「今週は美容室やから、それを楽しみに頑張れてん。」
ある日、お客様が、いつものように笑いながらそう話してくださいました。
私はその言葉を聞いた瞬間、「ありがとうございます。」という気持ちよりも先に、胸の奥がじんわり熱くなりました。
髪が伸びてきたから。
カラーが気になってきたから。
そういう理由で美容室へ来られる方はたくさんいらっしゃいます。
もちろん、それは美容室として、とても自然なことなんですが
その方がおっしゃってくださったのは、そういうことではなっかたんですよね。
「今週は美容室やから。」
その言葉の中には、「髪を切る日」という意味だけじゃなく、「あのお店で過ごす時間」が入ってるということ。
その時間を楽しみに一週間頑張れた。
その時間があると思うと、仕事ももう少し頑張ろうと思えた。
そういう意味だったんです。
その言葉を聞いた時、私は17年前、お店を始める前の自分を思い出しました。
私は、お店を作る時、「人気の美容室を作りたい」と思っていたわけではないし「予約がいっぱい入るお店を作りたい。」それだけでもないです。
もちろん、お客様に来ていただかなければ、お店は続かないし、
絶対、売上も必要です!!
でも、その前に、どうしても作りたい景色があったんです。
それは、「髪を切りに行く場所」ではなく、「行く日が楽しみになる場所」でした。
子どもの頃、遠足の前の日って、なんだか眠れないくらい楽しみだった記憶がありませんか?
旅行の予定がある週は、それだけで仕事を頑張れたりしますよね。
友達との約束があるだけで、「あと少し頑張ろう。」と思えるじゃないですか?
私は、美容室もそんな存在になれたらいいなと思っていました。
「髪が伸びたから行く。」ではなく、「今週は美容室の日や。」
そう思うだけで、少し気持ちが軽くなるような場所。
美容室へ向かう時から、もう気持ちが少しほぐれていくような時間。
ドアを開けた時に、「こんにちは。」と自然に笑えて、「今日も来れてよかった。」と思える場所。
そんなお店を作りたいと思っていました。
だから私は、お店づくりを考える時も、このお店へ来るまでの時間。
ドアを開けた瞬間。椅子に座ってからの時間。
コーヒーを飲みながら話す時間。鏡の前で笑う時間。帰る時の気持ち。
家に帰って、「今日楽しかったな。」と思っていただけるところまでが、美容室の時間なんじゃないかなと思っていました。
だから、「髪をきれいにすること」はもちろん大切だけれど、それだけで終わるお店にはしたくなくて・・・
私自身、美容師という仕事が好きです。でも、それ以上に、人と過ごす時間が好きです。お客様が笑いながら話してくださること。
「これ聞いてほしかってん。」と、その日にあった出来事を話してくださること。
一緒に笑って、「それ、面白いですね。」と言い合えること。
そんな何気ない時間が、私は大好きです。
だから、「美容師だからこう話さないと。」という接客よりも、その方と自然に話せる空気を大切にしたい!
そんなふうに17年間お店を続けてきて、お客様からいただく言葉も少しずつ変わってきました。
「明日、美容室やと思ったら嬉しくて。」
「今日はこの話聞いてもらおうと思って来てん。」
「主人に、美容室の人と仲良すぎやろって言われるねん。」
そんなふうに笑って話してくださる方もいらっしゃいます。
旅行へ行かれたお客様が、お土産売り場で私たちのことを思い出してくださったり、
「これ好きそうやな。」と、おすそ分けを持ってきてくださることもあります。
髪とは関係ありません。でも、私はそういう出来事が、とても嬉しい!
美容室へ来られた時だけ思い出していただく存在ではなく、日常の中でふと思い出していただける存在になれているんだなと思うからです。
あるお客様は、こんなことも話してくださいました。
「疲れたなぁって思う時に、『もうすぐ美容室や。』って思うねん。」
私はその言葉を聞いて、本当に嬉しかったんです。
髪が気になるから早く行きたいんじゃない。
この場所で過ごす時間が待ち遠しい。
その感覚を持っていただけたことが、何より嬉しかった。
私はずっと、「ワクワクするお店を作りたい。」とサロンづくりをしてきました。
でも今振り返ると、ワクワクという言葉だけではなく、「安心して帰ってこられる場所」だったのかもしれません。
仕事で疲れた時も。家のことでバタバタしている時も。
少し気持ちが沈んでいる時も。
「今日はあそこへ行こう。」そう思える場所。
無理に元気を出さなくてもいい。頑張って話さなくてもいい。
笑いたい時は笑って、静かに過ごしたい日は静かに過ごして、それでも帰る頃には少し気持ちが軽くなっている。
そんな時間を作りたかったんだと思います。
17年前、お店を始めた頃は、こんな未来になるなんて想像もしていませんでした。
ただ、「こんなお店があったらいいな。」という、自分の理想を一つずつ形にしてきただけでした。
働き方も。お店の雰囲気も。置くものも。お客様との話し方も。
全部、「こっちの方が心地いいかな。」を積み重ねてきました。
そして17年経って、お客様から、
「今週は美容室やから頑張れた。」
そう言っていただいた時、私はようやく気づいたんです。
あぁ、私が17年前に作りたかったのは、髪を切る場所じゃなかった。
この時間を楽しみに毎日を過ごしていただける、そんな場所を作りたかったんやな~。と。
その景色を、お客様の一言が教えてくれました。
だから私は今でも、「次もあの時間が楽しみやな。」と思っていただけるお店でありたいと思っています。
その積み重ねが、きっと小さな美容室だからこそ作れる、一番大切な価値なんじゃないかなと思っています。
