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[SS] 老害とサンバルソース。

「ねえねえ、こんなの買ってきたんだけど。」
彼女はそう言いながらエコバックから小さな瓶を取り出す。

食卓に置かれたのは
ペットボトルと同じくらいの高さのガラス瓶。

赤い。
ラベルにはどこかの国の文字。
成分表も製造年月日も日本のものとは違う。
「これね。友達の旅行のお土産。」

皿に出てきたのは
少しどろっとした固形のソース。
明らかに唐辛子の匂い。
トマトの匂いも少し。

「これお肉に合うんだって。」
彼女はそう言って
箸の先でソースを豚肉につけて口に頬張った。

「うわ。辛い。でも、美味しいよ。」

と言いながら少し急いで麦茶を飲む彼女。
氷の入った空のコップ。

そして、もう一枚。
肉を口に運ぶ。

「ねえねえ、美味しいから。食べてみて」
「いや….。」
「ねえ、美味しいから。」
「うーん….。」
「そんなに嫌?」
「別に、嫌ってわけじゃないんだけど。」
「じゃあ、何?」
「うーん….。」

確かに一枚食べてみればいいんだ。
美味しいかどうかは、食べてみないと分からない。
嫌なら、合わないって言えばいい。
でも、なんか箸が伸びない。

赤い。
辛そうだ。
胃の調子が悪い、今食べて大丈夫なのか。
またトイレに篭らないといけない。

頭の中でぐるぐる考えが回る。
箸はどんどん遠のいていく。

「….、そうか。わかった、ごめんね。」
そういって彼女は焼肉のタレを持って来た。
そして、蓋を開けて残りの豚肉にかけた。

赤いソースの皿は、そのまま。

「なんか、ごめんね。」
彼女はそう言って笑った。

「いや、ほんとごめん。」
そう言って、夕食は進む。

次の日、空になった瓶が捨てられていた。
中身はすべて流してしまったようだ。

彼女は、その瓶の入った袋を持って
いつも通り、玄関を出ていった。

何でだろう。
なんで、一口食べられなかったんだろう。
トイレに篭るのなんて、いつもの事なのに。

新しいものを受け入れるのは
年々難しくなってきている気がする。
いつもの味、いつもの食べ方。
冒険する気持ちはどんどん無くなってきている。

仕事開始まで後10分。
急いでネットスーパーを探す。
同じ瓶は見つからない。
ひとまず、同じようなものを注文した。

本当に美味しいのだろうか。
自分のお腹を見つめる。

少し考える。
仕事開始まであと5分。

注文履歴を開く。
そして、ソースをキャンセルした。
今日も一日が始まる。


こちらの企画に参加させて頂きます。

この話を書くきっかけについて
ほんの少しだけ。

最近、ますます新しいものを
受け入れられなくなる自分がいます。

あるアニメが映画化されて、全く新しい形になりました。
でも、主題歌を聴いた時に、これは違うなあと。
どうしても受け入れられない自分がいます。

古いままだと、新しい人も入ってこない。
つまり死滅していくんですよね。
生き延びる為には変わらないといけない。

わかるんですが、それが難しい。

変わることの必要性はわかっていても
難しい。
もう、立派な老害なのかなとか思います。

皆さんにはそういうものがありますか?


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