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たとえバディがいなくても──実写版「ルックバック」(少々ネタバレ有り)


・バディに憧れて


相棒バディ」への強い憧れがある。
 赤の他人が時には手を取り合い、時にはぶつかり合いながら、互いの欠けた部分を埋め合って一つの目標へ進む。親友・恋人・夫婦とは一風異なるそうした関係性に、私はつい羨望の眼差しを向けてしまう。これまで過ごしてきた人生の中で、苦楽を共にした人々はいるものの、バディとまで呼べる存在とは出会わなかったからだ。
 だからこそ、私はバディを描く創作物、いわゆる「バディもの」へ惹かれてしまう。今般実写映画が公開された「ルックバック」も、そのような作品の一種だ。


 学級新聞向け四コマ漫画への強い創作意欲を持つ主人公:藤野は、極めて高い風景・背景画力を持つもう一人の主人公:京本に触発され、独学ながらも本格的な絵の勉強を始める。やがて、運命的な出会いを果たした二人は共同で短編作品の制作を始め、順風満帆な創作活動を行ってプロの道へ近付くのだが……という本作。原作発表時に大変話題を攫ったため、多くの方がその後の展開を存じ上げていると思われるが、一旦は粗筋をここまでに留めておく。

・実写版「ルックバック」感想


 さて、「ルックバック」は原作漫画もアニメ映画版も優れた作品だと感じたが、今般の実写版も例に漏れず良い作品に仕上がっていた。
 基本的な流れは原作を丁寧になぞりつつも、単純に映像を二次元から三次元に置き換えただけの適当な実写化をせず、格調ある長編実写映画になるよう丁寧にチューニングされていたように思える。


 主人公二人の共同作業によるアナログ漫画の制作過程が詳しく描かれる一方で、実写では不自然になってしまう二次元的モノローグ台詞(とある悲劇の後の慟哭)は排除される等、長編実写映画化用の改変はほぼ完璧と言ってよい。
 藤野の家族が絵の練習に協力する日常描写、藤野が本名を書く際に一瞬手が止まる(サイン慣れしてペンネーム「藤野キョウ」を書きかけた?)等、追加シーンも良い塩梅だった。小学校の担任教師や担当編集者も、原作より出番が増えているが決して物語の邪魔にならない。特に、担当編集者は漫画家にとって伴走者にも例えられる、ある種のバディと言える職業。存在感が増したのも納得だ。藤野と恋仲になる……といった余計な改変が無いのもありがたい。


 見せ場の「キック」については二次元だと気にならなかったリアリティラインが三次元化によって妙にブれてしまい、豪華ゲストによる派手なBGM演出も相まって若干の共感性羞恥を覚えなくもなかった。だが、「なら対案を考えてみろ」と言われたとしても全く浮かばないので、あの描写が最適解だったのかもしれない。


 ともあれ、かつて漫画・アニメ映画で二度味わった「ルックバック」の物語に、新たな味付けを加えて三度目を味わわせてくれた是枝裕和監督ほか実写版キャスト・スタッフ一同に、心から感謝したい。

・たとえバディがいなくても



 作品の最終盤において、二人が直接的交流を一切持たずバディにならなかった──出会わなかった場合の「もうひとつの人生」が、主に京本の視点から描かれていく。共作漫画は誕生しない代わりに、二人が別れを経験することもなく、別の形で出会いを果たす。実写版においては、その「もうひとつの人生」がより細かく描写されていた。


 藤野の導きがなかったとしても(新聞四コマからの間接的影響はあるかもしれないが)、京本は引き篭もりを脱してフィールドワークをしながら筆の腕を磨き、背景美術に惹かれて画業の道を志すようになる。藤野と初対面を果たす会話シーンでは、かつての対人不安も乗り越えて物怖じせず喋る様子も見てとれた。


「バディもの」の視点で本作を観た際、これまでは道を違えてバディを解消する運命の悲しさ、その先に訪れた更なる喪失の悲しさにばかり目を向けていたことに気が付いた。途中までは幸せな生活を営んでいた二人の姿を見た後、「出会わない方が幸せな人生を送れたかもしれない」という可能性の明示は、自分にとってはあまりにも酷だった。

 しかし、今回の実写版で、私は改めて一人でも人生を立派に生き抜こうとする京本の姿を目の当たりにした。たとえバディとの出会いを得られなかったとしても、それはそれで立派な人生の一つなのかもしれないと納得できるようになった。
 現実はフィクションのようには事が運ばない。頼れるバディがいようといまいと関係ない。指を咥えて羨ましがるのも程々にして、創作も仕事も人生も、最終的には自分の力だけで道を切り開くしかない。スクリーンの向こうから、そのように諭された気がする。


入場者特典。
なお、サムネイル画像は映画公式サイトより引用しました。

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