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実践するドラッカー 実践編 第80話:逆境を「迂回」する~目的は変えず、道を変える⑦(全9話)

事例15-7 原油価格は変えられない。経営は変えられる――捨てられる木を、会社を守る燃料に変える

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

クリーニング工場では、大量のお湯と蒸気を使います。

衣類やリネンを洗う。
乾燥させる。
シーツを伸ばし、仕上げる。

工場を動かすために、ボイラーの燃料は欠かせません。

そのため原油価格が上がれば、RRクリーニング社の経営は直接影響を受けます。
燃料費が上がっても、顧客への料金をすぐに引き上げられるとは限りません。
価格への転嫁が遅れれば、その分だけ利益が削られます。

しかし、原油価格は地方の一企業が変えられるものではありません。

節約にも限界があります。
そこでRさんは考えました。

原油価格は変えられない。
しかし、原油価格に大きく左右される経営の仕組みは変えられる。

その視線の先にあったのが、それまで工場の燃料とは考えられていなかった木材でした。


変えられないものではなく、影響を受ける構造を見る

経営には、自社だけでは動かせないものがあります。

原油価格。
為替。
金利。
人口。
天候。
法律や制度。

未来を正確に予測できれば理想的です。

しかし、原油価格がいつ、どこまで上がるのかを完全に当てることはできません。

Rさんが見たのは、価格そのものではありませんでした。

原油価格が上がるたびに、会社の利益が大きく揺れる構造です。

燃料を使わない工場にすることは難しい。
それなら、重油だけに頼る仕組みを変えられないか。

外部環境を変えようとするのではなく、
外部環境から受ける影響を変える。

そこから、新しい選択肢を探し始めました。


大きな投資への反対

Rさんが検討したのは、木質バイオマスを燃料に使うボイラーでした。

木材を燃やし、その熱でお湯や蒸気をつくる設備です。

しかし、導入は簡単ではありません。

木材を保管する場所が必要です。
燃料として使える状態に整える必要もあります。
投入設備や安全管理、メンテナンスの方法も変わります。

当然、多額の投資も必要でした。

社内からは疑問が出ます。

本当に原油価格は上がり続けるのか。
木材を安定して集められるのか。
投資を回収できるのか。
いまの設備でも工場は動いているのに、なぜそこまでリスクを取るのか。

どれも、もっともな懸念でした。

Rさんにも未来は読めません。

それでも、
原油だけに工場の命運を預け続けることの方が、長い目では大きなリスクではないか。

そう考えました。

公的な支援制度も活用しながら、RRクリーニング社は木質バイオマスボイラーの導入へ踏み切ります。


未来を当てるのではなく、選べるようにする

設備導入後、原油価格は大きく上昇しました。
重油だけを使い続けていれば、工場のコストはさらに膨らんでいたはずです。

RRクリーニング社では、燃料の一部を木材へ置き換えられるようになっていました。

結果として、燃料費上昇の影響を抑えることができました。

しかし、これは、
「Rさんが原油価格の高騰を当てた」
という話ではありません。

大切なのは、
経営の選択肢を増やしたこと
でした。

原油価格が上がれば、木材を使える。

価格が下がっても、複数の燃料を選べる状態は残ります。
一つの未来へ賭けたのではありません。

未来がどちらへ動いても、対応できる余地をつくったのです。


捨てられていた木を、燃料として見る

新しいボイラーを導入しても、燃やす木材が自然に集まるわけではありません。

そこでRさんたちは、
「地域に、燃料として使えるものはないか」
と探し始めました。

候補の一つが、建設現場などから出る木質系の廃材でした。

解体や工事で出た木材は、これまでなら費用をかけて処分されます。

けれど、燃料として扱える形へ整えれば、熱を生みます。

ある場所では、処分すべきごみ。
別の場所では、工場を動かす燃料。

同じ木材でも、置かれる仕組みによって意味が変わります。

RRクリーニング社が新しい価値を“与えた”というより、
木がもともと持っていた力を、事業の成果へつなぐ場所をつくった
と言った方が近いかもしれません。


山に残されていた木

やがて目は、山林にも向きました。

森林を健全に保つためには、木を適度に伐る必要があります。
しかし、細い木や曲がった木は、建築材として高く売れないことがあります。

運び出す費用の方が高くなり、山に残されることもある。

「価値が低い木」
と見られてきたものです。

けれど、本当に価値がないのでしょうか。

建築材には向かない。
家具にも使いにくい。
市場価格も低い。

それは、
これまで想定されていた使い方に合わなかった
というだけかもしれません。

燃料として見れば、その木は熱を生みます。
工場のお湯や蒸気をつくり、クリーニングの仕事を支えます。

山に残されていた木が、
地域の会社を守る資源
へ変わったのです。


一度使った割り箸にも、まだ役割がある

この発想は、さらに身近なものへ広がりました。

飲食店で一度使われた割り箸です。

食事が終われば、ごみになります。
けれど、木であることに変わりはありません。
適切に回収し、燃料として使える状態にすれば、熱を生みます。

一本から得られる熱は小さくても、地域の飲食店や施設から継続的に集めれば、一つの資源の流れになります。

廃棄物を減らす。
燃料を補う。
地域の事業者が環境活動へ参加できる。

そして、RRクリーニング社と地域との新しい接点にもなります。

Rさんたちが探していたのは、
単に「燃えるもの」ではありませんでした。

捨てる人。
運ぶ人。
燃料を必要とする工場。

それぞれが別々に抱えていたものを、
互いの成果につながるように組み合わせ直したのです。


一つの依存先を、別の一つへ変えない

ただし、重油をやめて木材だけにすればよい、という話ではありません。

木材にも価格変動があります。
供給量も変わります。
