髪のうえの魔術師
最近の私は
少しばかり
くたびれていた
引っ越しやら
夏のイベントやら
日々のバタバタした生活やら
なんや かんや
気がつけば
髪はチリチリ
うねうね
分け目も
なんだか
心もとない
鏡を見るたび
「なんか…老けた」
と
感じていた
そもそも私は
美容院に行くこと自体
半年くらい
平気で放置する
「そろそろ行こうかな」
と思っても
やりたいことを優先して
いつの間にか
半年経ってる
そんなある日
美容院に行って
コスメストレートをかけた
すると
髪が
艶々
うねりもない
そして
まつ毛パーマまでしたら
まつ毛が
重力に逆らって
上を向く
自分比
マイナス5歳
人間というものは
髪の艶と
うねりの無さと
上向きまつ毛だけで
こんなにも
若返った気分になるらしい
すると
爪も整えようかな
とか
肌のお手入れも
もう少し
丁寧にしようかな
とか
次々と
自分の手入れを
したくなってくる
先端って
大事なんだな
髪の毛の先
まつ毛の先
爪の先
身体の端っこを
少し整えるだけで
真ん中にいる
「私」まで
ちょっと
アップデートしたようになる
こういうのを
魔法というのだろうか
いや
美容師さんは
きっと科学者だ
髪の状態を見て
薬剤を選び
時間を測り
温度を調整し
髪の性質と
真正面から向き合っている
魔法ではない
でも
鏡に映った私は
どう見ても
魔法にかけられたような
アフターだった
私は石田衣良先生の
小説が好きだ
『波のうえの魔術師』も
好きだった
この小説を読んだことが
私が株に興味を持つ
きっかけにもなった
市場という
目には見えない波の上で
人間が動き
お金が動き
そこに
魔術師がいる
そんな世界が
面白かった
だから
美容師さんも
髪という
小さな世界の上で
人には見えないところまで
計算して
最後には
鏡の中に
ちょっと違う自分を
出現させる
魔術師に見えるのかもしれない
そして
……もう少し
爪も整えようかな
肌も
丁寧にしてみようかな と思う
魔法は
かけられたところから
少しずつ
広がっていく
