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No.2032 風、薫る

2026FIFAサッカーW杯は、7月20日の「スペインVSアルゼンチン」の決勝戦だけとなりました。世界を熱狂させるサッカーの魅力や醍醐味は、極東の小さな島国の九州のド田舎に住む爺さんの心さえも鷲掴みにしました。

大会中に、いろんな国のいろんな選手や応援がいくつも紹介されるテレビでの場面がありましたが、私が特に印象に残ったのは、ノルウェーのFW・ハーランド選手の食事中の1シーンでした。

彼は例によって長髪を後ろに束ね、食堂のテーブルで、一人黙々と大口でバクバク食事をしていました。惚れ惚れする食べっぷりです。そのうち、口いっぱいに頬張った彼が、ふと料理皿から顔を上げ、左手を見た瞬間、ギョッとしてフリーズしました。

彼の左手には壁にかかった鏡があり、食べ物を頬張った体格の良い怪しい人物が写っていたのです。彼は真剣に驚き、ビビり、
「何じゃーこいつはー!」
と思った様子でしたが、
「なーんだ、俺だったんかい?」
と気づき、ホッとした感じで、何事もなかったかのように、又モグモグ食べ始めました。

ほんの一瞬の出来事でした。でも、試合中は、あんなに威風堂々とした大男が、こんなにお茶目な表情と姿を見せようとは、思ってもみませんでした。世界中の、ファンの女性たちの胸をキュンとさせるシーンだったかなと思いました。偶然とはいえ、カメラマンさん、イイ仕事しましたね!

さて、ギョッとすると言えば、わが頭髪です。去年とは見違えるほど顕わになった我が頭皮は、「疎林」の二文字がふさわしく、髪はまばらに陣地に気丈に残っています。いや、頑張ってくれているのですが、今年の髪の減り具合は異常気象にリンクしているようです。ギョッとする以上に、本人がギョギョギョッとしています。

そんな私の淋しくなった頭髪を見て、憐れみをかけずにはおられなくなったのでしょう。先日、講座の後、大分駅前から、バスに乗って帰りました。空いた席が無く、立ったまま揺られていたら、トントンと肩を叩かれました。振り向くと、
「どうぞ、ここに座って下さい。」
と声をかけて席を譲ってくれたのは、50代後半(?)の女性でした。

わが「疎林」を見て、「お年寄り」と判断されたのでしょう。いや、立ったまま揺られている私の足もとが、おぼつかなく見えたのかもしれません。にこやかな笑顔でした。

なにせ、人生初の体験です。
「遂に、爺さんと認定されちゃったかー!」
という気持ちがなくもなく、さりとて、
「まだまだ、若いもんには負けん!」
との気概までは毛頭なく、一瞬、どうしたものか迷いましたが、
「あ、ありがとうございます!」
と、引きつるようなほほ笑み返しをしながら、座らせてもらいました。心遣いが有り難く、とてもうれしかったからです。

女性は、それから4つ先のバス停で、チラリとこちらを見る事もなく、ごく自然に下車しました。私は、更に5つ先のバス停で降りました。

60歳になったのを機に、大分市から「ワンコインバス乗車証」なるものをいただいて、今年で13年目です。この間、席を譲ったことはあっても譲られたことはありませんでした。たまたま、そんなことに気遣う人に出逢わなかっただけのことだったのかも知れません、。しかし、何だか特別な人に出逢えたような気がして、足取りは軽く前に進みました。

その日の大分は、最高気温35度で、バスを降りてから頭皮がジリジリと焼けるような暑さを感じましたが、心の中は、朝ドラのような「風、薫る」気分でした。


※画像は、クリエイター・さび猫の冒険さんの「風薫る五月、森の中を探検」の1葉をかたじけなくしました。清々しい色に香りが立つようです。お礼を申し上げます。