実践するドラッカー 実践編 第67話:社長の時間はどこへ消えた?!~時間の記録から、利益構造が変わった④(全4話)
事例13-4 小さな会社が、利益構造を変えた
本記事は、実際の実践事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
回収したものの「その先」を見る
時間の記録から始まったMさんの実践は、少しずつMM社の仕事のあり方を変えていきました。
最初に見えたのは、移動時間の多さでした。
現場に行く。
回収物を見る。
値決めをする。
会社へ戻る。
また別の現場へ行く。
移動時間を減らそうとして、Mさんは回収物を会社に持ち込んでもらい、事務所で値決めをするようにしました。
しかし、それだけではうまくいきませんでした。
移動時間は減った。
でも、今度は事務所から動けなくなった。
問題は、移動ではありませんでした。
社長であるMさんが判断しなければ、仕事が進まないことでした。
そこでMさんは、値決めの基準をスタッフと共有していきました。
現場から写真を送ってもらう。
見るポイントを伝える。
判断の理由を説明する。
少しずつ、スタッフが現場で判断できるようにしていく。
その積み重ねによって、Mさんには自由に使える時間が生まれていきました。
そしてMさんは、その時間を会社の外へ向けました。
新しい販売先。
新しい買取先。
回収したものを、より価値ある形で受け取ってくれる相手。
Mさんは、回収物の「その先」を見に行くようになったのです。
事業の未来に時間を使う
ドラッカーは、経営者の時間の使い方について、次のように述べています。
経営者は事業の未来について、もっと時間と思索を割かなければならない。
(創造する経営者 p.2)
Mさんが生み出した時間は、単なる余白ではありませんでした。
少し楽になるための時間でもありません。
目の前の仕事を、少し効率よく回すためだけの時間でもありません。
その時間は、MM社の未来を考えるための時間になっていきました。
回収したものを、どこに出せばもっと価値を認めてもらえるのか。
どんな相手なら、MM社が扱っているものを必要としているのか。
相手にとって、どのような状態なら使いやすいのか。
自分たちは、ただ処理する会社なのか。
それとも、不要になったものを、もう一度価値ある形に変える会社なのか。
Mさんは、回収物の「その先」を見るようになりました。
それは、事業の未来を考える時間でもありました。
同じものでも、出し方で価値は変わる
金属リサイクルや廃棄物処理の仕事では、回収すること自体が大切です。
お客様にとって不要になったものを引き取る。
現場を片づける。
処理に困っているものを受け入れる。
それだけでも、十分に役に立つ仕事です。
けれども、Mさんはそこで終わりませんでした。
回収したものを、どう扱えばもっと価値が出るのか。
どのように分ければ、相手にとって使いやすくなるのか。
どんな形にすれば、より高く引き取ってもらえるのか。
そこに目を向けていきました。
同じものでも、混ざったままなら価値が低い。
同じものでも、分別されていれば価値が上がる。
同じものでも、サイズや形が整っていれば、相手は扱いやすい。
同じものでも、相手の工程に合う形になっていれば、必要とされる。
ただ回収して、ただ出すだけではない。
分ける。
整える。
必要に応じて加工する。
そうすることで、回収物の価値は変わっていきました。
顧客を創造するとは、価値を生み出すこと
ドラッカーは、事業の目的について、こう述べています。
事業の目的は顧客の創造である。買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力と交換してくれるものを供給することである。
事業の目的は、顧客の創造である p.36
(創造する経営者 p.114)
ここでいう「顧客の創造」とは、単に新しい顧客を開拓することだけではありません。
もちろん、新しい販売先や買取先を探すことも大切です。
しかし、それだけなら「営業先を増やした」という話で終わってしまいます。
Mさんが行ったのは、顧客が価値として感じるものを生み出すことでした。
混ざったままでは扱いにくいものを、分ける。
大きさや形がばらばらのものを、整える。
そのままでは使いにくいものを、必要に応じて加工する。
相手の工程に入りやすい状態にする。
そうすることで、相手の手間が減る。
相手のコストが下がる。
相手にとって「喜んで引き取りたいもの」になる。
つまり、MM社は単に回収物を売っていたのではありません。
