直球で勝負してほしいなとか、色々なこだわりがありますね(笑)。
──なかなかこだわりが深そうですね(笑)。他にもオフにされることはありますか?
T.Nさん:
昔からオフのことも仕事に繋がっちゃうんですけど、美術館巡りをしたり、好きな展示を見に行ったりもしていますね。東京にいるといろんな刺激があるなと思います。もっと若手社員の方たちも来てみてほしいですね。自分の中の感性が刺激されて活性化されるような、そういうものに触れてほしいなと。自分も知り合いの画廊の方に声かけてもらったりして、展覧会を見に行ったりとか。新進気鋭の駆け出しの芸術家で、これからやっていこうとしてる方たちの展覧会とか、特にエネルギーを感じますよね。東京にはそういう刺激がいっぱいあります。

次世代の「デザインのプロ」を育てる。
──仕事における今後の目標はありますか?
T.Nさん:
そんなに大げさなものではないんですけど… 岐阜造園スピリットのようなものを踏襲した人材を育成することですかね。会社が僕にしてほしいと考えていることでもありますが。そういう後輩たちを育てるというか、そういう目を大事にして、人材を発掘するということですね。自分も現職として働くのはたぶんもう数年しかないので、少しでも後輩の方たちが盛り上げていってくれるように、岐阜造園スピリットを伝えていけるといいのかなと思っています。
──人材育成について、具体的にはどのように取り組んでいこうと考えていますか?
T.Nさん:
今いる後輩の方たちを、いかに底上げしてあげられるかだと考えています。そこからさらにこの仕事を面白いと思ってくれて、自分で色々勉強したりして、スイッチが入れば、もうあとは自走してくれると思うので。そういう子たちを探す、見つけるというか、スイッチを入れてあげるということができれば。それが目標ですね。
「面倒くさい」を越えた先に。未来の自分をデザインする力
──若手社員の方に、メッセージをお願いします。
T.Nさん:
若手社員と面談して話すときにいつも言うのは、「自分が将来どうなりたいかを想像して仕事をするんだぞ」ということですね。別にすごい有名な造園家になるとか、経営者になるとか、そんな大きなことじゃなくていいんです。せめて半年後にはこれぐらいのことができるようになりたいなとか、そういう目標を立てて仕事をすると、日々の仕事が変わってくると思うんです。そうなるためにはどうしたらいいかなって自然と考えるようになる。すごく先のことじゃなくても、何でもいいから目標を立てることが大事だと思います。
──目標を立てることの大切さについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
T.Nさん:
テレビや色々なメディアなどを見て、その影響を受けてノートに書いたりする人もいるけど、大事なのは自分で想像して自分がどうなりたいかを考えること。そうなるためにどうしたらいいかなって考えたときに、「面倒くさい」って思うならば、その子はそこまでなんです。「そうなりたいなら、やらなあかんな」って思えるかどうかで、そこから動きが全然変わってくるんです。スイッチが入るかどうか、そこが分かれ目ですね。
──最後に、今後岐阜造園に入ろうかなと考えてくれている方に向けて、メッセージをいただけますか?
T.Nさん:
特に岐阜造園のデザインのことを勉強したいなとか、興味を持っていろいろ研究したりとか、覚えたいって思ってる人ですね。そういう方たちと仕事ができれば、より一層、会社全体を底上げしていけると思います。東京支店があることでより拡大していけると思うし、造園やランドスケープデザインを極めたくて、岐阜造園に就職したい・転職したいっていう人がもっと増えていけば、本当に楽しい会社になるんじゃないかなと思います。
──岐阜造園の魅力はどんなところだと思いますか?
T.Nさん:
一番の魅力は、造園っていう仕事を単独でやっている会社だということ。大きい会社だと、違う事業もある中で、一つの事業部門として緑化事業をやっていたりするじゃないですか。そうじゃなくて、純然たる造園会社としてこの規模でやっているのは岐阜造園の特徴なので、それは一つの大きな魅力じゃないかなと思います。
あとは、意外かもしれないけど、のびのびやれるところですね。もちろん立場やポジションによる差はあると思いますが、だいぶ自由にやれるようになったと思います。
岐阜造園らしさを追求しながら、スケールの大きい造園やランドスケープデザインの仕事をやってみたいっていう方たちが来てくれたら嬉しいですね。

取材後記📗
デザインを仕事にしている方の感覚は、なかなか言葉で表現しきれないところがあるので読者の皆さまに上手に伝わっているか心配ですが…。T.Nさんの、デザインを核としたワークスタイルや日々のアイデアの源泉。その世界を覗くことができ、なんだかちょっと特別な体験をしたような感覚に陥りました。皆さまのご感想もお待ちしております!
(広報担当🌸)
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