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親戚が帰るころ、子どもだけが少し仲良くなっていた日

親戚が集まる日は、最初だけ少し静かになる。

玄関で声がする。
「久しぶり」
「大きくなったね」
「何年生になったの」
大人たちは、すぐに話し始める。

でも子どもは、少し離れた場所に立っている。

笑っているような。
困っているような。
逃げたいような。
でも、ちょっと気になるような顔をしている。

親戚の子が来ても、すぐには遊ばない。

お互いに見ている。
でも近づかない。

片方が持ってきたお菓子の袋を見る。
もう片方が持っているゲームを見る。
床に置かれたバッグを見る。
でも、声はかけない。

大人は言う。

「ほら、遊んできな」

この言葉ほど、子どもを動かさない言葉もない。

子ども同士は、急に仲良くならない。

まず、距離を測る。
相手が何を好きか見る。
どのくらい話していいか確かめる。
前に会ったことがある気もするけれど、どこまで覚えているか分からない。

だから最初は、ぎこちない。

同じ部屋にいるのに、別々のことをしている。
同じお菓子を食べているのに、会話は少ない。
親戚同士なのに、少しだけ他人みたいな時間がある。

こちらは少し気になる。
せっかく来たのだから、一緒に遊べばいいのにと思う。

でも子どもには、子どもの速度がある。

しばらくして、片方が小さく言った。

「これ、見る?」

それだけで、空気が少し変わった。

出てきたのは、前に並べていた宝物だった。
シール帳。
小さなおもちゃ。
折り紙。
なぜか石。

親戚の子は、少し近づいた。

「これ、なに?」

聞かれた子は、待ってましたという顔をした。

そこから急に説明が始まる。

「これは、キラキラのやつ」
「これは、まだ使わない」
「これは、音が鳴る」
「これは、拾った」
「これは、リーダー」

リーダーは人形だった。

説明される側も、だんだん前のめりになる。
最初はうなずくだけだったのに、途中から自分の話も出てくる。

「うちにもある」
「それ知ってる」
「これ、貸して」
「じゃあ、こっち使っていいよ」

さっきまで遠かった二人が、いつの間にか同じ床に座っている。

大人が用意した座布団には座らない。
テーブルの周りにもいない。
なぜか部屋の隅で、宝物を囲んでいる。

子どもは、名前より先に遊び方で近づいていく。

大人は親戚の関係を説明する。

「この子は、あなたのいとこで」
「お母さんのお姉ちゃんの子で」
「前にも会ったことあるでしょ」

でも子どもにとって大事なのは、そこではない。

その子が何を持っているか。
何を面白がるか。
貸したら返してくれるか。
同じことで笑えるか。

その確認が終わると、距離は急に縮まる。

しばらくして、部屋から笑い声が聞こえた。

さっきまで遠慮していた声ではない。
家の中に、少しだけ子どもだけの時間ができていた。

大人たちは台所で話している。
お茶を入れる。
お皿を下げる。
昔の話をする。
誰が何歳になったとか、どこの学校へ行ったとか、仕事がどうとか、そういう話をする。

その間、子どもたちは別の場所で、別の親戚関係を作っている。

血のつながりより先に、
シール帳がある。
おもちゃがある。
お菓子がある。
笑ったタイミングがある。

親戚になるのは、大人より子どものほうが少し遅い。

でも、仲良くなる時は急である。

帰る時間が近づくころ、なぜか一番楽しそうになっている。

「もう帰るの?」
「次いつ来る?」
「これ、また見せるね」
「今度、持ってくる」

最初のぎこちなさは、どこかへ行っている。

靴を履く玄関で、子どもたちは急に名残惜しそうになる。
さっきまで話しかけるのにも時間がかかったのに、帰る直前になって話すことが増える。

こちらは思う。

もう少し早く仲良くなればよかったのに。

でも、たぶん違う。

あのぎこちなさも必要だったのだ。
少し離れて見る時間。
相手を確かめる時間。
自分の宝物を見せるかどうか決める時間。

子どもは子どもなりに、ちゃんと距離を測っていた。

親戚が来る日。
大人は久しぶりを話す。
子どもは、少しずつ初めましてをやり直す。

そして帰るころになって、ようやく同じ床で笑っている。

親戚が集まる日は、家の中に少しだけ気を遣う時間がある。
でもその奥で、子どもたちは子どもたちの速さで近づいていく。

最初は遠い。
途中で少し近い。
帰るころに、やっと名残惜しい。

子どもの親戚づきあいは、いつも少し遅れてあたたまる。

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©2026 Nasu Takako

▼ 読み切り集|短い物語に、余白を残す

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