刻まれた記憶の海を泳ぐ.*゜読書記録.*゜学び.*゜気づき.*゜ひとこと.*゜読書感想文.*゜おすすめ本紹介
著者が、認知症の母に父の死を告げたときの話が胸に響きました。
認知症が進んでも、浮気された記憶だけはいつまでも鮮やかに残されていたようだと語られる、著者の母。それでも、同じ施設で父とすれ違うと、不機嫌になることもあれば、妙にはしゃいだりすることもあったという。
お通夜の席では駄々をこねて、棺の中の父との最期のお別れはしてもらえなかった。母の部屋に置いた父の遺影が、何度か裏返しにされていることがあったが、理由を聞いても母はとぼけて答えなかった。
母が65年にわたって連れ添った相手の死を、どこまで理解していたのかはわからない。けれど、刻まれてきた記憶は、決して消えることはなかったはず。幸福も不幸も、境界線が溶けて合わさり、寄せては返す波のように、よみがえったり消えたりをくり返していたのではないか。
表現の仕方や記憶の捉え方がとても素敵で、そうだといいなと思いました。普段の日常でも、すべてのことを思い出すことはできない。ときにそれを悲しくもありがたくも思うけれど、積み重ねてきた経験や感じてきた思いは、きちんと刻まれている。きっかけによって、どのように思い出すのかが変わってくる。刻まれていくその瞬間、その一日を、大切に過ごしていきたいなと思います。
また、本書は著者自身が夫を亡くした直後に、その悲しみの渦中で紡がれたエッセイで、友人の医師から言われたという言葉も印象的でした。夫を亡くしてから、日常のふとした音や目にしたものをきっかけに、夫との日々を思い出す著者。いいことも、悪いことも関係なく、その記憶の海の中を泳いでいる。
医師は、著者の中に真理子劇場ができたのではないかと言ったという。自分の中に劇場ができて、演者も観客も自分だけ。ある日ある時の記憶を自分で再現させ、自分しかいない観客席でそれを見ては泣いたり笑ったりしている。そして、飽きるまで続ければいいのだとも。
こちらも記憶や悲しみの捉え方がいいなと思うとともに、深い悲しみの中にいる著者への寄り添い方が素敵だなと感じました。もう会えない、大切な人。大きな別れの悲しみに打ちひしがれてしまったとき、それを受けとめてくれる本書の言葉たちに、また手をのばしたいなと思います。
他にも学びや気づきがたくさん詰まった、おすすめの本。
改めてご紹介します。
今回の本:『月夜の森の梟』小池真理子
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