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恋はするもんじゃない落ちるもんだ

ずっと、”推す“という気持ちがわからなかった。

幼少期、よっちゃんはキティちゃんが特別で、みっちゃんはキャンディキャンディが特別らしかった。太郎くんは仮面ライダーで、次郎君はゴレンジャーだった。
彼女、彼らの特別はすぐにわかった。いつの間にか持ち物が特別に染まっていく。筆箱もポーチも下敷きも、ハンカチもヘアゴムもかばんも靴だって。しまいには自転車さえも、”特別好き”一色になる。

昭和のあの頃、テレビアニメや特撮ヒーローのビニール靴が流行っていた。ピンクは女の子、水色は男の子。その配色に逆はなく、安っぽい靴の全面に(甲どころか側面にまで)キャンディキャンディやゴレンジャーがプリントされていた。
街中で今、痛バックを持つ人を見ると(痛バックって言うんでしょ?)昭和のあの靴を思い出す。

私はというと。キティちゃんはかわいいと思う、マイメロディも持っている、キャンディキャンディに憧れて将来の夢は看護師さん。けれどキャンディキャンディが終わったら、次のアニメの小公女が好きになり母に本をねだった。母が間違えて小公子を買ってきてブームを終えた。そんな感じ。

キティちゃんの鏡、マイメロディのノート、キキララのテッシュケースにキティちゃんの香り付きテッシュ。ミッフィーの絵本にケロケロケロッピのかばん。ケロッピの運動服入れ。ケロッピの定規
特別を公言しない私に各方面からいろいろなキャラクター物がプレゼントされた。その頃ファンシーショップを営んでいた叔母が、なぜかケロッピを大量に送ってくれて、後半ケロッピ一色になりかけた。カエルが好きとか言ったらしい(テレビでカエルが神様の国があるというのを見た。違うそうじゃないと言う気持ちでいっぱい)。
そして、兄のおさがりの仮面ライダー(だかなんだか)の自転車(カゴに緑の仮面がついていて目が赤く光った)。

ビニール靴は買ってもらえなかった。
靴屋の軒先に並んでいる(決まってあのビニール靴は、入口あたりに並んでいた)ビニール靴を見て憧れはしたけれど、「この靴ださいわね」なんて幼児に同意を求める母に「これが欲しい!」と声を上げるほどの“特別好き”が私には無かった。ビニール靴をじっと見つめる私の様子を見て、おそるおそる「欲しいなら買うわよ?」と聞く母に、無言で首を振った。

小学校高学年、今度はみんなアイドルが特別になったらしかった。
ませているあの子は原宿のタレントショップにいって諸星君(光GENJI)の下敷きを入手していた。公式の下敷きを入手できない下々の者たちは、挟める透明下敷きに、好きなアイドル写真や雑誌の切り抜きを挟んでいた。

私はというと、初めての野球観戦に興奮した叔父が、なぜか「私へ」と買ってきた(と親に言われた。今考えると絶対あやしい、いらないものを押し付けられたとしか思えない)ヤクルトスワローズの長嶋一茂の下敷きを特に何の感慨も持たずに使っていた。茂雄じゃない一茂である。いや「なかなか買えない下敷きなんだよ」と言い聞かされて、ちょっと胸を張って使っていた。かもしれない。
(今でも一茂をテレビでお見掛けすると、妙な親近感を感じます。一茂お前を敷いていた)

高校生になったらバンドやアイドル、30過ぎたらK-POP、私の周りの人には時々に推しを推すという風が吹いていて、けれど私はそれらの風に前髪ひとすじ動かされずに生きてきた。
彼女らと私の間に決定的な違いがあるようだった。透明の膜が存在するような、飛行機で耳が詰まって世界と隔離される様な、そんな感じ。

もう私は「だれかを推す」なんて感情はわからないで人生を終えるのだろう、と思っていた。少しさびしいと思いつつ、なんならそんな自分を誇ってすらいた。
周りにいる、BTS推しやセブチ推し、エイト推しの話を聞き流しながら、「わたしの推しは姪っ子ってことで。」が決まり文句だった。

ところがである

突如啓示の様に、なんと私にも推しらしきものができた。
恋はするもんじゃない落ちるものらしい。に、ひどく似ていた。
新参者のわたしが、沼と言ったらおこがましいが、沼にも落ちるものらしい。

どうしよう、こんな感情は知らない。いままでの好きとは違う、けれどその違いを言葉にする語彙力が私には備わっていなくて、推しとは心が訴えてかけてくるものなんだ。

週に2日ある平日休み、時間はいつの間にか溶けていき、YouTubeやストリーミーング配信を漁り続け、気が付くとパジャマのまま夜だった。という日々が4か月続いた。

思い切って友達や職場のスタッフに「推しができたらしい」と伝えてみた。(おめでとうと言われた)
推しの良さを(半ば一方的に)人に語る気持ちよさを知った。
だからみんな、わたしにああも語って来ていたのかと、目からうろこがぽろぽろ落ちた。
来ると必ずスーパージュニアを語って帰る患者さんや、セブチの動画をLINEで送りつけてくるスタッフ、藤井風のジャカルタライブに一人で行った友達の大冒険談。みんなの推し活を、ちょっと暑苦しいと思っていてごめんね、でSixTONESいいよ。(ジャカルタ大冒険は大変面白かったです)

沼に落ちた。
その沼はSixTONES。SixTONESの京本大我だ。

沼の沈みかたはわからないけれど、とりあえずファンクラブに入った。少し沈んでみようと思う。

敬称略。

推しを推してみました↓暇な時に動画ひとつでもみて帰ってください!

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