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身近なものをVEで考える|ランドセルは、なぜこんなに高くなったのか|VEで考える「価値」と機能

今は残暑。まだ来年のことを考えるには早い。

ところが、来年小学校に入る年長さんが今からランドセルを探すのは、もう遅いと言われる。
正直、びっくりする。

昔のランドセルなんて、男の子は黒、女の子は赤。
だいたいそれで終わりだった。

今は違う。
紫、水色、茶色、くすみ系。
刺繍が入り、金具にもこだわりがあり、ブランドとのコラボもある。
工房系もあれば、コードバンを使った高級モデルもある。
10万円を超えるランドセルも珍しくない。

ランドセルは、いつの間にかものすごく高付加価値な商品になった。

ところが、ランドセルの基本的な役割そのものは、昔からそれほど変わっていない。

ランドセルの基本機能は、昔からそんなに変わっていない

ランドセルの基本的な機能を考える。

学用品を収容する。
学用品を保護する。
荷重を支持する。
身体負担を減らす。
そして、使用状態を保つ。

ランドセルは毎日使う。
教科書やノート、文房具を入れ、雨の日も学校へ行く。
子どもだから、いつも丁寧に扱うとも限らない。

それでも、小学校の6年間使えることが求められる。

「6年間使用できること」は、ランドセルの重要な制約条件になる。

ここは昔も今も大きくは変わっていない。

もちろん、軽くなったり、背負いやすくなったり、細かい性能は進化している。

でも、ランドセルが5万円から10万円になったからといって、教科書が2倍入るわけではない。
6年間が12年間になるわけでもない。

価格差は、基本的な使用機能だけでは説明できない。

ランドセルの機能を全部つなげてみる

そこで、ランドセルが生み出している機能を一度まとめてみた。

左へ行くほど「何のために?」と目的を追い、右へ行くほど「どのようにして?」と具体的な機能や手段へ降りていく。

最上位に置いたのは、

「小学校生活を支える」

という機能だ。

ランドセルの機能系統図

一つ目の大きな枝は「通学を支える」。

ここには、昔からランドセルに求められてきた機能が並ぶ。

学用品を収容する。
学用品を保護する。
荷重を支持する。
身体負担を減らす。
使用状態を保つ。

ここだけ見れば、昔ながらのランドセル像に近い。

ところが、図にはそれ以外の枝もある。

「通学意欲を高める」。

そして、

「家族の支援を引き出す」。

今のランドセルが高付加価値化した理由を考えるなら、この二つを外すわけにはいかない。

「天使のはね」が二回出てくる

機能系統図を見ると、「天使のはね」が二か所に出てくる。

一つは、身体負担を減らす側。

ランドセルを身体へ密着させ、重心を身体へ近づけるための手段として登場する。

これは分かりやすい。

「天使のはね」や「楽ッション」は、子どもが楽に背負えるようにする技術だ。

ところが、もう一つは大人側にある。

「身体への配慮を伝える」。

同じ技術でも、

「子どもの身体をちゃんと考えている」
「負担が少なそうだ」
「有名な機能がついているから安心だ」

と、親や祖父母に安心感を与える働きもある。

子どもにとっては身体負担を減らすための手段。
大人にとっては身体への配慮を伝える手段。

使用機能を実現する技術がブランド化されることで、魅力機能としても働く。

ランドセルは、この構造が分かりやすい。

子どもは「荷物を入れる箱」を買っているわけではない

二つ目の大きな枝は、

「通学意欲を高める」

である。

お気に入りの色。
好きなデザイン。
刺繍や装飾。
自分だけの特別感。

そうしたものが所有満足を高め、愛着につながる。

紫色だから教科書がよく入るわけではない。
刺繍があるから6年間壊れなくなるわけでもない。

それでも、その子が、

「これがいい」

と思えば価値になる。

昔の黒と赤だけの時代に比べると、この領域はものすごく広がった。

色彩を変える。
意匠を変える。
装飾を加える。
限定モデルにする。
ブランドと組む。

こうした機能は、ランドセルを学用品の収納・保護用品として見るだけでは出てこない。

でも市場では、大きな価値になっている。

そして、ランドセルを買うのは子どもだけではない

ランドセルがさらに面白いのは、使う人、選ぶ人、払う人が一致しないことだ。

使うのは子ども。
選ぶのは子どもと親。
お金を出すのは祖父母、という家庭も多い。

ここで三つ目の枝が出てくる。

「家族の支援を引き出す」

である。

