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Let's image unknown creatures part 2〜深海生物を考えてみよう〜

深海と聞くと、皆さんはどんな光景を想像しますか。
「光が届かない闇の世界」
「水圧が異様に大きい過酷な世界」
「気味の悪い生き物が住んでいる世界」
きっと、こんな印象をお持ちのことと思います。実際、前者 2 つは深海特有の要素で、深海で暮らす生物はこのような環境に耐え得るように進化してきたと考えられます。そして、最後の印象ですが、これは人にもよるかなと思います。確かに私たちが普段目にする生物から考えれば、異様な外観を持つ生物も存在します。しかし、深海生物特有の外観は生物が深海に環境適応してきた結果であり、ちゃんとした理屈をつけて説明することもできます。そうした理屈を通して見ると、深海生物もまさに生命の神秘に満ち溢れた生物の一部として捉えられます。勿論、生理的に無理と言う方もいらっしゃると思います。逆に、あの見た目に刺激を受ける人もいるので、本当に人それぞれかなと思います。ちなみに、個人的には深海生物に知的興奮を覚えるので、見た目はほとんど気になりません。ーー前置きが長くなってしまいましたね。前回は地球外生命体をテーマにしましたが、今回は地球上に生息しながら、私たちの目に触れることなく暮らしている深海の生物を考えてみます。

では、深海魚が何かを考えるために、早速或る深海魚の動画を見て頂きましょう(注 1 )。見たくないという方は、動画を見ずに先に進んで頂いても構いません。ーー動画を見て頂けたでしょうか。これはデメニギスという深海魚の動画です。動画を見て頂いたところで早速質問ですが、皆さんは目をどこだと思いましたか。口の上の黒い部分でしょうか。それとも、もっと別な部分でしょうか。正解は、口の上の黒い部分より、さらに上にある緑色の部分です。これが目なの、と思われた方もいらっしゃると思いますが、黒い部分は単なる鼻で、目は葉っぱのような形をした緑色の部分です。もう一度言いましょう。目は葉っぱのような形をした緑色の部分です。気色悪いと思う方もいるかもしれませんが、実はこの目が中々高性能なのです。何が高性能なのかと言うと、この目は頭の透明な膜に沿って回転する仕組みを持っていて、正面も見れるし上も見れるという特殊な目なのです。ヒトなどは首を傾けないと上が見えませんが、デメニギスは正面に向かって泳ぎ続けていても上が見えるのです。そのため、上に獲物がいても、デメニギスは獲物の影をきっちりと捉えることができます。獲物の多くが上層にいる深海の生物だからこそ、きっとこんな目が出来上がったのでしょう。そして、光が余り届かない領域に住んでいますので、当然目の集光力は私たちの目よりも優れています。中々、いやかなりすごいと思いませんか。一見すると異様な見た目をしているデメニギスですが、まさに深海に暮らすために適応した姿と言えます。

さて、デメニギスを例にして深海生物が深海という環境に上手く適応していることを見てきました。そこで、そもそも深海とはどういうところなのかを改めて考えてみたいと思います。先ず、深海と一口に言っても、海底は幾つかの領域に分類されます。図 1 のように、 300 m から 3500 m を漸深海底、 3500 m から 6500 m を深海底、それより深い領域を超深海底と呼びます。当然ながら海の深さが深くなればなるほど環境も過酷になり、生存できる生物も少なくなってきます。ちなみに、さきほど紹介したデメニギスは漸深海底に住む生物ですので、それよりも深い領域に住む生物と比較して優しい環境に住んでいることになります。尤も、目が存在しているということは光がまだ到達する領域であるということであり、比較的優しい環境であることは想像できると思います。次に、深度が増すほど一体何が過酷になって行くのかということを見て行きます。深度が増すほど環境が厳しくなって行くのには、主に 2 つの要因があります。

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図 1 海底の深度区分(注 2 )

