小栗忠順の子孫が、ジャンプギャグ漫画家になったワケ⑪『デモモ誕生とダウンタウン浜ちゃん(ハマオカモト)秘話&夢のジャンプ新年会での荒木飛呂彦先生』
前回、僕の身に起きた信じられない「幕張事件」は、木多康昭先生に直接抗議した事でどうにか解決しました。そんな中、ジャンプの連載陣の中でどうすれば人気をアップさせられるのか、僕は試行錯誤の日々を送っていました。
◾️テンテンくんのライバルキャラ誕生
幕張事件の少し前、連載も3ヶ月が過ぎた頃。『花さか天使テンテンくん』は人気アンケートの中位、8〜12位辺りをキープしていました。この位置は、新連載が始まると一気に票を取られ、下位に転落する危険もある、まだまだ安心出来ないポジションです。
そんなある日、ボーっとダウンタウンの番組を観ていたら、浜ちゃんが歌手に対してこうツッコんだのです。
「コイツとコイツ、キャラ被っとんねん!」
それを聞いた僕は、ハッと閃きました。
(キャラが被るか……!そういえば、テンテンくんに性格が似たキャラがいたら面白いかもしれない。でも天使じゃなくて、テンテンくんと真逆の「悪魔」だったらどうだろう?
テンテンくんが才能の花を咲かせるなら、逆に才能の花を「刈る」! うん、このキャラはイケるかもしれない…!!)
こうして誕生したのが、テンテンくんのライバルキャラ「デモモ」でした。

ツノの形がややカール気味です
もう一つのデモモの特徴。それは、彼だけ普通に喋らずに「デモデモ」と言って( )でその訳を付ける喋り方です。
最初は、悪魔は仲間だけにわかる「悪魔の言葉」で喋るという設定にしたかったのです。でも、描いているうちに「他の悪魔までこの喋り方だと少しうるさいかな。デモモだけで良いかも…」と思い直しました。
結果的にデモモ語で「デモデモ」と喋らせることで、幼さが出て可愛くなり、この選択は大正解でした。
デモモが登場すると、漫画の人気は一段上がりました。カラー扉もついていない普通の回で、6位ぐらいを取れるようになったのです。これによって僕は「もしかして、テンテンくんって人気漫画になってきてる…?」と、打ち切り候補から完全に抜け出せたと思い、ホッと安心したのを覚えています。
◾️浜ちゃんにプレゼント
ちなみに、浜ちゃんの言葉からヒントを得てテンテンくんは人気アップしましたが、僕はこの2年後、浜ちゃんにテンテンくんのゲームとグッズをプレゼントすることになります。
きっかけは、アニメの歌を紹介する番組に小川菜摘さん(浜ちゃんの奥様)が出演された時のこと。
「ウチの上の子もこのテンテンくんってアニメ観て、ゲラゲラ笑ってるのよ〜。ダンナも一緒に観てるわよ」
そう仰っていて、ダウンタウンファンの僕は「やった〜!」と大喜びしました。
その後、副編集長のIさんから『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』の番組観覧に誘われました。僕は「これはチャンス!」と、メッセージカードとテンテンくんのグッズ、ゲームを袋に入れ、「浜田さんのお子さんへのプレゼントです」とテレビ局のスタッフの方に託したのです。
観覧後、「浜田さんはとても喜んで、お礼を言っていたよ」と聞きました。(ただ「子供を甘やかすから、渡すのは誕生日にする!」とも言っていたとか 笑)
僕は「浜ちゃんにお礼を言われるなんて嬉しいなぁ。長男くん、テンテンくんを観てくれてありがとう!」と心から感謝しました。
それにしても、その子が後に人気バンドOKAMOTO'Sのベーシスト、ハマオカモトになるとは…!
