No.2031 「(う)」(「う」を〇で囲ったもののイメージです)
作家の向田邦子(1929年~1981年)さんは美味しいものが大好きでした。
その著『眠る盃』(講談社文庫、1982年)の中で、「水羊羹」につき、舌鋒鋭き「水ようかん評論家」として一家言せずにはおられない、変態的(失礼、偏愛的)水羊羹論を展開しておられます。そのこだわりの強さは、水羊羹に添えられた桜の葉の役割やご自身の食し方まで微に入り際に穿って書かれていることでも伺われます。試みに、彼女の隣で水羊羹を食べようものなら、威圧されて委縮してしまい、味が分からなくなりそうです。
そんな向田さんは、『霊長類ヒト科動物図鑑』(文春文庫、1984年)で「う」と言うエッセイを書いています。「う」とは、「うまいもの」の略で、7段の整理棚に「う」のインデックスを貼った抽斗を作り、「『う』のひきだし」と呼んでおられたそうです。その「美味いものリスト」の箱に、ご自身の舌で納得した食べ物の「栞」などを収めていたといいます。
美味しいものとは縁の薄い私ですが、向田さんのエッセイにいたく感動して、ちっぽけな、「(う)」(「う」を〇で囲ってあるのですが、noteで表現できませんでした…)と書いた箱を作りました。
もう30年近くも前のこと、四国を訪れた際に、伊予小松町の「よしの餅」を食べましたが、佐賀の松露饅頭のお兄さんくらいの大きさのお餅で、気取りのない老舗の味に脱帽しました。土産としても持ち帰り、その包装紙を「(う)マル」の箱に入れました。
私の「(う)」の箱にあるイチオシは、新潟市東堀通八にある加島屋商店の「鮭茶漬」です。甲乙付け難いのが、岩手県山田港にある金兵衛屋商店の「いか塩辛」です。知人や友人が、故郷に引きこもった私を案じて肴を届けてくれ、その味に魅了されました。
食は、心と体を豊かにし、和ませてくれます。「(う)」(うマル)のラベルの量は、私の幸せな時間の量でもありましたが、田舎教師の悲しさ、美味いものにそうそうご縁があるはずもなく、いつまでたっても箱は「カラカラ」と我が脳内を揶揄するかのような音を立てるにとどまっています。
※画像は、クリエイター・くえすさんの、「いくらが入った鮭茶漬け」の1葉です。私のは、こんなに豪勢ではありませんが、その味わいはなかなかのものです。お礼を申し上げます。
