Photo by
megaptera
天空へのショートカット 恐怖の限界突破
「株主様ですね こちらへどうぞ」
その一言で 世界線が変わった
フロアには 目も眩むような長蛇の列
だが スタッフにチケットを提示した瞬間
状況が書き換わった
友人が持つ株主優待の恩恵に預かり
生まれて初めての東京スカイツリーへ挑む
並ぶ人々の視線を
花のように優雅にショートカットし 専用ルートへ
株主パワーという名の
圧倒的な特権に酔いしれていたのも束の間
私は重大な問題を思い出した
重度の高所恐怖症だったのだ
急加速するエレベーターの中で
胃のあたりから重力がふわりと浮き上がり
上半身がどこか遠くへ
置き去りにされるような感覚に
私の脳内はじわじわと
静かにパニックを起こす
展望デッキへ降り立った瞬間
眼前に広がるのは
絶望的なパノラマビュー
踵を返して逃げたかったが
下りのエレベーターは
フロアを周回しなければ辿り着けない
これは……詰みだ
「わー!!」と駆けていく友人と子供たち
追いかける他なく
震える膝で空中散歩を強行した
そこへ友人が
「どうせなら 一番上まで!」
とんでもないことを言い出す
地上450m 天望回廊への強制連行
ここに民主主義はないようだ
だが 不思議なことが起きた
地上350mのデッキでは
あんなに震えていた足が
回廊では ピタリと止まったのだ
怖くない
あまりの高度に
脳が「これは現実ではない」と
解像度を勝手に下げたらしい
恐怖というノイズさえも
限界を突破すれば
ただの抽象画に変わるのだ
特権で得たショートカットの先には
自分でも知らない
恐怖を越えた天界の景色が待っていた
神様
最「高」の思い出と
膝の静寂をありがとう
【マタギの脳内サバイバル】
恐怖は 限界突破させれば
アートに変わる
株主優待は 最強のパスポート
何事も経験しないと
わからないものだ
