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7月18日のオプション市場分析 半導体株がついに弱気相場入り

7月17日、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)が3日続落となり、6月末につけた最高値から20%超下落して弱気相場入りの水準に達しました。
日経平均も週間で過去最大となる下落幅を記録し、AI・半導体相場の過熱感に対する警戒が一気に表面化した1週間になりました。

今日取り上げるべきニュースは主に3つです。
ひとつは中国のMoonshot AIの新モデル「Kimi K3」、
もうひとつはキオクシアの急落、
そしてもう一つ見逃せないのが半導体セクター全体の弱気相場入りと、その発端となったメモリー市場での中国勢台頭です。
あわせて、決算を受けて急落したIntuitive Surgical(ISRG)の事例も、AI相場一辺倒だった今の地合いを理解するうえで参考になります。

Kimi K3 ─ 「オープンウェイトで初の3兆パラメータ級」

中国Moonshot AIが7月16日、新モデル「Kimi K3」を発表しました。
約2.8兆パラメータのMixture-of-Expertsモデルで、100万トークンのコンテキスト長と常時思考モードを備え、オープンウェイトモデルとしては過去最大級です。
完全なWeightの公開は7月27日に予定されています。

ベンチマーク上はClaude Fable 5やGPT-5.6 Solには及ばないものの、Claude Opus 4.8をわずかに上回る水準にあるとされ、独立系の評価機関Artificial Analysisのインテリジェンス指数でも全189モデル中4位につけました。
フロントエンドコード生成のブラインドテスト「Arena」では総合1位を獲得するなど、分野によっては最上位モデル群を上回る結果も出ています。

ここで重要なのは、これが単発の技術ニュースではなく、後述する半導体・メモリー市場の地殻変動と同じ文脈にあるという点です。
中国発のオープンウェイトモデルが着実に性能差を縮めていることは、「AI投資の正当化が難しくなりつつある」という米国市場の懸念(後述のSOX弱気相場入りの背景説明でBloombergが指摘した論点)とも響き合っています。
米国の総合力トップモデルに実質追いついてしまえば、莫大な計算資源投資の限界的なリターンに疑問符がつきやすくなるためです。

キオクシア急落 ─ 特許訴訟と「AI相場の巻き戻し」

キオクシアホールディングス(285A)は7月16日に約15%安、17日にも一時ストップ安(前日比16.1%安の5万2110円)となり、6月22日につけた上場来高値11万2700円からわずか1カ月足らずで半値以下まで下落しました。
時価総額の消失額は約30兆円規模とされています。

急落の直接的な引き金として報じられているのは、米テキサス州の連邦地裁で16日(現地時間)に出た評決です。
衛星通信会社Viasatの特許を侵害したとして、キオクシアに約2億2900万ドル(約370億円)の賠償を命じる内容で、同社は特許の無効を主張して争う姿勢です。

ただし各紙が指摘する通り、これはキオクシア固有の悪材料というより、より大きな流れの一部と見るべきです。
前々日の7月13日にも同社株は約13%安となっており、背景には米国発の半導体株安、中東情勢の緊迫化への警戒、そして3連休を控えたポジション調整の売りが重なっています。
年初来では依然として大幅な上昇圏にあり、株価が「上がりすぎた反動」という側面もある点は押さえておきたいところです。

SOX弱気相場入りの発端 ─ Micronと中国メモリー勢CXMTの台頭

今回の半導体株安の起点は、7月15日の米国市場でのMicron Technology(MU)株の急落(-7〜8%)でした。
中国のメモリーメーカーCXMT(長鑫存儲技術)が上海STAR市場で約85億ドル規模のIPOを計画していると報じられたことに加え、AppleがChina向け端末でCXMT製チップの試験採用を検討しているとの情報も重なり、DRAM市場での価格競争激化への懸念が一気に広がりました。

