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[SS] マリコと団子とゼラニウム

友人のマリコの誘いは大抵、愚痴を聞いて!
そういう事。
気は進まないけど、無視しても断っても同じ。
10分おきのメッセージ、電話。

「断るって選択肢は….、ないんだよなあ。」
出かける支度をしながら、つぶやいた。
少し明るめのリップ。
買ったばかりのシルバーのピアス。

土曜日の午後、ちょうど暇だったから。
自分にそう言い聞かせて、家を出る。

都電。
2両編成の電車。
街の真ん中を走る、昔ながらの電車に揺られている。

呼び出されたのはいつもの団子屋。
駅のすぐ脇にある、老舗の団子屋だった。

「ねえ!聞いてよ!」
串に刺さった団子。
それを一つ、丸っと口に頬張るマリコ。
お互いアラサーなのに、本当に変わらない。
ほんと、子供。

「はいはい、聞くって。」
私が席につくなりこの調子、まあいつもの事。
心の中で自分に言い聞かせた。

「ねえ、聞いてよ!彼ったら酷いんだから!」
「はいはい、で、今回は何?」
「今回はって何?いつもじゃないんですけど。」
「はいはい、ごめんごめん。で、何?」
「そうそう、聞いてよ。それがさあ。」

昨日はマリコとユウヤの交際1周年記念日だったらしい。
お互いにドレスコードを決めて
キレイめのレストラン、二人でイタリアン。

…..羨ましい、何それ。
あ、ダメダメ。
話に集中し直す。

その後、一泊10万円のホテル。
ホテル?何それ。
なんかムカついてきた。
あ、ダメダメ。
拳を少しだけ握って再度集中。

で、そこで事件は起こったらしい。
事件とか、また大袈裟な。

「ホテルに入ってね、渡したいものがあるって言われて。」
「はいはい。」
「花束だったんだけど、聞いてよ。白いゼラニウムなの!」
「は?」
「だ!か!ら!、白いゼラニウムの花束だったの!」

何それ?

「いや、分かんないんだけど。」
「えー、知らないの?」

語尾の上がった感じ。
しまった、まずい。
マリコがめんどくさくなる合図だ。

「ふーん、知らないんだ。じゃあ、教えてあげよう。ゼラニウムはね多年草でね….」
「ストップ!」
「え?」
「大事な所だけでいいから。」
「え?そう?….、まあいいか。でねでね、大事なのは、花言葉なの!」
「花言葉?」
「そう、花言葉。」

なにそれ?
花言葉?
知らんわ。

「いや、知らないんだけど。」
「えー、知らないの?」
また上がる、語尾。

まずい。
でも、いいや。もう、めんどくさい。
お団子美味しい、ここのみたらし。
ほんと美味しい。

「じゃあ、教えてあげるね。花にはそれぞれ花言葉っていうのがあって、ゼラニウムの花言葉はね、基本的には尊敬とか、君ありて幸福とか。基本的にはすっごくいい感じなの。」
「うんうん。」
「ねえ、聞いてる?」
「うんうん。」
「もー。でね、そんな花言葉の中に良くないのもあるの。それが白のゼラニウム。」
「うんうん。」
「白のゼラニウムの花言葉は、偽り、優柔不断、あなたの愛を信じない。なんだよ!」

いやいや、スマホ見ながら言うなって…..。
にしても、ほんと、お団子美味しい。

「酷いでしょ。記念日だよ、1周年だよ、そんな日なのに。」
「うんうん。」
「しかも、その後あたしの顔見て。ごめん、眠いから寝るねって!」
「うんうん。」
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてる。でも、花言葉って知らないでしょ、普通。それに疲れてたんだって。」
「えー、あたしでも知ってるのに?それに記念日なんだよ。ホテルだよ!」

自分基準にするなって….。
世界はね、あんた中心で回ってるわけじゃないんだから….。

「マリコ、知らない方が普通だって。まして、男の人だよ。」
「えー、そう言うものかな。」
「そうだよ、きっと。」
「でもさあ、でもさあ….。」
「なに?」
「…..、なんでもない。」