 1 つ目は光が到達しないことです。光が到達しないということは視覚が使えないという問題もありますが、視覚を退化させて他の器官(臭覚や聴覚など)を発達させれば何とかならないこともありません。それ以上に問題となるのは、光合成を行う植物プランクトンが存在しないということです。植物プランクトンは食物網の最下層に位置する生物であることから、植物プランクトンが存在しないと食物網が形成できなくなります。よって、深海の生態系では、多くの生物を養うエネルギーが生産できないことになります。つまり、深海の生物はそもそも食べ物に困るわけです。では、どのように暮らしているのかと言うと、海の上層から沈降してきた栄養物(マリンスノーと言います)を食べる小型の生物を食物網の最下層におき、そこから食物網を広げる形態をとっています。ただし、マリンスノーで養える生物の量は余り多くありませんので、自ずと生態系で養える生物量(バイオマス)も減少します。また、海底火山付近には硫黄細菌のような化学独立栄養生物と呼ばれる細菌が生息しているため、海底火山付近にはこの細菌を最下層とした生態系が形成されます。しかし、こちらも海底火山がある場所に限られるため、やはり深海全体でのバイオマス(注 3 )は減少します。従って、これが深海で暮らす際の問題になり、深海生物の現存量を低下させる要因になっています。

2 つ目は深度が増すほど水圧が大きくなることです。簡単な計算(注 4 )で算出できますが、深度が 10 m 増す毎に水圧は 1 気圧分、つまり約 1013 hPa 分圧力が大きくなります。そのため、例えば海底 10000 m の場所では 10000 気圧分の水圧が加わります。 10000 気圧と言ってもピンとこない方もおられるかもしれませんが、小指に 1 トンの重りが乗せられた状態を考えてもらえれば良いかと思います。小指に 1 トンの重りですよ。確実に小指の骨は粉々になり、二度と治らないかもしれません。そこまで極端でなくとも、深海に暮らす生物たちは常に高い水圧に晒されており、小指に 10 kg の重さが加わる程度の状況下で過ごしていることになります。私たち人間なら、絶対に生存できない環境です。では、どうやって圧力に耐えているのかと言うと、体の中に空気を詰めなければ良いわけです。空気などの気体は圧縮流体に分類され、簡単に圧縮されて潰れます。そこで、非圧縮流体の油脂を用いるか、そもそも流体を用いずに体を構成してしまえば潰されずに生存できます。深海魚に、バラムツのような蝋(ワックスエステル)をふんだんに含んだ生物がいるのはこのためです。また、オオグソクムシのように体を外骨格で覆ってしまうのもありで、この場合も高い水圧に潰されてしまうことはありません。従って、高い水圧に耐えるためには浮き袋に空気ではなく油脂を詰めるか、表面を外骨格(注 5 )で覆ってしまうかしかないわけです。後者はともかくとして、前者は海の浅い領域に存在しないタイプの魚ですので、やはり深海に耐え得るように適応してきた結果と言えるでしょう。ちなみに、深海魚を陸に引き上げると内臓が飛び出すなんて話を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、あれも高い水圧に適応した結果と言えます。当たり前のことですが、体を維持するためには、図 2 のように体に加わる水圧と内部からの圧力を同じ大きさにする必要があります。深海生物であれば高い水圧と釣り合う圧力が発生しているため、陸に引き上げて通常の大気圧下に晒されると内部の圧力が大きくなりすぎてしまい、中身が飛び出てしまうわけです。そのため、深海生物を陸に引き上げるのは、非常に難しいわけです。

