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実践するドラッカー 実践編 第52話:ドラッカーは、会社の共通言語になる——商人の知恵が受け継がれる地域で育った、8年の実践記①(全7話)

事例11-1 ひとりで構想を描いていたトップが、組織づくりに向き合うまで

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

関西の東側、古くから商人の知恵が受け継がれてきた地域に、社員30名弱の同族企業であるKK社はあります。

その会社を率いるKさんは、もともと事業の方向性を考えたり、市場の可能性を見立てたりすることに強い関心を持つ人でした。

海外で学び、日本のグローバルメーカーでマーケティングに携わった後、創業者である父の会社に入りました。

Kさんは、ひとりで考え、構想を描き、次の一手を考えることには慣れていました。

市場をどう見るか。
顧客にどんな価値を届けるか。
会社は次にどこへ向かうべきか。

そうした問いを、自分の頭の中で深く考え、組み立てていくことは、Kさんにとって自然なことでした。

一方で、会社はひとりでは動きません。

どれほどよい方向性を描いても、それが社員に伝わり、日々の仕事に落ち、リーダーたちの言葉になり、現場の判断に反映されていかなければ、会社全体の力にはなりません。

Kさんが経営の中で向き合うことになったのは、このテーマでした。

ひとりで描いた構想を、どうすれば組織の共通認識に変えていけるのか。

ドラッカーとの出会い

そんなKさんがドラッカーに出会ったのは、地元で開かれていた小さな読書会でした。

その場をつくっていたのは、ナレッジプラザの認定読書会ファシリテーターでもある、地元の社労士(社会保険労務士)の先生です。

Kさんはそこで、はじめてドラッカーの言葉にじっくり向き合うことになります。

最初から「会社を変えるためにドラッカーを導入しよう」と考えていたわけではありません。

ただ、読書会に参加してみると、そこには単に本を読んで知識を得るだけではない場がありました。

本に書かれている言葉を、自分の仕事に引き寄せる。
自分の経験に照らして考える。
他の人の受け止め方を聞く。
そして、明日からの仕事にどう生かすかを考える。

Kさんは、その場に強く惹かれました。

成果とは何か。
貢献とは何か。
強みとは何か。
時間を何に使っているのか。
組織は何のために存在するのか。

ドラッカーの問いは、Kさんが考えてきた事業や組織のテーマを、社員とも共有できる言葉にしていく手がかりになるように感じられました。

その中でも、Kさんの実践と深く響き合う言葉があります。

指紋のように自らに固有の強みを発揮しなければ成果をあげることはできない。なすべきは自らがもっていないものではなく、自らがもっているものを使って成果をあげることである。

『実践するドラッカー思考編』第4章強みを生かす ~強みはかけがえのない資産p.156
(非営利組織の経営p.216)

自分にないものを嘆くのではなく、自分がもっているものを使って成果をあげる。

この言葉は、Kさん自身のあり方にも重なります。

Kさんは、人を強く引っ張るカリスマ型のトップとして組織を動かしてきたわけではありません。

むしろ、ひとりで考え、構想を描き、次の一手を考えることに慣れていた人でした。

だからこそ、自分の強みをどう生かしながら、組織づくりに向き合うのか。

その問いが、Kさんの中で少しずつ大きくなっていきました。

多様な人が集まる神戸の読書会へ

地元で始まった読書会は、Kさんにとって大きな出会いでした。

さらにKさんは、学びを深めるために、神戸の読書会へも足を運ぶようになります。

そこには、年齢層も、働く立場も、会社での役割や地位も異なる、多様なメンバーが集まっていました。

経営者もいれば、管理職もいる。
専門職として働く人もいれば、現場で日々の仕事に向き合う人もいる。
年齢も経験も違う人たちが、同じドラッカーの言葉を読み、それぞれの仕事に引き寄せて考えていました。

Kさんにとって、それは大きな刺激でした。

同じ言葉を読んでいても、受け止め方は人によって違います。
同じ「成果」という言葉でも、経営者として読む人と、現場で働く人とでは、見えてくる景色が違います。
同じ「強み」という言葉でも、自分自身の強みとして考える人もいれば、部下や仲間の強みとして考える人もいます。

その多様な受け止め方に触れることで、Kさんはドラッカーの言葉の奥行きを感じるようになっていきました。

ドラッカーは、自分自身の経営に必要なだけではない。
会社の中で、社員と一緒に考えるためにも必要な言葉なのではないか。

Kさんは、そう感じるようになっていきます。

会社に、同じ問いを持ち込む

Kさんは、地元の社労士の先生をKK社に招き、社内でドラッカーを学ぶ場をつくることにしました。

最初は、全社員で学ぶ機会を設けました。
その後、リーダー層にも広げていきました。

Kさんが会社に持ち込もうとしたのは、単なる経営知識ではありません。

会社の中で、同じ問いを持つことでした。

成果とは何か。
顧客への貢献とは何か。
自分の強みは何か。
仕事を通じて、どのような価値を生み出しているのか。

トップが自分の考えを一方的に伝えるのではなく、同じ本を読み、同じ言葉を手がかりに、それぞれが自分の仕事を振り返る。

Kさん自身も、社員と同じように学ぶ一人でした。

会社の方向性を示す立場でありながら、同時に、自分自身も問い直される立場に立つ。

この姿勢が、KK社のドラッカー実践の土台になっていきます。

組織づくりは、共通の問いから始まる

Kさんにとって、ドラッカーの読書会は、ひとりで考えることを否定するものではありませんでした。

むしろ、自分が考えてきたことを、社員と共有し、組織の中で育てていくための場でした。

組織づくりは、必ずしも人を強く引っ張ることだけではありません。

大きな声で号令をかけること。
人前で熱く語ること。
社員を巧みに巻き込むこと。

もちろん、それが得意な経営者もいます。

しかし、Kさんの歩みは少し違いました。

ひとりで構想を描くことに慣れていたトップが、ドラッカーという共通の言葉を使って、社員と一緒に考える場をつくっていく。

そこから、KK社の組織づくりは始まっていきました。

共通の問いを持つこと。
共通の言葉を育てること。
その言葉を通じて、社員一人ひとりが自分の仕事を考えられるようにしていくこと。

Kさんの8年にわたる実践は、ここから動き出します。

【今日の問い】

Q:あなたが考えているこれからの構想のうち、まだ周囲と十分に共有できていないテーマは何ですか?

頭の中では見えているけれど、まだ周囲に十分伝えられていないこと。
自分では大切だと思っているけれど、チームの共通認識にはなっていないこと。

そこに、次の組織づくり、チームづくりの入口があるのかもしれません。

まずは、その構想を誰に、どんな言葉で伝えることから始められるでしょうか。

~次回予告~

最初は、地元の社労士の先生を招いて始まったKK社のドラッカー読書会。

はじめから全員が前向きだったわけではありません。
リーダーたちも、最初は戸惑いながら参加していました。

それでも3年、4年と続けていくうちに、少しずつ変化が起きていきます。

あるときKさんは、リーダーたちが社員と話す場面で、自然にドラッカーの言葉を使い始めていることに気づきます。

「あ、ここだな」

そう感じたKさんは、ドラッカーの学びを次のフェーズへ進めていくことになります。

次回は、KK社の中でドラッカーがどのように広がり、リーダーたちの言葉になっていったのかを見ていきます。

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