この流れはAMD、Intel、Marvellを含むセクター全体に波及し、17日の米国市場ではSOX指数が一時5.7%安となり、6月末の最高値から20%超の下落で弱気相場入りの技術的な目安に到達しています。ロイターの報道では、S&P500に占める半導体セクターの比率が3〜4年前の8%から現在は20%超にまで拡大しており、半導体株の値動きが指数全体を左右する構造になっていることも指摘されています。台湾TSMCが四半期利益77%増という好決算を出したにもかかわらず株価が下落したことは、このセクターへの期待がいかに高まっていたかを表しています。

好決算でも売られたIntuitive Surgical(ISRG)

半導体以外では、手術支援ロボット大手Intuitive Surgical(ISRG)が7月16日の決算発表を受けて12〜14%と大きく下落しました。
これも今の相場の性格を理解するうえで示唆的です。
売上・EPSともにアナリスト予想を上回る好決算だったにもかかわらず、手術件数の伸び鈍化や、ACA(医療保険制度改革法)の優遇税制失効に伴う保険適用縮小への懸念、さらにda Vinciの一部部品に関するクラスII回収がガイダンス慎重化の材料となり、株価は年初来で3割超下落する局面に入っています。
「好決算でも売られる」という現象は、半導体セクターだけでなく、高いバリュエーションを織り込んできた成長株全般に広がりつつある可能性を示しています。

オプション市場分析

まず目を引くのは、Bloom Energy(BE)のプット買いです。155ストライク(現在価格214.96に対して大幅にOTM)のプットがVol/OI 111.87倍、IV240%超という極端な水準で取引されており、10月限の145ストライクプットでもVol/OI 38.50倍・IV147%と、複数の限月にまたがってプット買いが積み上がっています。
BE自体は本日+3.98%と上昇しているにもかかわらずこれだけのプット需要があるのは、急騰後の利益確定ヘッジ、あるいは今後のバリュエーション調整を見込んだポジションと考えられます。

対照的に、暗号資産マイニング関連のWULF(TeraWulf)やCORZ(Core Scientific)では、深いITMのコールにVol/OIが40〜76倍という水準の買いが入っています。
半導体セクター全体が売られる中でも、マイニング・データセンター関連には根強い資金流入があることがうかがえます。

NVDA(NVIDIA)では215ストライクの深いITMプット(デルタ-0.86前後)にVol/OI 38〜39倍の買いが集中しており、本日-2.21%という下落の中でのヘッジ、あるいは方向性の強いベアポジションとみられます。同様にTSM(台湾セミコンダクターADR)でも325ストライクのプット(デルタ-0.10、IV64.69%)にVol/OI 28倍超の買いが入っており、好決算にもかかわらず株価が下落したという冒頭のニュースと整合的です。

やや変わり種としては、INOD(Innodata)の30ストライクプット(現在価格に対して-50.67%という極端なOTM、デルタ-0.025)にVol/OI 28.75倍という買いが見られます。
デルタがほぼゼロに近いにもかかわらずこれだけの出来高が集中するのは、宝くじ的な投機ポジションか、あるいは特定の材料を見込んだ仕込みの可能性があります。

もう一つ興味深いのがNKE(ナイキ)の2028年6月限プット(ストライク60、現在価格43.76に対して大幅ITM)で、2年近く先の限月にVol/OI 27倍の出来高がついています。
これは短期的な思惑ではなく、長期的な業績見通しに対するヘッジや弱気の構造的なポジションと見るのが自然です。

META、TSLAについては、複数のストライク・複数の限月(META は650〜705ドルのコールが07/20・07/22・07/24に分散、TSLAは375〜405ドルのコール・プットが07/20と09/18に分散)に厚みのある出来高が確認でき、いずれも決算を控えたポジション調整の色彩が強いパターンです。

特にTSLAは7月23日前後に決算を控えており、コール・プット双方に出来高が積み上がっている点は、方向感よりもボラティリティそのものを取りにいく動きと解釈できます。

スプレッド市場に見るAAPLの「特異性」

もう一つ興味深いのが、本日+0.14%と主要ハイテク株の中で唯一プラスで踏みとどまったAAPL(Apple)です。
IVランクが85.28%と極めて高い水準にあるにもかかわらず、垂直スプレッドのスクリーナーでは強気・弱気の両方向でAAPLが上位を占めています。

