SE珠洲さんの奮闘 ~会議を止めるな~
背景
狭間(はざま)
プロジェクトマネージャー。事なかれ主義で、上司と現場の板挟みになりがちだが、本人はその問題を深刻に捉えていない。曖昧な判断が多く、リーダーシップに欠ける。
珠洲さん(すずさん)
中途入社で前職はIT業界ではない。明るく前向きな性格だが、忖度をせずズバッと正論を言うため、時に周囲を戸惑わせる。
二倉(ふたくら)
経験豊富なプロジェクトマネージャー。冷静かつ論理的だが、コミュニケーションが必要最低限に留まりがちで、周囲との距離を感じさせることも。
哲也(てつや)
元アメフト部出身の体育会系プログラマー。入社10年目の中堅社員でプログラミングの技術は高い。長時間労働を苦にしない。
お話の舞台
中規模のIT企業。クラウドサービスやソフトウェア開発を手がけ、官公庁や大手企業向けのプロジェクトを請け負っている。
この物語はそんな企業の一角で起こった決して他人事ではない「よくある話」だ。

起:不安とチャンスの間で
「明日の定例、俺、体調崩しちゃって出られそうにないんだ……ファシリ、代わってくれないか?」
そう言ってきたのは、いつもPM会議をまとめている狭間さんだった。
突然の依頼に戸惑いながらも、珠洲さんは「いい機会かもしれませんね」と微笑んで応じた。これまで何度も狭間の進行を横で見ていたし、会議の流れや空気感はわかっている"つもり"だった。
でも、実際に自分がやるとなると、少し違う不安が胸に広がる。 「……まあ、やってみないとわからないですよね」
その日の夜、珠洲さんは一人で会議資料を見直していた。アジェンダに沿って議論の流れをイメージし、関係者の立場や温度感も思い浮かべながら、メモを何度も書き直す。誰がどのトピックに敏感か、どこで議論が止まりやすいか――そんな予測も立てながら、静かに準備を進めていた。
「狭間さんは、きっとこういう風に考えてたんだろうな……」
資料に目を通す目は真剣だった。

承:空回る正義感
会議当日。予定どおり珠洲さんがファシリテーターを務める定例会議が始まった。
「本日は狭間さんの代わりに、私が進行させていただきます。どうぞよろしくお願いします」
周囲の空気は、やや静かだったが、メンバーたちはしっかり耳を傾けていた。最初の議題は、あるサブチームの進捗遅れだった。
「それでは、進捗遅れについて、何かリカバリ案があればお願いします」
珠洲さんの声に、間髪入れず返してきたのは哲也だった。今日は時間通りに出席していた。
「遅れてるなら、休日出勤してでも巻き返すべきです」
体育会系な口調と断言口調に、珠洲さんは一瞬戸惑う。だが、冷静に応じた。
「現在のスケジュールを見る限りでは、残業ベースでの対応でも可能かと……」
だが、哲也は引かない。
「いやいや、それ甘くないか?遅れは遅れなんだから、即対応が当たり前でしょ」
場の空気がピリつき始める。誰もが意見しにくくなり、静寂が会議室を包み始めた。

転:静かなる救世主
会議室の空気が張り詰めたまま、沈黙が流れていた。
珠洲さんは、声を出そうとして一度躊躇った。哲也の強い意見にどう切り返すべきか、頭の中で何通りもの返答が浮かんでは消えていく。
(このままだと、議論が硬直したままになる……)
一方の哲也も、内心では少しだけ焦っていた。自分の主張が場を支配してしまっていることに、気づいてはいる。ただ、それを引っ込める柔らかさがない。
その時だった。
「今の進行、少しだけ口を挟んでもいいかな?」
二倉が静かに口を開いた。
彼は空気を和らげるように、珠洲さんと哲也の発言を一つひとつ丁寧に整理し始めた。
「哲也の言う『早めの対応』も大事。ただ、今の状況なら、まずは残業ベースでの対応で十分かもしれない。全体の流れを止めずに進めるには、まずこの手を打ってみては?」
その一言で、場が少しだけ緩んだ。
「じゃあ、まずは残業前提で一週間様子を見よう。その上で、再度判断しましょう」
珠洲さんは、小さくうなずいた。
解説パート:会議を前に進める4ステップ
ステップ1:目的を明確にする
会議の冒頭で「何を決めたいのか」を共有すると、発言がしやすくなる。
ステップ2:アジェンダを事前に共有
準備の質が、会議の質を決める。
ステップ3:感情ではなく、状況に基づく進行
声の大きさよりも、根拠と配慮のある進行がチームを動かす。
ステップ4:結論とアクションの確認
話し合いの結果を明文化し、誰が何をするかを明確にする。

結:自分のことしか見えていなかったかも
会議が終わった後、珠洲さんは自席に戻り、少しだけ落ち込んでいた。
「結局、私の進行では結論が出せなかった……」
議事録をまとめながら、自分がもう少し早く軌道修正できていればと反省していた。
「どうすれば、みんなが気持ちよく話せる空気を作れたんだろう」
ふと、自分がファシリテーターとして“正しい答え”を出そうとしすぎていたことに気づく。
「もっと、みんなの視点を尊重する進行ができていたら……」
そこに、哲也が登場。
「今月、残業少なかったから給料減ってんだよねー。ちょうどよかったわ」
珠洲さんは呆れたように笑いながらも、心のどこかで思った。
「この人なりに、責任感があるからこそ強く言ってたのかもな……」
そして、ふと狭間の顔が浮かぶ。
「狭間さん、いつもこんな板挟みの中でやってたんですね……」

エピローグ:二倉の独り言
夜。オフィスの明かりが少しずつ消える中。
二倉は自分の席でPCに向かいながら、ふと考え込んでいた。
「ファシリテーターって、経験がものを言う役割だよな……向き不向きもあるかもしれないけど」
今日、自分が遅れて会議に入った理由。
実は、直前の別の会議でファシリに失敗し、議論が炎上していた。
そのことは、誰にも言わなかった。
彼の視線の先には、未送信のままの議事録が浮かんでいた。