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図 2 生物に加わる圧力のモデル図

以上のように、深海を過酷な環境にさせる要因には深海のエネルギー生産量が少ないことと、高い水圧が加わることの 2 つが挙げられます。深海に暮らす生物は、この過酷な環境に耐え得るように適応してきました。つまり、深海生物が持つ異様な外観や性質は、この 2 つの問題を解決するために生じてきたものなのです。こう考えて見ると、少しは気味の悪さも薄れるのではないでしょうか。現在では深海の水圧に耐えられる探査機も発達し、深海生物について少しずつ調べられるようになってきました。デメニギスの目の構造などは、実は 21 世紀になってから調べられたものです。しかし、現在でも深海にはまだまだ未知な生物がいると考えられています。特に、海溝領域はまだまだ未知な部分が多く、深度が 8000 m や 9000 m の世界にどのような生物がいるのかは明らかになっていません。前回のように宇宙に未知な生命が潜んでいる可能性もありますが、我々の住む地球上にも未知な生物はいるわけです。こうした未知な深海生物を想像してみるのも面白いと思いませんか。とは言え、深度が大きくなればなるほど、外骨格を持つ生物が増えてくるのではないかと考えられます。恐らく、小さな外骨格をもった生物が沈降してきたマリンスノーを食し、海のお掃除屋さんのような働きをしているのではないかと思います。地球外生命体に比べて夢がないな、と思われる方もいらっしゃると思いますが、宇宙人に比べれば妄想が入り込む余地はないのでしょぼく感じるのは仕方ないことです。しかし、地球上の海に未知な生物がいるという、その事実だけで私は十分に面白いと思っています。ひょっとしたら、想像もしていなかった生物が発見されるかもしれませんよ。実際、現在分かっている深海生物であっても、驚きに満ち溢れているのですから。

今回も最後まで記事を読んで下さり有り難うございます。本当は深海生物の写真を引用しようとも考えていましたが、生理的に無理という方もいらっしゃるかもしれませんので写真は引用しませんでした。デメニギスやオオグソクムシなど、興味があれば、是非インターネットなどで写真を見て頂ければと思います。さて、皆さんは深海についてどう感じたでしょうか。繰り返しになってしまいますが、私は生命の母なる存在である海に未知の生物がいるというだけで面白いと思います。海洋研究は宇宙開発に比べて或るものが分配されずらいため、中々研究が進んでいないという現状があるようですが、今後も深海の世界が解き明かされていって欲しいです。皆さんの考えを伺ってみたいところです。

次回も Let's image unknown creatures のシリーズを続けて、地球全体の未知の生物を考えてみたいと思います。これは単に地球上の生物多様性に起因しているもので、昆虫類を始め多くの知られていない生物がいると考えられています。そんな生物たちに想像を巡らせてみます。というわけで、次回の Let's image unknown creatures part 3〜生物多様性から未知の生物を考えてみよう〜も読んで頂ければ嬉しいです。


追記(2021年12月15日)
 note に数式エディターが追加されたことを受け、注釈 4 の数式を変更しました。それに伴い括弧部の問題も解決したため、取り消し線で修正しました。

注釈
注 1 :動画は J&T mixedblood さんのものを引用させて頂きました。詳しい情報は、参考文献 1 として記載しました。

注 2 :参考文献 2 の p.3 の図を元に Power Point で作成した図です。

注 3 :バイオマスと言うとバイオマス発電などを思い浮かべられる方が多いと思いますが、バイオマスは英語で biomass となるため、本来は生物の量(現存量)をエネルギーや質量で定量化したものです。それが、現在では意味を変えて生物由来の資源といった意味合いで、日常的に使われているわけです。従って、本記事では日常的な意味ではなく、本来の学術的な意味で使っていることを断っておきます。

注 4 :水圧は、海水の密度×海の深度×重力加速度という式で近似できます。よって、海水の密度 $${1030\!\  kg/m^3}$$, 重力加速度 $${9.81\!\  m/s^2}$$, 海水の深度 $${10\!\  m}$$ を用いると、水圧 P は $${P=1010\!\  hPa≒1013\!\  hPa}$$ となります。従って、凡そ $${10\!\  m}$$ で 1 気圧分水圧が大きくなります。(note で上付き文字ができないので、 Latexで数式を作って挿入しようとしましたが、やっぱり認識できませんでした。 note で上手く数式を書ける方法をご存知の方がいればご教示頂けると嬉しいです。)

注 5:私たち人では、内部の骨を骨格として体を支えています。このような内部に骨格を持つ構造を内骨格と言います。一方、エビや昆虫など外側に硬い殻を持ち、これを骨格としている構造を外骨格と言います。

参考文献
1 :J&T mixedblood 「深海魚デメニギス (Macropinna microstoma)」(2021/10/19現在)
https://www.youtube.com/watch?v=GwJjcrQLPrU&t=54s

2 :日本ベントス学会 編 「海岸動物の生態学入門」 海文堂(2021/2/1)


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