見出し画像

「これ、まだ置いてあったわ。」そう言って、お客様が見せてくれた一枚の紙。

「これ、片付けしてたら出てきてん。」

そう言って、お客様がバッグの中から一枚の紙を取り出されました。

「懐かしいやろ?」

そう笑いながら見せてくださったその紙を見た瞬間、私は思わず手を止めました。

「あっ…。」

16年ほど前にお渡ししていた、お会計の控えでした。

その頃は、今みたいに印刷会社さんへお願いして、お店のオリジナルのものを作れるような余裕はまだありませんでした。

だから、全部手作り。

複写式の用紙を買ってきて、そこへハンコを押して、お店の名前を入れて、一枚一枚手書きで書いていました。

今日させていただいたメニュー。
商品をお買い上げいただいた時は、その商品名。
それぞれの金額。そして合計金額。
お客様にお渡しする一枚と、お店に残す一枚。

今思うと、とても手間のかかるやり方だったと思います。

でも、その頃の私は、その手間を「大変」と思ったことはなくて
むしろ、「これだけはちゃんとやろう。」と思っていたことの一つでした。

実は、それには理由があります。
私は美容師になる前から、美容室へ行くことが好きで!いろんな美容室へ行って、いろんな美容師さんに担当していただいて、その中で、ずっと感じていたことがありました。

「あれ…今日って、結局いくらやったんやろ?」
もちろん、メニュー表はあります。カラーはいくら。カットはいくら。トリートメントはいくら。最初に見ているはずなんです。

でも、カウンセリングをしているうちに、
「こちらもした方がいいですよ。」「この方がまとまりやすいですよ。」
そんな提案をしていただいて、「じゃあ、それでお願いします。」とお願いして。
終わった頃には、「あれ、今日は何をしてもらって、この金額なんやったかな。」そんなふうに思うことが、何度かありました。

不安というほどではないけど、でも、少し気になる。

「何にいくらかかったんやろ。」って思うことがあったんです。

きっと、多くの方はそのまま帰られてるし、私も同じように接客してたんです。
わざわざ聞くほどでもない。でも、少し気になる。その小さな気持ちは、ずっと残っていました。

だから、自分のお店を作る時に今日したことは、全部分かるようにしよう。

「今日は何をして、この金額になりました。」それをきちんとお伝えしよう。

私は、それがお客様への安心につながると思っていました。

そして、もう一つ理由があって私は、値段だけを見ていただきたいわけではなく、むしろ逆で!

「このメニューって、この値段なんや。」ではなく、
「今日はこれをしてもらったから、この金額なんや。」と思って
価値を感じていただきたかった
んです。

例えば、カラーをした。トリートメントもした。ホームケアも買った。

全部合わせた金額だけを見たら、「今日はちょっと高かったな。」で終わってしまうかもしれません。
でも、何を選んで、何をしたのか。それが一つひとつ書いてあると、

「今日はここまでしてもらったんやな。」そうやって振り返ることができます。

私は、その積み重ねが大事だと思ってるんです。

その日の売上だけではなく、「また次もお願いしたい。」
そう思っていただけることの方が、ずっと大切だったからです。

だから、時間がかかっても、一枚一枚手書きで書いていました。

そして、16年経って、その一枚をお客様が持ってきてくださったんです。

「なんかね、置いてあったわ。」
「捨てられへんかったみたい。」そう言って笑っておられました。

私はその紙を見ながら、すごく不思議な気持ちになりました。

「この頃から変わってへんな。」そう思ったんです。

もちろん、紙は変わりました。

今は印刷会社さんにお願いして、お店のロゴも入った見やすいものになっています。
手書きのハンコもないし、見た目はずいぶん変わったけど、中身は何一つ変わっていませんでした。

今日したメニュー。商品の名前。それぞれの金額。合計金額。

そして、お客様に「今日はこんなことをさせていただきました。」ということが分かるようにお渡しすること。

17年前の私も、今の私も、同じことを考えていました。
その一枚を見ながら、当時の自分を思い出しました。
まだお客様も少なくて、時間だけはたくさんあった頃。

「これでいいんかな。」と迷いながらも、

「でも、お客様には分かりやすい方がいいよな。」
そう思って、一枚ずつ書いていた頃。

あの頃の私は、完成されたお店を作れていたわけではないす、今みたいに整っていたわけでもないけど
お客様に安心して通っていただきたいという気持ちは、今と何も変わっていませんでした。

きっと、お店づくりって、こういうことなんやと思います。

大きなことを一つすることではなく、その時の自分にできる方法で、一つずつ形にしていくこと。
印刷できないなら手書きで作る。既製品しかなければ工夫する。
完璧じゃなくても、「お客様にとって分かりやすい方はどっちかな。」を考え続ける。

その積み重ねが、少しずつ今のお店を作ってくれたなと思っています。

16年前の一枚の紙は、昔の伝票というより、当時の私からの手紙みたいでした。

「あの頃も、この気持ちでやってたよ。」

そう言われたような気がして、なんだか少し嬉しくなりました。

だから私は、今でも新しいものを作る時、あの一枚を思い出します。

形は変わっても、お客様に安心していただきたいという気持ちだけは、これからも変えずに、お店を続けていきたいと思っています。

いいなと思ったら応援しよう!