水分量によって燃焼効率も変わります。
運搬費もかかります。

重油への依存を、木材への依存へ置き換えただけでは、問題の本質は変わりません。

重要なのは、
状況に応じて選べる状態をつくること
です。

重油。
建設廃材。
山林の未利用材。
地域で回収した木材。

それぞれに長所と弱点があります。

正解を一つに決めるのではなく、
変化に応じて選べる経営をつくる。

それが、この投資の本当の意味でした。


環境への取り組みが、顧客の価値にもなる

木質バイオマスの活用は、自社の燃料費を抑えるだけではありませんでした。

ホテルでは、毎日たくさんのシーツやタオルが使われます。
それらを洗うためには、水とエネルギーが必要です。

RRクリーニング社が、

地域の未利用資源を使っている。
廃材を燃料へ変えている。
化石燃料への依存を減らそうとしている。

その事実は、取引先のホテルにとっても意味があります。

環境への配慮を、自社の宿泊客へ伝える材料になるからです。

つまり、
RRクリーニング社の燃料の選び方が、取引先の顧客価値にもつながる。

燃料費を守るために始めた投資が、顧客のブランドや営業活動を支える価値にもなりました。


環境と利益を、別々に考えない

環境への取り組みは、本業とは別の社会貢献として扱われることがあります。

利益を上げた後で、余裕があれば取り組む。

しかしRRクリーニング社では、環境と利益を同じ仕組みの中に入れました。

木材を燃料へ変えることで、原油価格の影響を抑える。
燃料費を抑えられれば、雇用や設備を守りやすくなる。
廃材や間伐材を活用すれば、地域の処分負担も減らせる。
環境への取り組みは、取引先にとっても顧客へ伝えられる価値になる。

つまり、
利益を得ることと、社会にとって望ましいことを、同じ仕組みで実現する。

経済的な意味があるから続けられる。
続けられるから、社会的な効果も積み重なります。

一度きりの善意ではなく、
経営として続けられる形にすること
が大切だったのです。


見過ごされていたものの中に、機会を探す

ドラッカーは、事業の機会について次のように述べています。

機会を持たない企業は生き残ることができない。そして、潜在的な機会の発見に努めない企業は、その存続を運に任せることになる。

『実践するドラッカー[事業編]』第7章 事業機会を発見する p.212
(『創造する経営者』p.228)

機会とは、突然現れる幸運だけではありません。

すでに身の回りにありながら、
今までの仕事の見方では価値として認識されていなかったものの中にもあります。

建設現場の廃材。
山に残された木。
一度使った割り箸。

従来なら、処分するもの、価値の低いものです。

しかし、
工場に必要な「熱」という成果から見ると、燃料になり得る。

Rさんたちは、原油価格が下がる幸運を待ちませんでした。

地域に何が余っているのか。
何が捨てられているのか。
何が十分に使われていないのか。

それを、自社に必要な成果へ結びつけられないか。

そう考えながら、潜在的な機会を探しました。


価値がないのではなく、使い方が合っていない

ここまでのRRクリーニング社の実践には、共通する見方があります。

障がいのある人を、
「できないことが多い人」
として見るのではなく、仕事を組み直して強みが成果になる場所をつくる。

施設入居者の衣類を、
「まとめて管理する洗濯物」
として扱うのではなく、一人の生活者の持ち物として扱う。

木材を、
「価値の低い廃材」
として捨てるのではなく、燃料として工場を支える流れをつくる。

人も、ものも、
最初から価値がないわけではありません。

いまの仕事、いまの市場、いまの使い方では、
その価値が成果へ結びついていないだけなのかもしれません。

Rさんたちは、
価値の低いものを高く見せようとしたのではありません。

本当に役立つ場所と、役立つ方法を探したのです。


原油価格ではなく、経営の選択を変える

原油価格が上がること自体は、RRクリーニング社には止められません。

しかし、
重油だけに頼るかどうかは、自分たちで選べます。

廃材を、そのまま廃材として扱うのか。
地域の資源として使うのか。

環境対策をコストと見るのか。
顧客価値と利益につながる仕組みにするのか。

変えられない環境に、ただ耐え続ける必要はありません。

その影響を受けにくい構造をつくる。

別の資源を探す。
複数の選択肢を持つ。
自社だけでなく、地域や顧客にも価値が生まれるよう組み直す。

Rさんは、外部環境と正面から戦ったのではありません。

外部環境に振り回されにくい、別の道をつくったのです。

会社の利益と雇用を守るという目的は変えない。

ただ、その目的へ至る道を変えました。


【今日の問い】

Q:あなたの会社の周りに、まだ機会として見えていないものは何でしょうか。

機会というと、新市場や新技術を思い浮かべるかもしれません。

けれど、もっと身近なところにもあります。

いま捨てているもの。
使われていない設備や場所。
空いている時間。
仕事にならないと思われている能力。
顧客や地域が困っているのに、誰も引き受けていないこと。

いまの見方では価値が低くても、

自社が必要としている成果や、顧客が求めている変化から見直せば、

新しい役割を持つかもしれません。

RRクリーニング社にとって、廃材や間伐材は、最初から燃料だったわけではありません。

必要な「熱」から逆算して見直したことで、事業の機会になりました。

あなたの会社の周囲にも、価値がないのではなく、まだ役立つ場所や使い方が見つかっていないものはないでしょうか。


~次回予告~

次にRRクリーニング社を襲ったのは、燃料価格の上昇とは比べものにならない危機でした。

ホテルの宿泊客が消え、宴会がなくなり、工場の仕事が急減します。

Rさんは、『創造する経営者』を開き、最悪の状況を予算へ入れることから始めました。

次回、

工場が週1回しか動かなくなった――『創造する経営者』と対話し、最悪を予算に入れる

へ続きます。

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