最新家電を追いかけるより 100年残る「美しさ」との出会い
スティック型掃除機を買っては壊し
買っては壊し
どうやら私は 家電との相性がすこぶる悪いらしい
数年前
そんな「文明の利器」に振り回されるのをやめた
代わりに迎え入れたのは
練馬にある『そうこう箒本舗』の棕櫚の箒
店内に足を踏み入れると
そこはまるで「ちょっとした工場見学」のような空間だった
狭い店内の壁一面の箒を横目に
私は店主自作の「苔のテラリウム」を見つけた
ちょうど興味を持ち始めていた私は
作り方を聞いたり
瓶の中に広がる小さな生態系を眺めたり
他に客のいない店内で
店主は私の好奇心にとことん付き合ってくれた
そのうち真っ黒な大きな箒を手に取って
以前はお店が火事に遭ってしまったのだと語る店主
「火は逃れたけれど 炭を吸って黒くなったんだよ
これ 実は100年も前に作られた箒」
その真っ黒な箒は
歴史と火災を生き抜いた凄みを纏い
静かに壁にもたれていた
そんな物語に触れ
念入りにいくつか試し掃きをさせてもらい
手に馴染んだのはスリムな3玉の棕櫚箒
重さ 長さ コンパクトさ
そして佇まいの美しさ
当時の私にはかなり勇気のいるお値段だったが
今となってはあの時の自分を褒めてやりたい
購入時 水引でラッピングされた小さな袋を添えてくれた
中から出てきたのは
棕櫚で作られたミニミニブラシ
それがあまりに可愛くて
苔テラリウムの作り方なんてすっかり忘れて帰宅したのを今でも覚えている
使い始めて 3年
柄の部分は使い込むほどに艶を増し
迎えたあの日よりも「美人」に磨きがかかっている
……あ 私じゃなくて箒の話ね
普通の掃除機なら そろそろ寿命を迎える頃だろう
でも 私の棕櫚箒は
今日も美しくそこに佇んでいる
吊るした壁さえも 私の世界の一部