◾️『ONE PIECE』と『世紀末リーダー伝たけし!』
デモモ誕生の頃に始まったのが、前々回でも書いた尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』と島袋光年先生の『世紀末リーダー伝たけし!』でした。
どちらも新連載一話目で1位を獲得。そして一話目の勢いのまま人気上位をキープしていました。特にONE PIECEの人気は凄まじく、僕の記憶では5話目以降からはほぼ毎回1位を取り、次代の看板漫画へ一気に駆け上っていくのを感じました。
しかし、僕が意識したのはやはり『たけし!』です。同じ低年齢層に人気のギャグ漫画として、常にテンテンくんよりも上位にいる『たけし!』。島袋先生の描くギャグは、ダウンタウンっぽいシュールさの中に独特のフレーズセンスがあり、感動する話やアクションも描ける。絵は荒削りながら、まさに小学生男子を夢中にさせる要素が満載でした。
「たけし!の勢いは全然落ちずに、更に増してるなぁ。小次郎も可愛いし、ゴン蔵のキャラも良い。このままだと、テンテンくんの人気はたけし!に奪われるかもしれない……」
僕は強い危機感を覚えていました。
でも、実際は逆だったのです。
『たけし!』があるおかげで、テンテンくんも人気が出てきました。
その理由は、ジャンプのアンケートハガキのシステムにあります。「好きな漫画を上位3つ書く」というルールです。
テンテンくんはどちらかというと、この「2番、3番」によく書かれるタイプの漫画だと、担当編集のMさんから聞いたことがありました。
これはあくまで僕の考察ですが、『ONE PIECE』と『たけし!』を目当てにジャンプを買った子が、最後の3つ目にテンテンくんを選んでくれるようになったのではないかと思うのです。ある意味、この2つのメガヒット作の人気に、テンテンくんも少し引っ張ってもらった。僕はそう思っています。
そういえば、鳥嶋和彦元編集長が昔よくこう仰っていました。
「雑誌を買わせるには、最低3つ読む漫画が必要だ。2つまでなら立ち読みで済ませてしまうから」
当時の低年齢層のアンケート事情を考えてみると、この時期の小学生読者はワンピ、たけし、テンテンくんを目当てにジャンプを買ってくれていたのかもしれません。(勿論、他の漫画も読んでいたと思いますが)
◾️初めての長編シリーズへの挑戦
デモモ登場により、少し人気が安定してきたテンテンくん。ここで、僕は新しい試みに挑戦してみたくなります。
それは「長編シリーズ」を描くことでした。
今までテンテンくんの連載の中で、二話連続の回を描いたことはありましたが、数話続く本格的な長編はまだありません。しかし、それには先を気にならせる「引き」と、それをうまくまとめる「構成力」が必要です。テンテンくんは基本的に一話完結の読切形式で人気があったので、長編に挑むのは人気が下がる危険もはらむ、ある種のギャンブルでした。
僕は悩みましたが、決意します。
「もしこの長編が失敗しても、今の人気ならまた一話完結形式に戻れば読者はついてきてくれるはず。ここは思い切って挑戦してみよう!」
こうして始まったのが、テンテンくん初の長編シリーズ『天の国&地獄親睦大運動会編』でした。

(みなさん知ってましたよね?)
天使や神様のいる天の国と、エンマ様と悪魔のいる地獄は昔大戦争になったが、救世主が現れその戦争を止めた。それ以来、親睦を深めるために数年に一度「大運動会」をすることに。その親睦と平和の象徴として救世主を模した「友好の像」があり、勝った側がそれを保持する(それは名誉なこと)。しかし、その像をテンテンくんがうっかり壊してしまう。それがバレないためには、天の国チームが運動会で絶対に勝たなければならない。ヒデユキくんも天使のふりをして、テンテンくんと一緒に運動会に参加する……というストーリーです。
「運動会」という小学生全員が共感できる一大イベントと、平和のために絶対に負けられないという「引き」。僕はこれに賭けてみることにしました。
全8話にまたがる長編になったこのシリーズは、序盤から上位をキープし、一度8位に下がった回はあったものの、ラストは5位まで上がり、結果的に大成功を収めました。
短い1話完結ギャグ漫画ではなく、長いストーリーシリーズを成功させたことは、その後の僕の漫画家人生にとっても、自分の構成力への大きな自信になった貴重な経験でした。
◾️夢のジャンプ新年会
