恋ゆる虫
十日ほどの海外出張から戻ると、すっかり季節が変わっていた。
日本を立つ時にはうんざりするほど暑く、このまま秋なんか来ないんじゃないかと思っていたが、帰ってきたらちゃんと秋の気配がしているのはなんだか不思議だ。
私がいない間に大雨が降り、あちらこちらで被害が出たとテレビのニュースで見かけたが、少なくとも私の居住するエリアではこれといった影響はなかったようだ。少し高台に建つそこそこの高さのマンション、そのそこそこの階の部屋なので、よほどのことがなければ影響はないと思われるが、帰途の道路などにもこれといった形跡は見られなかったので、雨の前線からははずれていたのかも知れない。
久しぶりにバスタブにお湯を張り、ゆっくりと浸かる。海外のホテルではシャワーしか無い部屋も多く、あったとしてもめんどくさくてお湯を張らずにさっとシャワーで済ませることも多いので、こうしていると日本に帰ってきたんだなという気持ちになれる。
浴室には小さな窓があり、斜めに押し開けると外の空気が入ってきた。なるほど、すっかり涼しい風だ。出発前は窓を開けてもむっとした中とどっこいどっこいの空気が入ってきてたというのに、今ではひんやりと感じるほどだった。
変わっていたのは空気だけではない、外から聞こえる声も変わった。この前お風呂で聞いたのはセミの声、もう夏も終わり近くメインはツクツクボーシの声、それに他のセミの声が混ざって舞台の終盤を迎える大合唱を奏でていたものだ。
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