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スパイク・リー/デンゼル・ワシントン『天国と地獄 Highest 2 Lowest』

 スパイク・リー監督と名優デンゼル・ワシントンのコンビによる『天国と地獄 Highest 2 Lowest』(原題:Highest 2 Lowest)。

 これは評価が難しい作品だなぁと思う。

 本作は1963年の黒澤明監督による『天国と地獄』(原題:High and Low)のリメイク。舞台をニューヨークとし、レコードレーベルCEO、デヴィッド・キング(デンゼル・ワシントン)が主人公。キングの息子が何者かに誘拐され、巨額の身代金を要求される。ところが犯人は誤って息子の親友をさらってしまったのだった。しかもその少年はキングの腹心とも言える運転手の息子でもある。自分の息子の無事を喜んだのもつかの間、キングは息子の代わりにさらわれた少年のために身代金を払うべきか否か......

うんちく:黒澤版『天国と地獄』は1959年のエド・マクベインの小説『キングの身代金』(原題:King's Ransom)を元にしている。デンゼル・ワシントンの役の名前「キング」はおそらく、ここから。

 個人的な結論を先に書く。後半でデンゼル演じるキングと、A$APロッキー演じるラッパーのヤング・フェロンがラップ・バトルを行う。ブロンクスのさびれた建物の地下にあるスタジオで他には誰もおらず、まさに一対一の対決。

Yung Felon (若き重罪犯)と King(王)
原題は「Highest 2 Lowest」(最高の高みからどん底へ)

 ヤング・フェロンがストリート仕込みの虚勢を張りながらもキングにグイグイとねじ込まれて内面を徐々に漏らしていく。その緊張感たるや。この5分間のシーンのためだけに観てもいいと言えるほど。

 ただし、この作品はヒップホップ映画ではない。スパイク・リー・ファンは知っての通り、彼はヒップホップ通ではない。自身の作品のBGMにはジャズ、オーケストラ曲をよく使う。

 今年71歳となるデンゼルにもヒップホップのフレイヴァーはない。デンゼルの役はかつての Diddy や Jay-Z を思わせるヒップホップ界の大立者でスーパーリッチなビジネスマン。ブルックリン/ダンボの高級マンション最上階に住み、黒人アートのコレクターでもあるのだけれど。

うんちく:Diddy と Jay-Z はともに1969年生まれの55歳。今は60代となっているヒップホップ第一世代が音楽で財産を作れなかったのを見て、「これではあかん」とヒップホップでお金を生むビジネス・モデルを打ち立てた世代。

 ラッパー転じてアントレプレナーとなった世代特有のギラつきと、それと相反するスムーズな抜け目のなさがデンゼル演じるキングにはない(『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』での悪役で見せた、まさにあの感じなんやけど)。

 多分、デンゼル本人とスパイク・リーもそれを知っている。キングとヤング・フェロンのラップ・バトルはだからこそ、ああいうスタイルなのだろうと思う。ここは皆さんに実際に見て判断してほしいところ。

 ↑ A$APロッキーはこの映画のために2曲を書き下ろし、物語のキーとなる「Trunks」はエラいかっこいい。

 それにしても本業がラッパーのA$AP(実生活ではリアーナの夫で子供たちの良きパパ。オシャレ番長でもある)がこんなに演技が出来るとは知らなんだ。

 加えてキングの運転手を演じているのが、あのジェフリー・ライト。今、もっともヴァーサタイル(なんでも演じこなす)な優れた俳優だと思う。私はジェフリー・ライトが出ていると、それだけで映画を見たくなる。

 あと、ヤング・フェロンの恋人ローザを演じたプリンセス・ノキアがとても良くて、でもノキアもラッパーと知ってびっくり。なんでこんなに演技が上手いねん。

 プリンセス・ノキアが実際にそうである通り、ローザはプエルトリコ系の設定。また、物語の途中でプエルトリコ系の一大イベントが登場し、実在のサルサ・ミュージシャンのコンサート風景もある。『ドゥ・ザ・ライトシング』ファンならお馴染みのプエルトリコ系俳優がカメオ出演もしていて、これは嬉しいオマケ。

うんちく:黒澤版では身代金の受け渡しは国鉄「こだま」で行われる。本作ではブルックリンからマンハッタンを経てブロンクスに向かう地下鉄で行われる。ザ・ニューヨーク!

 つまるところ、ニューヨーク・フレイヴァーには満ちているものの、ヒップホップとは縁のない俳優を使い、BGMに王道映画音楽、サルサ、ジェームズ・ブラウンを使いながら、それでもラップ・バトルをハイライトとする映画をスパイク・リーは作ったのだ。ほんま、なんというチャレンジャーや。(k.d.)

オマケのうんちく:
本作はスパイク・リーとデンゼル・ワシントンが組んだ5作品。前作『インサイド・マン』から19年も経っていることにびっくりした。光陰矢の如し。
1990:モ'・ベター・ブルース
1992:マルコム X
1998:ラストゲーム
2006:インサイド・マン
2025:天国と地獄 Highest 2 Lowest

デンゼル・ワシントンは黒人俳優としてアカデミー主演男優賞を受賞した2人目の俳優。史上初となったシドニー・ポワチエの受賞からなんと38年目のことだった。
1964:シドニー・ポワチエ (野のユリ)
2002:デンゼル・ワシントン (トレーニング デイ)
2005:ジェイミー・フォックス (Ray/レイ)
2007:フォレスト・ウィテカー (ラストキング・オブ・スコットランド)
2022:ウィル・スミス(ドリームプラン)

他方、黒人女優のアカデミー主演女優賞は、2002年のハル・ベリーのみ。この年、デンゼルとのダブル受賞で奇跡が起きたかと思ったものの、女優賞は後にも先にもハル・ベリーだけ。のみ。一人だけ。彼女だけ。嗚呼、ハリウッドよ…
2002:ハル・ベリー(チョコレート)


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