ガンマエクスポージャ

まず、ガンマフリップが遠く下にあります(279.41 vs 現在値333.74)。
AAPLの場合、ガンマフリップが現在値よりも50ドル以上下にあり、市場はディーラーが「ロングガンマ」の状態にどっぷり浸かっています。ロングガンマの局面では、株価が動くたびにディーラーが逆方向に売買してヘッジするため、値動きが抑制され、下にも上にも「クッション」が効きます。
半導体株が全面安になる中でAAPLだけ+0.14%で踏みとどまれたのは、まさにこの効果だと考えられます。

345ドル・350ドルあたりに巨大なコールの壁(OI 5〜6万枚、ガンマ66〜70M)があり、320・330ドルにも同規模の山があります。
一方プットは300ドル付近(OI約5万枚)が最大で、それ以外はかなり小粒です。
つまり「株価が下がったら買い支える」プットの壁より、「株価が上がったら上値を抑える/それを踏み越えたら加速する」コールの壁の方が明らかに厚いという、コール優位の非対称な構造になっています。

具体的には、プロフィット確率上位のブルコールスプレッド(305C買い/320Cや325C・330C売りなど)にAAPLが多数ランクインしている一方、ロスプロバビリティが低い(=安全性が高いとされる)ブルプットクレジットスプレッド(305P売り/270〜300Pあたり買い、ブレークイーブンは現在価格から約9〜13%下の水準)にも同様にAAPLが並んでいます。
つまり、方向性としては強気・中立の双方から「プレミアムの高さを利用したい」というニーズが集中しているということです。半導体・メモリー株が全面安となる中でAAPLだけが底堅かったことが、この「プレミアム丸取り」的な需要を呼び込んでいる可能性があります。

これだけ厚いコールOIがあると考えられる背景は2つあります。
①投資家がコールを買っている(純粋に強気)、
②IVランクが85%超と割高な状況を利用して、機関投資家が保有株に対してカバードコールを売っている(インカム狙いで、必ずしも強気ではなくむしろ上値を売っている)。
どちらの場合もディーラー側はコールをショートして株を買いヘッジする格好になるため、見た目のガンマ構造は同じになります。
AAPLが強気・弱気両方のスプレッド戦略の上位に並んでいたことを思い出すと、②の「高いIVを利用した収益化」の要素もかなり大きいと考えた方が実態に近いかもしれません

一方、ベアコールクレジットスプレッド(=上値を売る中立〜弱気戦略)のスクリーナーでは、PEP、WMT、MCD、COST、BRK.Bといったディフェンシブ・生活必需品セクターの銘柄が目立ちます。これらはIVランクが11〜19%程度と低く、ブレークイーブン幅(BE%)も6〜11%と比較的広めに確保されています。
半導体株から資金がディフェンシブ・内需セクターへ一部シフトしているという、本日のマーケット概況とも整合的な構図です。

最後に、ブルプットデビットスプレッド(下落を見込むポジション、プロフィット確率上位)にはNFLX、TSLA、NVDAが並んでいます。IVランクはいずれも36〜43%程度とAAPLほど極端ではありませんが、直近の急落を受けてさらなる下値を取りにいくポジションが一定数存在していることを示しています。

まとめ

今日のポイントは、
①Kimi K3という「AIの実力差が縮まっている」象徴的なニュース、
②キオクシアの特許訴訟という個別材料、
③その裏側にあるMicron/CXMTを発端とした半導体全体の需給悪化とSOXの弱気相場入り、
④好決算でも売られるISRGに象徴される「高バリュエーション銘柄への値付け直し」という4層構造で捉えると理解しやすいと思います。

オプション市場では、BEやNVDA、TSMのプット買いに見られるような弱気ヘッジ、WULF・CORZなど一部テーマ株への根強い資金流入、そしてAAPLの高いIVランクを軸にした双方向のスプレッド需要が同時に観測されました。
方向感が一様ではなく、セクター内・銘柄間での選別が急速に進んでいる相場だと言えそうです。

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