言葉の乱射が止まる。
マリコはちょうど運ばれてきた追加のお団子を頬張る。

それ、3本めだよね?
何本たべるの?ほんと。
でも、美味しいそうに食べるよね。ほんと。

「まあ、気にする事ないって。」
「そうかなあ….。」
「そうそう、大丈夫。大丈夫。」
「そう….。」

え、まだ追加?
まだ食べるの?
体、お団子になるよ。
ほんと。

「で、話はそれだけ?」
「それだけって!、あたしにとっては重大な問題なんだよ。」
「はいはい」
「….、まあでも考えすぎかな。」
「そうそう、考えすぎ、気にしすぎ。あと、食べ過ぎ。」
「いいじゃん、美味しいんだし。」
「はいはい。じゃあ、もういい?あたし、これから用事があるんだけど。」
「あ、うん。ごめんね、呼び出しちゃって。」
「いや、いいよ。あ、これで足りる?」

財布から1000円札を取り出す。
現金払いのみのお店。
さすが、老舗。
江戸時代からやってるだけある。

「あ、いいよ。話聞いてもらったし。ありがとう。」
そう言ってスッと、戻ってくる1000円札。

「そう?わかった、ありがとう。じゃあ、またね。」
「うん、またね。」

行きと同じ、都電に揺られる。

白のゼラニウム。
そんなの知らないよね、普通。
まあ、優柔不断はあってるよなあ。

そんな事を考えてたら、思わず声に出して笑ってしまっていた。
前の席の男性と目があう。
目線を逸らしたが、なんか気まずい。
耳にイヤホンを差し込んで、適当に再生する。

電車はゆっくりと街の中を進む。
まあいいや、これで終わり終わり。
にしても、お団子美味しかったなあ。

2すっかり日も暮れて真っ暗になった頃。
電話が鳴る、マリコだ。

「ねえねえ!ねえねえ!聞いて!!!」
「なに?どうしたの?そんな慌てて。」
「いないの!」
「いない?」
「ユウヤが、ユウヤが….。いないの!!」
「は?」
「あの後、寄り道して。買い物して、さっき帰ってきたんだけど。誰もいないの….。」
「え?」
「でね、でね。台所のテーブルの上に手紙が置いてあって。」
「うん。」
「そこにね、写真が。」
「写真?」
「うん、あの。そう、写真。あの….。」

ん?なんだ?
なんか変だ。

「とにかく!ユウヤがいないの!!」
「ねえ、写真って何?」
「いや、あの….。」

その後、問い詰めた。
浮気してたってオチ。
写真はその証拠だったって…。

「手紙にね、やっぱり無理って書いてあって。さよならって。」
「あのねえ、それ、あんたが100%悪いよね。」
「一回だけ、一回だけなんだよ、ほんと。それに本気じゃなかったし。」
「でも、ユウヤさんと付き合ってた時なんでしょ。」
「…..、うん。でも、でも、もうちゃんと別れて今はユウヤ一筋だし。」
「はあ….。まあ、でもさ。しょうがないんじゃない。」

電話口の向こうでも、深いため息。
その後、話を聞いて、慰めて
なんとか落ち着かせて、電話を切る。

ふう…..、疲れた。
マリコ、だいぶやられてたなあ。

ユウヤさんと付き合い始めて、1年かあ。
ほんと、ユウヤさん、ユウヤさんって。
マリコの付き合い悪くなったよね。
こっちからは電話しても留守電だし
メッセージもだいぶ経ってから返ってくるし。

何かあったらすぐ頼ってくるくせに。
それに、こっちがどんな気持ちが、知らないくせに。
考えもしないくせに。
まあ、でも、こういう時には必ず電話してくるし。
会おうって言ってくるし。
頼ってくるし。

まあ、単純。
一番、簡単。

写真、思った以上に効いたなあ。
まあ、そうなるよね。

一緒に入れておいた白い花びら。
ちゃんと勉強したみたいじゃない、ユウヤさん。

あー、これでまたマリコと楽しく遊べるかなあ。
お団子奢ってもらうのは難しそうだけど。
あ、写真のネガ。
もういらないよね。

私はシンクにネガを置いて
ライターで火をつけた。

シンクの横には、白いゼラニウムの鉢。
その隣には、赤いゼラニウムの鉢。
どっちも、花は綺麗に咲いていた。


こちらの企画に参加させて頂きました。
ありがとうございます。
花言葉って、怖いですね。

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