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【実験記録1-2】まっすぐの手前 ②

いってきます、いってらっしゃいと反芻して、
最終チェックに鏡の前に立つ。

鏡の中の私は歪んでいる。
気づいたのは買って暫く経ってからだった。

ネクタイの結び目を直す。
シャツの襟もとに手を入れる。
仕草だけ。
どんなに直しても鏡の中で歪む。

「普通にしていればいいだけだよ」

普通、ね。

「彼女いるの?」

彼女、か。

ただの雑談の入り口で、天気の話みたいなもの。
相手にとっては晴れでも雨でもどうでもいのかもしれない。
空を見てすぐに答えればいいのだが、
雲が何パーセント以上で曇りなんだっけ、とぼんやり考える。

「いないよ」

彼女はいない。
彼女は。

次の話題がするすると流れる。
昼ごはん、週末の予定、子供の愚痴、どうでもいいニュース。


さっきの一拍だけが、少しだけ残る。


食べ終わった弁当箱に、ご飯粒が一つだけ貼りついている。

なぜか目につく。
取ろうと思えばすぐに取れるのに。
誰も気にしてないのに。

帰り道のコンビニで、適当にひとつ選ぶ。
レジの「ありがとうございました」が「今日もお疲れさまでした」と重なる。
袋を受け取るとき、手が触れる。

「彼女いるの?」

頭の中で誰かが問う。
店内には、手をつなぐカップルがアイスを選んでいた。


部屋の玄関を開けて靴を脱ぐ。
ネクタイを外す。
鏡に、歪んだ自分を見る。

窮屈な首元を指で軽く押さえる。

鏡、買い替えようか。
買い替えても歪んでいたら、どうしようかな。

指先に力が入った。


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