PMO二倉の自戒 ~立ち止まった時が成長のはじまり~
今回はこの記事に関してのお話
背景
狭間(はざま)
プロジェクトマネージャー。事なかれ主義で、上司と現場の板挟みになりがちだが、本人はその問題を深刻に捉えていない。曖昧な判断が多く、リーダーシップに欠ける。
珠洲さん(すずさん)
中途入社で前職はIT業界ではない。明るく前向きな性格だが、忖度をせずズバッと正論を言うため、時に周囲を戸惑わせる。
二倉(ふたくら)
経験豊富なプロジェクトマネージャー。冷静かつ論理的だが、コミュニケーションが必要最低限に留まりがちで、周囲との距離を感じさせることも。
お話の舞台
中規模のIT企業。クラウドサービスやソフトウェア開発を手がけ、官公庁や大手企業向けのプロジェクトを請け負っている。
この物語はそんな企業の一角で起こった決して他人事ではない「よくある話」だ。

起:穏やかな日常と小さな違和感
入社して数ヶ月、珠洲さんはようやく新しい職場に馴染み、肩の力を抜いて仕事ができるようになってきていた。最初の頃は出社するだけでも緊張で胃が痛くなったものだが、最近では顔見知りの同僚とも軽く冗談を言い合えるくらいだ。狭間の穏やかでどこか頼りない人柄にも慣れ、彼との何気ない会話に微笑みさえ覚えるようになっていた。
「お疲れさまです、狭間さん」
「お疲れ。今日も頑張ったね。じゃあまた明日」
いつもと同じように、優しい笑顔で手を振る狭間を見送り、珠洲さんはエントランスを出た。
外はすでに夕暮れで、オレンジ色の夕日がビルの窓を金色に輝かせている。
日常の安らぎ――。最初はそれを目標にして頑張ってきたはずだった。
しかし、ふと胸に芽生えたのは、小さな違和感だった。
(この毎日の繰り返しで、本当に良いのかな……?)
会社から駅へ向かう道すがら、淡い空の色をぼんやり眺めながら、珠洲さんの心はさざ波のように揺れていた。

承:日常に隠れたモヤモヤとは?
電車の窓に映る自分の顔を眺めながら、珠洲さんは考え込んでいた。
入社したての頃は、ただ無我夢中で仕事を覚え、業務の流れを掴むだけで精一杯だった。家に帰っても資料を広げては覚えることだらけで、毎日が必死だった。
けれど今は違う。自分なりに工夫し、効率的に仕事を進められるようになったし、周りの評価も悪くない。むしろ「馴染む」という目標はとうにクリアしている。
それなのに、心の底にぽっかりと小さな穴が空いたような感覚が拭えない。
(これ以上、自分はどうなりたいの?)
そんな問いが繰り返し浮かんでは、静かな心に波紋を広げる。
電車が駅に着き、周囲の乗客と一緒に珠洲さんもホームに降りた。人波に押されながらも、胸に湧き上がる感情だけは消えてくれない。
(仕事にも慣れて、できることが増えてきた。勉強だって続けてる。でも、何だろう、この物足りなさ……)
ふと立ち止まり、駅前の雑踏の中、街灯に照らされた自分の影を見つめる。行き交う人々は、それぞれの目標や目的を持っているように見えた。なのに自分だけは、目的地を見失ってしまった気がしていた。
(私は、何を探してるんだろう……?)
珠洲さんは、そんな問いに答えを出せないまま、またゆっくりと歩き出した。

転:二倉の助言
次の日の夕方、珠洲さんはデスクでぼんやり資料を眺めていた。
指先がキーボードの上で迷い、集中が途切れかけた時、後ろから静かな声が聞こえた。
「珠洲さん、ちょっといい?」
驚いて振り返ると、いつの間にか二倉がすぐそばに立っていた。淡い表情にはいつもの落ち着きがあり、珠洲さんの気持ちを落ち着かせる。
「はい、大丈夫ですけど……何でしょう?」
二倉は穏やかに目を細め、柔らかい声で問いかけた。
「最近、ちょっと元気がないみたいだけど、仕事で悩んでる?」
珠洲さんは動揺した。自分でもうまく言葉にできないモヤモヤを、人に見抜かれたことに驚きを隠せない。
「悩み……というか……。自分でもよくわからないんです。慣れてきて、仕事も問題なく進められているのに、満たされないというか……」
珠洲さんが目を泳がせて言葉を探していると、二倉はうん、と頷きながら静かに言葉をつないだ。
「わかるよ。その感覚、僕にもあったから」
珠洲さんは思わず顔を上げ、二倉の静かな眼差しを見た。自分だけじゃないと知り、胸が少し軽くなった。
「それは、たぶん君が成長している証拠なんだと思う。毎日に慣れ、余裕が出てくると、自分の次が見えてないことに気づいて不安になる。それは君が一歩前に進んだ証拠だよ」
珠洲さんの心に、二倉の言葉がじわりと沁みていく。
「今感じているその違和感を、大切にしてみたらどうかな。次はきっと、君が新しく踏み出すタイミングなんだと思うよ」
珠洲さんはその言葉をかみしめるように、ゆっくりと頷いた。

解説パート
仕事に慣れ、順調にこなせるようになった時、多くの人は安心感と共に、漠然とした焦りやモヤモヤを感じることがある。
それは決してネガティブなことではなく、自分自身が成長した結果、新たなステージを求め始めた証拠だ。
大切なのは、自分がどのように成長してきたかを振り返るとともに、次の挑戦を明確に意識し、小さくても良いから新たな一歩を踏み出すことだ。挑戦することで人はまた一つ先に進める。

結:次のチャレンジへの決意
その夜、珠洲さんは窓際の小さなテーブルで温かいお茶を飲みながら、二倉の言葉をゆっくりと繰り返していた。
(『違和感は成長している証拠』か……)
カップを持つ指に心地よい温もりが伝わり、心もじんわり温かくなった気がした。確かに最近、自分の中で何かが変わった。仕事をスムーズに進められるようになったのは嬉しいことだ。でもそれに満足し、新しい挑戦を忘れていた自分に気づかされる。
(やっぱり私、挑戦することが好きだったんだ)
かつて抱いていた情熱が、徐々に心の奥で再び燃え始める。明日から自分が踏み出せる次のステップは何だろう――。珠洲さんの胸の中で、少しずつ具体的な挑戦への思いが膨らんでいった。

エピローグ:二倉の自戒
夜の帳が降りたオフィスに、二倉は一人残っていた。暗い窓ガラスに映る自分の姿をじっと見つめながら、ふと珠洲さんとの会話を思い返す。
(メンバーを育てるとは、彼らの心に寄り添うことかもしれないな……)
自分自身もまだ道の途中だ。メンバー一人ひとりに、魅力的なキャリアの道筋を正しく提示できているか自問すると、答えはなかなか見つからない。
(正解はないのかもしれない。でも、自分が問い続けることで、彼らも前に進めるのなら……)
二倉は、静かに立ち上がって電気を消した。
深い夜の空気の中、彼自身もまた新たな課題と向き合っていた。
