リフレーミングの マダム
世間には 自分の話をノイズのように撒き散らし 相手の時間を 搾取する人が溢れている
古いテープが 永遠に繰り返される 無限ループ
残念ながら 私には巻き戻し作業をするほどの
お人好しを演じる時間は 無いのだよ
私は時折 心のノイズを取り除くために
ある場所へ向かう
そこには 私の親よりも
ひと回り年上の マダムがいる
彼女は 相手と会話を楽しみ 聞き上手
純度の高い言葉を贈ってくれる
真のエレガントだ
かつて 私が上京したての学生だった頃
ど田舎から出てきた私の言葉は
都会の同級生たちにとって格好の 娯楽だった
生まれ育った地域という 自分では選べない環境を 嘲笑される
それは 若かった私の心に
劣等感という紐を 複雑に絡ませ 鍵をかけた
ある日の午後 マダムの邸宅でお茶を頂いていた時のことだ
ふとした拍子に その胸に仕舞い込んでいた苦い記憶が溢れ出した
「方言をからかわれて 悔しくて
生まれ故郷なんて選べないのにね…」
吐き出した言葉は行き場を失って 宙に浮いた
マダムは優雅にカップを置き 私の目を見て
柔らかく微笑んだ
『あなたは 故郷や方言という引き出しをたくさんもってるのよ
それは その人たちよりも ずっと広い世界を知っているってこと 素敵なことじゃないの』
その瞬間 私の心で「カチリ」と音がした
「田舎者」という呪いのレッテルの錠前が落ち
代わりに「多層的な世界を持つ個」という
新しい称号が与えられた
彼女は 私の心に絡まった紐を たった一言で さらりと解いてしまい
紅茶が 涙の味になったのは 言うまでもない
マダムの家は 私にとっての『ダーマ神殿』になった
これこそが 私が目指す 会話の流儀だ
自分の話で相手を疲弊させるのではなく
まるで最初から宝石だったみたいにして返してくれる
マダムのように 私も誰かの心を温めてあげられるような 粋な言葉を放てるようになるだろうか
