地域で始める小さな商売 第50回 ボランティアでもやりたいのが仕事の原型。理念を共有する仲間と育む働き方
写真:街歩きの仕事で知り合ったNPO「大ナゴヤ大学」の事務所を訪ねました。左から、菅原さん、大野さん、水野さん。和やかな職場です。
ファンがそのまま働き手に。境界のないスタッフの空気感
好きなことで生計を立てられたら幸せだ。ただし、世の中にはいろいろな人がいる。職場の人間関係が悪いと、好きなはずの仕事がストレスフルなものになってしまう。
雰囲気のいい飲食店などでよく聞くのは、最初は客だったというスタッフが多いことだ。その店の商品やサービスのファンが働き手になるのだから、相性はほぼ間違いない。同じ方向を見ている人たちとはぶつかり合ったとしても、また一緒に前を向ける。
6月の終わりに、僕は蒲郡駅前という自分の生活圏を案内するツアーのガイド役を引き受けた。主催は大ナゴヤ大学という社会人教育系のNPO。受講希望者の募集から当日のフォローに至るまでの仕組みがしっかりしていて、なおかつ担当者の熱量のようなものが感じられた。驚いたのは、15人定員が開催1カ月以上前に満席になったことではない。当日のスタッフがボランティアを含めて4人もいたことだ。みんなカジュアルな私服で入り混じって歩くので、誰がスタッフなのか一見するとわからない。スタッフ同士の距離も受講生との境界もほとんどないように感じた。
4人のうち、有給のスタッフは水野さんと菅原さんの2人。彼女たちの働き方が気になって「大ナゴヤ大学」「求人」で検索したら、「日本仕事百貨」という洒落た求人サイトの記事が出てきた。それによると、週3日勤務の正社員(社会保険完備、交通費全額補助)。名古屋市の大須にある事務所に通える範囲に住んでいることが条件だが、リモートワークも可能。もちろん、副業もOK。うらやましい労働条件である。

受講生から理事長へ。街全体をキャンパスに見立て、あらゆるところで学ぶ
大須の事務所を訪ねる前から大ナゴヤ大学という組織の風通しの良さは察していた。蒲郡駅前ツアーの終了後、打ち上げがてらのランチに誘うとスタッフ4人が全員参加。食事をしながら、各地の街歩き企画とその意義について話が尽きなかったのだ。
組織人の多くが同僚や組織への不満や批判にエネルギーを費やす。なんだか甘い蜜の味がするからだ。自分のことは棚に上げて悪口を言いまくると気分が高揚し、酒が進んだりする。水野さんと菅原さんはそれが皆無。彼女たちの他には常勤スタッフが理事長の大野さんしかいない少人数の団体という事情もあるが、それにしても清々しく感じる。
事務所を訪ねると、3人が揃って待っていてくれた。2017年から理事長をしているという大野さんはいい意味で重々しさはまったくなく、ボランティアスタッフが事務所に遊びに来ているような風情である。
もともとは金融系の会社員だった大野さん。2009年9月の大ナゴヤ大学開校の頃は受講生の一人に過ぎなかったらしい。
「大ナゴヤ大学は街中のあらゆる場所を教室に見立てて学び合うことがコンセプトです。面白い活動だなと思って受講しました。スタッフになってからも知らないことは無限に出てきます。そのたびに体温が上がるほど興奮しますね。様々な街の知られざる歴史と変化に興味は尽きません」
受講生から理事長に至るまでが「街がまるごとキャンパス」という理念を共有し、マイペースに学びながら自由に交流している。このネットワークは、適性のあるスタッフの採用と定着という経営課題にも大きな役割を果たす。大ナゴヤ大学では、受講生やボランティアが有給のスタッフになるのは自然なことだからだ。上記の「日本仕事百貨」では2週間で10人の応募があり、水野さんと菅原さんが採用された。
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