製造業にAIを売り込む方法:DX提案で刺さる言葉と刺さらない言葉
「AIを導入すれば生産性が上がります」という提案書を持って客先に行ったら、工場長に「で、具体的に何分短縮されるんですか」と言われて、答えられなかった。
あれは恥ずかしかった。
コンサルに転職して2年目の頃の話だ。前職のTier1メーカーでの経験があるから製造業には強いと思っていたし、AIのことも自分で使い込んでいたから自信があった。なのに、現場の人間に一言で切り返されて、完全に詰まった。
あのとき「刺さらなかった」理由が、今ならはっきりわかる。
製造業のDX提案が死ぬ理由
前回の記事でコンサルが使うプロンプトの話を書いたら、「製造業クライアントへの提案どうやってるの?」という質問をいくつかいただいた。ちょうどいい機会なので、今日はこれを丸ごと書く。
まず前提として、製造業はDX提案が一番難しいと個人的に思っている。
理由は3つある。
・現場の人間が「AI=自分の仕事が奪われる」という警戒感を持っている
・意思決定者(工場長・製造部長クラス)が現場上がりで、フワッとした話を極端に嫌う
・「やってみてよさそうなら検討します」が通用しない。先に結果を見せろという文化がある
これ、私が前職メーカーにいたから身にしみてわかる。私自身がそういう文化の中にいた人間だから。
コンサルに来てから最初の半年くらいは、コンサル側の論理で提案書を書いてた。「デジタルトランスフォーメーションにより競争優位を確立し…」みたいな書き出しで。そのたびに刺さらなかった。
刺さらない、という言い方をしたが、正確には「興味を持ってもらえない」だ。担当者は「ふーん」という顔をして、次の定例でまた同じ話をする羽目になる。
死ぬ言葉と生きる言葉
実際に経験した中から、対比で整理する。
「AI導入で生産性向上」→ 死ぬ
これ、言葉として何も伝えていない。生産性向上って何?どの工程が?どれだけ?という問いに答えていない。
現場の人間は毎日具体的な数字と戦っている。タクトタイム、不良率、段取り替え時間、歩留まり。そこに「生産性向上」という言葉を持っていっても、ピンとこない。
「段取り替えの記録業務、今どれくらいかかってますか?」→ 生きる
質問から入る、というのがポイント。
私が今でもやっている入り方はこれだ。提案から入らない。まず「今どれくらい時間かかってますか」と聞く。担当者が「3〜4時間くらいですかね」と言ったら、「それ、どんな作業に時間とられてますか」と続ける。
話しながら向こうが自分で気づいていく。「確かに、あのExcelへの転記が一番時間かかるな」と。
そこで初めて「その転記、AIが半分以下にできるかもしれないです」と言う。
この順番が全てだ。
「最新のLLMを活用した…」→ 死ぬ
LLMという言葉、製造業の現場で通じない。ChatGPTなら最近は通じるようになってきたが、それでも工場長クラスには「ああ、あの文章書いてくれるやつね」くらいの認識だ。
技術用語を使うと「この人はコンサルの言葉で話してる」と感じさせてしまう。距離が生まれる。
「ChatGPTに作業手順を読み込ませて、新人教育の質問対応をやらせている会社があります」→ 生きる
具体的な事例、具体的な用途。これだけで「うちもできるか?」という反応になる。
事例の力は本当に強い。特に製造業は「他社がやってる」という情報に弱い。競合他社がやっているとわかった瞬間に、急に動き出す会社を何社も見てきた。
私が失敗した「3つのパターン」
ここまで「刺さる言葉」を書いてきたが、逆に私が実際にやらかしたパターンも正直に書いておく。
パターン1:ROIの数字を盛りすぎた
「年間で約2,000万円のコスト削減が見込まれます」という試算を出したことがある。
試算の根拠はあった。でも、そこに至る前提条件が多すぎた。担当者が「本当にそんなに出るの?」と疑い始めて、以降の議論がずっとその数字の検証に終始した。
結果、提案の本質的な話ができなくなった。
数字は「〇〇時間が△△時間になる」という作業レベルの粒度にとどめるべきだった。年間コストへの換算は担当者が自分でやればいい。それを手伝うだけでいい。
パターン2:現場担当者を飛ばして経営層に提案した
ある案件で、製造部長との関係がうまく作れなかったとき、工場長を通じて役員に直接提案できる機会をもらった。これ幸いと思って、役員向けに「AI戦略」みたいな大きな話をした。
役員は「面白いね、現場と詰めてみて」と言った。
それで現場に戻ったら、製造部長が完全にシャットアウト。「役員から話聞いてますけど、うちには合わないと思います」と一言で終わった。
あの案件、本当にまずい進め方をしたと思う。製造業は現場の人間のプライドと納得感が全てだ。上から押し付けられた話は、どんなに正しくても死ぬ。
パターン3:「まずPoC(概念実証)を」と言ってしまった
「PoCから始めましょう」というのはコンサルがよく使う言葉だが、製造業の現場では「また何かよくわからないことをやらされる」という反応になることが多い。
PoCという言葉を使うなら、「2週間、〇〇工程の△△作業だけで試してみませんか。うまくいかなければそこで終わりで構いません」と言い換える。
具体的な工程名、具体的な期間、出口の設定。この3つがセットになって初めて動いてくれる。
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