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《14》韓国の独立系書店 「계절책방 낮과밤(natbambooks)」訪問記 【ソウル・望遠洞】

 6歳の息子が小学校に入学して1か月。幼稚園の時より家を出るのが1時間早くなり、私は朝から小言の多い親になった。「早く起きて」、「あと5分で食べ終わらないと遅刻するよ」、「残り3分で家出る時間だよ!」と。

 自分が子どもだったら、毎朝こんな風に言われると嫌に違いないのだが、まだ時間の感覚がよくわかっていない6歳児を前にすると、「親が言わんで誰が言う」という気持ちになり、つい口うるさくなってしまう。だけど毎朝思うのだ。「時計とにらめっこして『はやく、はやく』と言うのはもう嫌だ~!」と。

 そんな小言だらけの日々から解放された土曜の朝。新聞のブックレビューを読んでいると、私たちのような親子の姿を描いたともいえるユニークな絵本が紹介されていた。昨年日本で『おかあさん観察図鑑』(わたなべなおこさん訳)が翻訳出版されたクォン・ジョンミンさんの新刊『시계탕(直訳:時計湯)』だ。

 物語は、いつも時間にうるさいお母さんが、ある日突然時計になってしまう場面から始まる。最初子どもは自由や解放感を味わうが、お母さんはずっと動かないまま。「これは困った」と時計を直してくれる人を探すうち、森の中の温泉にたどりつき…というストーリー。

 早速取り寄せて読んでみた。私も息子も「口うるさいお母さんが時計になってしまう」という設定にワクワク。読みながら、子ども時代、親が体調を崩した時に感じた不安な気持ちや、親になってから時々味わってきた「何もかも放り出して休みたい」という気持ちを思い出し、最後は自分も一緒に温泉につかり、ほろっと涙しているような気分になった。

 子どもがいようといまいと、毎日何らかの重荷を背負って生きている大人たちが、しばし心と身体を休められる場所。それが「時計湯」なのかもしれない。今まで7冊出版されてきたクォン・ジョンミンさんの絵本の中で、一番好きな1冊になった。

 そんな『시계탕』の原画展がソウル・望遠洞の書店で開かれると知り、早速訪ねてみた。場所は地下鉄6号線望遠マンウォン駅から歩いて6分の「계절책방 낮과밤(natbambooks)」。1階にカムジャタンの店が入っている建物の裏側にまわると入口があり、階段で3階へ上がった。

建物の裏側にまわると1階入口前に原画展のポスターが
3階に上がって右側の301号室へ
ドアには「気楽にお入りください」のメモが貼ってあった

 店主さんに確認すると、店内は撮影OKだったのだが、絵は実際に絵本を開いて楽しんでもらう方が良いと思ったので、引いた図で撮らせていただいた。

시계탕の原画展は2025年4月26日まで
4月10日(木)19時半~、クォン・ジョンミンさんのブックトークが開かれる。書店Instagramのプロフィールリンクから申し込み。参加費1万ウォン、先着15名

 クォン・ジョンミンさんが制作したという、絵本の中の登場人物や動物たちの人形も展示されていた。

時計になったお母さんと子ども
6歳児が気に入っていたヘビもここに

 入口の横には、クォン・ジョンミンさんのインタビュー集が展示されており、椅子に座ってじっくり読めるようになっていた。この絵本を作ろうと思ったきっかけや、自身の子育て経験、絵本を作ることに対する自問自答など、読みごたえのあるインタビューだった。

一枚いちまい丁寧に手書きされた原画とインタビュー集
店内の様子。3階なので窓からは空が見える。店内中央の机と椅子を使用する場合は、1時間2500ウォン支払うシステム

 「季節の書店」という名の通り、店内には季節ごとにテーマを決めて選んだ本を並べている書棚があった。この冬のテーマは「猫」、春のテーマは「日記」だ。そのほか数は多くないけれど、厳選されていることが見てわかる最新刊の小説やエッセイ、詩集、植物に関する本も並んでいた。

 私は、ここ最近書店巡りをするたびに探していたソ・ユミ作家の小説『밤이 영원할 것처럼(直訳:夜が永遠に続くように)』を見つけ、『시계탕』と共に購入。お店のスタンプがあるか聞いてみると、太陽と月と木のイラストが1つになった素敵なスタンプを貸してくださった。

 オープンして半年の間、お客さんにスタンプについて尋ねられたことがなかった様子の店主さんに、少し質問を投げかけてみると、なんと!この書店は小説家である店主さんと、イラストレーターであるもうひとりの店主さんが2人で運営しているお店だということがわかった。

クォン・ジョンミンさんの絵本に押したお店のスタンプ(左)。ソ・ユミさんの小説は色とりどりの葉っぱが描かれた美しい紙袋に入れてくださった(右)

 お二人は曜日を決めて交替で店番されていて、私がお話しした店主さんは、ムン・ジンヨン(문진영)さん。あとで調べたところ、ムン・ジンヨンさんは2009年、第3回チャンビ長編小説賞を受賞して文壇デビューされていた。

 ちなみに、第1回の受賞者はソ・ユミさん。日本では『終わりの始まり』と『誰もが別れる一日』という小説が翻訳出版されている。また、第7回は日本語翻訳された作品が多数あるチョン・セランさんが、『アンダー・サンダー・テンダー』という小説を書き、受賞者に選ばれている。

レジの下の書棚にはムン・ジンヨン作家の本が5冊あった
隣にはもうひとりの店主、イラストレーターのパク・ジョンウン(박정은)さんが手がけた書籍が

 店内には、お二人がそれぞれ選んだ推薦書が並んでいる書棚もあった。ムン・ジンヨンさんがパソコンの前で作業されていたので、「ここで小説を書きながら運営されているんですか?」と尋ねると、「そういう時もありますが、ほとんど家で書いてますね。家の方が書きやすくって」と笑顔で答えてくださった。

 今回この書店を訪ねたきっかけは、数年前に不思議なご縁で知り合った絵本作家、クォン・ジョンミンさんの原画展を見るためだったのだが、店内に流れる空気と置かれている本のラインナップが好みで、帰る前から「また来たい」と何度も思う、大好きな書店の1つになった。

 帰り際、入口のドアに貼ってあった望遠洞の手書きマップがとても素敵だったので聞いてみると、季節ごとに作っている書店のお便りだそうで、1枚くださった。もうひとりの店主、パク・ジョンウンさんがイラストを描かれたのだろうか。

 都心にいるはずなのに、森の中でひとやすみした後のような気分で店を出た後、少しずつ花を開き始めた木蓮や桜を見つけた。新しい季節の始まりに、新しい本や作家さん、素敵な書店と出会えたことに感謝しつつ、望遠洞を後にした。

【ソウル・望遠洞】
계절책방 낮과밤(季節の書店 昼と夜/natbambooks)

서울 마포구 월드컵로 113, 3층 301호
火~土、13時~19時


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