そんな昇り調子の時に、僕はジャンプのある一大イベントに招かれます。それは連載漫画家だけが参加出来る「新年会」です。
まず、自宅にお迎えのハイヤーが来ます。(この時点で新人漫画家はビビります)。
都内の高級レストランの1フロアを貸し切りにして、豪華なビュッフェがテーブルに並ぶ。そしてそこにいるのは、日本一の漫画誌・週刊少年ジャンプで連載する人気漫画家さん達です。その方々と好きなだけ歓談出来るのです。
漫画家さんの多くは基本的に仕事場に引きこもり、メディアにもあまり出ません。なので、ジャンプ人気漫画家に会うのは「超貴重生物」と出遭うのと同じなのです(失礼)。
この場に来て、すっかり漫画家ではなく、ただのジャンプ大好き少年に戻った僕は、ヨダレを垂らしてハアハア興奮していました。
「今日はレジェンド漫画家さんと、いっぱい喋るんだ。そして、あわよくばサインも貰うんだ…。ウへへへ…。」
僕は獲物を探すハンターの様に、どんな先生が来ているかフロアをギラギラした目で見回していました。すると、ある奇妙な一団に目が止まります。
その一団の中心にいるのは、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生でした。

第一巻より
中学生の頃、みんなジョジョの独特なセリフやポーズを真似していました
何が奇妙かというと、荒木先生が動くと周りにいる若手漫画家達も一緒に動く。荒木先生が止まると若手漫画家達も止まる。そんな風に一定の距離をとりながら、集団ストーカーの様にはり付いているのです。
僕はすぐに気付きました。
「こ…これは、荒木先生に話しかけたいけど、話しかけるタイミングが掴めない人達の集団だ…!!」と。
そして僕も、すぐにその集団に加わりました(笑)。
この現象の理由も、すぐにわかりました。
実は荒木先生は以前、ジョジョ7巻の著者コメントで「ぼくは若手マンガ家がえらそーにしていると『コイツゥ、殴ってヤロウカ』とか思ってしまう。過激ですが。」と書かれていたのです。それをみんな知っているため、若手は不用意に話しかけられないのです。
「こんなチャンスは滅多にないから絶対に話したい」
でも、「不用意に話しかけて、生意気な若手だと思われて嫌われたくない」
そんな葛藤が、みんなの頭に渦巻いていました。
そんな時、副編集長のIさんが来て「荒木さん、若い漫画家さん達と話してあげたら?」と助け舟を出してくれたのです。みんなが心の中で叫びました。
「さすがIさん、おれたちができない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる、あこがれるゥ!!」
「ああ、そうだね。今まで食ったパンの枚数は覚えていないが…」とビュッフェを選んでいた荒木先生がこちらを振り向いてくれると、チャンスとばかりに「ジ…ジョジョ昔から大好きです!」「〇〇部めっちゃ面白いです!」と次々に話しかけ、写真も撮ってもらいました。
僕は初めて見る生の荒木先生に感動していました。
「コミックスで見た時と全く変わらない…なぜ!?」
「声が意外と高い!」
「話してみたら凄く気さく!!」
ただ、本当はサインも欲しかったのですが、それを言い出せる雰囲気ではありませんでした。(Iさんはこの時僕に「後でサインもらっておいてあげるから」と言ってくれましたが、その後何もありませんでした…。Iさん、僕は今も待ってます 笑)
そんな時、突然フロアがざわつきました。ある先生が到着したのです。
フロアに入ってきたのは……
鳥山明先生でした。
僕はこの後、鳥山明先生と一生忘れられないひと時を過ごす事になるのです。
(つづく)
次回、鳥山明先生との貴重な思い出と、ついに来た、テンテンくんのアニメ化の話です。どういうタイミングでジャンプ漫画はアニメ化の話が来るのか!?乞うご期待!!
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【告知】これまでSNSで公開した、懐かしい「昭和の子供あるある」や、「ジャンプ連載当時の裏話(世紀末リーダー伝たけし!との幻のコラボ漫画の思い出など)」思い出漫画をnote用にまとめました😄
更に今回、描き下ろしの新作漫画も3本追加で全24本収録。(ありがたい事に、多くの方から高評価頂きました🙏)
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