【小椋夏己文庫第1話】「起点・終点」(短編集小椋夏己のア・ラ・カルトより加筆修正)
割引あり
ある日突然、大切な人が人生からいなくなってしまう。そんなことがあることは、感覚としてはなんとなく知っていたが、まさか自分の身の上に起こるとは考えたこともなかった。
でも考えたことがあろうがなかろうが、起きる時は起きる。そうして父はいきなり私と家族の時間から姿を消してしまった。
春、年度末近いその日は父の会社の事務所の引っ越しで、いつもなら休みのはずの土曜日に社員全員が休日出勤をしていた。
「土曜日出勤だがその代わりに月曜日代休になる。日曜日は久しぶりに映画でも見に行こうか」
珍しく母とそんな話をしながら父は家を出たそうだ。まさかそれが最後の会話になるとも思わず。
夕刻、作業を終えて事務所も一段落。週明けからは気持ちよく仕事ができそうだ、予定のない者はこの後お疲れ様の食事会でも。社長がそんな話を始めた解散の場で、父はいきなり倒れて病院へと運ばれた。首に汗拭きのためのタオルを巻き、荷物運びをしたワイシャツの袖もまくったの姿のままで。
私はその日、たまたま父が運ばれた病院近くに遊びに出かけており、母からの電話で一番に駆けつけることができた。まだ父は救命室にいて、締め切った扉の内側で必死の救命をしてもらっているところであった。
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