ネタバレを踏む前に読んでほしい、西宮の青春音楽小説『イージー♡ライター』
こちらは作者目線ではなく、映画レビューサイトやカルチャーメディアに掲載されていそうな、第三者目線の紹介記事をイメージして書いた【架空の記事】です。
ネタバレはありませんので、本編を読む前でも安心してお楽しみください。
スマホも、ガーデンズもなかった頃
二人の女子高生が鳴らした、名前のない青春
2005年から2007年、西宮。
古いギターケースの匂い。
誰かが置きっぱなしにした制汗スプレー。
黄ばんだコード譜。
端の丸まった文化祭のポスター。
『イージー♡ライター』は、そんな少し湿ったフォークソング部の部室から始まる。
物語の中心にいるのは、先輩と後輩の女子高生二人。
ギターを持つ人と、その隣で歌う人。
まだ一曲も書けない二人には、演奏よりも先に、少し変わったユニット名がつく。
イージー♡ライター。
軽くて、少しダサくて、どこか二人らしい名前だ。
第一話「イージー♡ライター」
第二話「私の左手」
第三話「デイ・ドリーム・ビリーバー」
第四話「アクタ前で一回だけ」
第五話「写真を撮らなかった日」
全五話。
この作品には、青春音楽小説にありがちな、派手な成功物語はない。
演奏が上達し、大きなステージで喝采を浴び、二人の友情が永遠になる。そんな分かりやすい物語ではない。
描かれるのは、もっと小さなことだ。
ギターを持つ手。
うまく鳴らない弦。
くだらない会話。
突然始まる予定外の音。
呼びかけるタイミングを失っていく距離。
けれど、その小ささこそが、この作品の強さになっている。
人に楽器を合わせるのか。
楽器に人を合わせるのか。
できないことを、なかったことにするのではなく、その人が鳴れる形を一緒に探す。
その考え方が、説教や説明ではなく、女子高生二人の会話と手元を通して静かに描かれる。
そして、各話には一曲ずつ「この話の音」が置かれている。
奥田民生。
THE BLUE HEARTSにつながる一曲。
タイマーズ。
ASIAN KUNG-FU GENERATION。
GO!GO!7188。
ただし、音楽の聴き方は強制されない。
先に聴いてもいい。
読み終えてから聴いてもいい。
再生せず、自分の記憶の中で鳴らしてもいい。
曲は物語を説明するためのBGMではない。
文章と音楽が互いの意味を書き換え、読者の中に眠っていた青春まで呼び起こしていく。
バンドをしていた人には、アンプにつないだ瞬間の高揚が聞こえるだろう。
音楽をしていなかった人にも、なぜか自分の高校時代が浮かんでくるはずだ。
『エイトセカンズ』
『ほぼすべ』
その世界のどこかにつながる物語でありながら、本作だけでも独立した青春小説として楽しめる。
まずは第一話だけでもいい。
少し湿った部室の扉を開けるつもりで、読んでみてほしい。
きっと第五話を読み終えたあと、昔よく聴いていた曲や、もう名前を呼ばなくなった誰かのことを、ふと思い出す。
これは、音楽を読む小説ではない。
あなたに鳴らす小説だ。
文・架空野 雷太
▼イージー♡ライター|第一話 イージー♡ライター