相手にとって価値ある状態をつくっていたのです。
だからこそ、より高く引き取ってもらえる関係が生まれていきました。
利益は、値上げだけで増えるわけではない
利益を増やすというと、まず思い浮かぶのは価格を上げることかもしれません。
もっと高く売る。
もっと安く仕入れる。
もっと量を増やす。
もちろん、それも一つの方法です。
けれども、Mさんが取り組んだのは、単純な値上げではありませんでした。
相手にとって価値のある状態にする。
相手の手間を減らす。
相手の工程に合う形で渡す。
その結果として、より高く引き取ってもらえるようにする。
これは、力づくの価格交渉ではありません。
「高く買ってください」とお願いするだけではない。
「高く買う理由」をこちらがつくっている。
そこに、Mさんの実践の大きな意味がありました。
利益は、自社の中だけを見ていても生まれません。
相手にとっての価値が高まる。
だから、こちらの収益も高まる。
その関係をつくることが、利益構造を変えることにつながっていきました。
小さな会社だからできること
MM社は、大きな会社ではありません。
従業員は十名に満たない、小さな会社です。
資本力があるわけではない。
大規模な設備を次々に導入できるわけでもない。
大量の取引で価格を動かせるわけでもない。
では、小さな会社には何もできないのか。
そんなことはありませんでした。
小さな会社だからこそ、細かく見られる。
小さな会社だからこそ、現場の判断を変えやすい。
小さな会社だからこそ、相手の困りごとに合わせて動ける。
小さな会社だからこそ、分け方や出し方を工夫できる。
大きな会社のように、すべてを大量に流すのではなく、目の前のものを見て、相手に合わせて整える。
そこに、MM社の強みがありました。
不要になったものを、必要とされるものに変える。
扱いにくいものを、使いやすいものに変える。
価値が見えにくいものを、価値ある形に整える。
それは、小さな会社だからこそできる貢献でした。
時間の使い方が、事業の見え方を変えた
振り返ってみると、始まりはとても地味でした。
時間を記録してみる。
ただ、それだけです。
しかし、その記録によって、Mさんは自分の時間の使い方を見つめることになりました。
移動時間が多い。
では、移動を減らそう。
しかし、移動を減らしても、事務所から動けなくなった。
では、なぜ動けないのか。
自分が判断しなければ仕事が進まないからだ。
では、判断を現場に移していこう。
スタッフが判断できるようになってきた。
では、生まれた時間を何に使うのか。
会社の外にある成果を探しに行こう。
新しい販売先を探そう。
回収したものの価値を高めよう。
そして、相手が使いやすい形に整えることで、MM社の利益構造は少しずつ変わっていきました。
時間の記録は、単なる効率化の手段ではありませんでした。
自分の仕事を問い直す入口でした。
会社の仕事の構造を見直す入口でした。
そして、事業そのものの可能性を広げる入口でした。
【今日の問い】
Q:あなたの仕事は、顧客が「喜んで対価を払いたい」と感じる価値を生み出しているでしょうか。
単に、こちらが売りたいものを売っているだけになっていないでしょうか。
こちらにとって都合のよい形で提供しているだけになっていないでしょうか。
相手が受け取るときの手間や不便を、見落としていないでしょうか。
顧客の創造とは、単に新しい顧客を探すことだけではありません。
顧客が価値として感じるものを生み出すことです。
相手にとって使いやすい形にする。
相手の手間を減らす。
相手の成果に貢献する。
相手が「それならぜひ欲しい」と感じる状態に整える。
あなたの仕事には、
まだ価値に変えきれていないものはないでしょうか。
そして、その可能性を見つけるために、
事業の未来について考えるまとまった時間を、どこに確保できるでしょうか。
~おわりに~
Mさんの実践は、時間の記録から始まりました。
けれども、その先にあったのは、単なる時間短縮ではありませんでした。
自分が抱えていた判断を、現場の判断に変える。
生まれた時間を、会社の外へ向ける。
回収したものを、相手にとって価値ある形に整える。
その積み重ねが、MM社の仕事の見え方を変えていきました。
時間を見直すことは、仕事を見直すことでした。
仕事を見直すことは、事業の未来を見直すことでもありました。
小さな実践が、会社の可能性を少しずつひらいていく。
Mさんの取り組みは、そのことを教えてくれます。
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