祖父母からすれば、ランドセルは単なるバッグではない。

孫の小学校入学という大きな節目に、

「良いものを買ってあげたい」

という気持ちがある。

良いランドセルを贈れば、孫が喜ぶ。
親も喜ぶ。
自分も、孫の教育や成長に貢献できたと感じる。

その貢献実感が、また孫を支援したいという気持ちにつながる。

そう考えると、

贈答満足を高める。
記念性を高める。
入学を象徴する。
特別感を高める。

といった機能も、最後は「小学校生活を支える」につながっていく。

ランドセルの価値を子どもだけで見ていると、この枝は見えてこない。

だから、10万円のランドセルが成立する

ランドセル市場には、今でも比較的シンプルなモデルがある。

基本的な機能をしっかり持ちながら、装飾やブランド性を抑えたものだ。

もちろん、ランドセル自体がそもそも安い商品ではない。
それでも高級モデルとの価格差はある。

一方で価格帯が上がると、

色や意匠。
装飾。
限定性。
工房仕立て。
高級素材。
ブランドコラボ。
機能ブランド。

といった要素が厚くなっていく。

高価格帯になるほど、基本機能の周りにある魅力機能が厚くなっていく。

そこで、少し遊んでみた。

魅力機能と価格を散布してみた

各社のランドセルをいくつか拾い、通常価格と魅力機能の関係を散布してみた。

ランドセルの「魅力機能指数」

横軸は「魅力機能指数」。

デザイン、装飾、ブランド性、高級素材、限定感、機能ブランド化、カスタマイズ性などを見て、説明用に私が仮評価したものだ。

厳密な学術指標ではない。

縦軸はランドセルの通常価格である。

今回の試算では、相関係数は r=0.78
決定係数は R²=0.61 になった。

思った以上に、きれいな右肩上がりになった。

もちろん、「ランドセル価格の61%が魅力機能で決まる」という意味ではない。

横軸そのものが私の仮評価だし、サンプル数も限られている。
素材、メーカー、製法など、価格を左右する別の要因もある。

実際、コードバンの高級モデルは回帰線から大きく上に外れた。

コードバンという大きな素材プレミアムを持つモデルを除くと、今回の試算ではR²が約0.80まで上がった。

なかなか面白い。

しかし…みんなに分かりやすくVEを伝えるつもりでランドセルを眺めていたら、なぜかマーケティングとVEの関係性を研究し始めてしまった…。

少子化でも、高くても売れる

ここでもう一つ、ランドセル市場の面白いところがある。

子どもの数は減っている。

普通に考えれば、市場は縮小する。

でも少子化で孫の数が減ると、祖父母側の支出が一人の孫に集中しやすくなる。

しかもランドセルは、毎年買う商品ではない。

小学校入学時に一度だけ買う。

「一度しかないから」
「6年間使うから」
「せっかくだから良いものを」

という心理が働きやすい。

だから数量が減っても、一個あたりの単価を上げられる余地がある。

ランドセル市場は、少子化の中で単純に低価格化するのではなく、魅力機能を厚くすることで高付加価値化してきた。

これもマーケティングとしてかなり面白い。

高いランドセルが、無駄とは限らない

VEで価値を考えるとき、価格だけを見てはいけない。

基本機能だけを見れば、

「子どものバッグに10万円も必要なのか」

となる。

でも、コードバンや工房仕立て、ブランド、デザイン、特別感、贈答価値まで評価する家庭なら、その価格にも意味がある。

逆に、そこに価値を感じない家庭なら、ベーシックモデルの方が価値は高い。

VEで言う価値は、単純な安さではない。

何を機能として求め、そこにいくら払うのかで決まる。

VEで機能を見ると、マーケティングにつながる

ランドセルの基本機能は、昔から大きくは変わっていない。

学用品を収容する。
学用品を保護する。
荷重を支持する。
6年間使える状態を保つ。

それでもランドセルは高付加価値化した。

変わったのは、その基本機能の周りにどんな機能を加え、誰がそこに価値を感じるかである。

子どもには所有満足がある。
親には安心感がある。
祖父母には贈答満足や貢献実感がある。

その価値が重なれば、ランドセルは「学用品を収納して通学を支える道具」以上の商品になる。

VEで機能を掘っていくと、最後は顧客が何に価値を感じ、なぜその価格を払うのかという話になる。

結局、VEとマーケティングはかなり近いところにいる。

ランドセル一つでも、機能から見ると市場の作られ方まで見えてくる。


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