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実践するドラッカー 実践編 第75話:逆境を「迂回」する~目的は変えず、道を変える②(全9話)

事例15-2 毎年、雇う人数から必要な利益を考えた――母の願いが変えた、会社の利益設計

「今年は、何人を採用するのか」

RRクリーニング社では、年度の計画を立てるとき、売上や利益だけでなく、障がいのある人を何人迎えるかを考えていました。

まず、採用人数を決める。
その人たちを継続して雇用するために必要な費用を計算する。
その費用を賄うには、どれだけの粗利益が必要か。
さらに、その粗利益を確保するには、どれだけの売上が必要か。

一般的な中小企業でも、必ずしも「儲かったから採用する」わけではありません。

仕事が増え、今の人数では回らなくなった。
新しい店舗や営業所を開く。
退職者の穴を埋める。

多くの場合、先に仕事や配置があり、そこへ必要な人数を補います。

この仕事量なら、あと二人必要だ。
新店舗を動かすには、五人採用しなければならない。

採用とは、すでにある仕事を回すために、必要な「頭数」をそろえることになりがちです。

その場合、求める人材像も既存の仕事を前提に決まります。

決められた時間に働ける人。
既存の工程を覚えられる人。
必要な速さと正確さで処理できる人。

つまり、仕事の形は変えず、そこへ合う人を探すという順番です。

RRクリーニング社は、少し違っていました。

まず、今年は何人を迎えるのかを決める。
その人たちが働き続けられる利益と仕事を、会社としてどうつくるかを考える。

既存の仕事へ当てはめることが難しければ、工程や役割の方を見直していく。

人を迎えると決めたところから、利益と仕事の設計が始まったのです。

その始まりには、Rさんの母親の願いがありました。


「今年も、卒業生を採用してほしい」

Rさんの母親は、障がいのある子どもたちが通う学校で、教員をしていた経験がありました。

学校では教育を受けられても、卒業後に働く場所が見つからない。
働く意欲や力があっても、受け入れる会社が少ない。
卒業した途端に、社会との接点を失ってしまう。

母親は、そうした教え子たちの姿を何度も見てきました。

そこで、夫であり、当時RRクリーニング社の社長だったRさんの父親に頼みました。

「今年も、卒業生を採用してほしい」

父親は、その願いを受け入れました。

一度だけではありません。
毎年のように、新たな卒業生を迎えました。

しかし、現場にとっては、善意だけでは済まない話でした。

「今年も採用するのですか」
「どの仕事を担当してもらえばよいのでしょう」
「仕事を教えるのは誰ですか」
「今いる人たちへの対応だけでも大変です」

その反応は、必ずしも冷たさから出たものではありません。

工場には、日々の生産目標があります。
ホテルや病院から届く大量のシーツやタオルを、決められた時間までに洗浄し、仕上げ、出荷しなければなりません。

安全への配慮も欠かせません。
障がいの特性も、一人ひとり異なります。

現場が心配していたのは、採用そのものよりも、迎えた人にどうすれば継続して働いてもらえるのかということでした。

Rさん自身も、負担を感じるようになりました。

あるときには母親へ、
「もう勘弁してほしい」
「これ以上の採用は難しい」
と頼んだこともあったそうです。

しかし、父親は母親の側に立ちました。

今年も、その学校の卒業生を迎える。

その方針は変わりませんでした。


雇う人数を、経営計画の出発点にする

人を採用すれば、毎月の給与だけでなく、社会保険料や教育費も必要になります。
仕事を教える人の時間を確保し、安全に働ける設備や道具を整える必要もあります。

仕事が少ない月があっても、雇用は続きます。

採用するとは、一時的に働く場所を提供することではありません。

その人が働き続けられる事業をつくるという約束でもあります。

ドラッカーは、事業を続けるためのコストについて、次のように述べています。

コストを賄うことは経営管理者の責任である。このことに異議を唱える者はいない。事業継続のためのコストを賄うことは、経営管理者の責任である。

『実践するドラッカー 利益とは何か』第5章 道具としての「利益」を使いこなす
事業継続のコスト水準を知る p.151
(『[新訳]乱気流時代の経営』p.39)

障がいのある人を雇用するという目的が正しくても、それだけでは続けられません。

給与を支払い、仕事をつくり、設備を維持し、会社を存続させる。

そのために必要なコストを賄うことは、経営者が引き受けなければならない責任です。
RRクリーニング社では、今年迎える人数が決まると、必要な費用を数字に置き換えました。

ただし、人件費と同じだけ売上を増やせばよいわけではありません。
売上からは、洗剤、燃料、配送費、設備費なども支払います。
雇用を支えるには、必要な粗利益を計算し、そこから売上を逆算しなければなりません。

つまり、
「今年は何人を迎えるのか」
という決定は、

「その人たちが働き続けられる仕事を、会社全体でどれだけつくるのか」
という決定でもありました。

採用人数は、現在の仕事量から導かれる「必要な頭数」ではありません。

会社が実現しようとする未来を示し、利益と売上の計画を始める数字だったのです。


数字の先に、人の顔がある

新たな採用を決めれば、その雇用を支える仕事が必要になります。

営業担当者には、新規顧客の開拓や、既存顧客との取引を広げる目標が加わりました。
同時に、工場では無駄や手戻りを減らし、管理部門では外部経費を見直しました。

売上を増やしても、それ以上に費用が増えれば、雇用を支える利益は残らないからです。

営業は、新しい仕事をつくる。
工場は、生産性を高める。
管理部門は、経費を見直す。
経営者は、必要な利益と売上を設計する。

障がい者雇用は、人事や工場だけの課題ではなく、会社全体の経営課題になりました。

現場だけへ教育や安全管理、仕事探しの負担を集中させれば、長くは続きません。

善意にも限界があります。

RRクリーニング社は、雇用を現場の優しさだけに頼らず、会社全体で支える仕組みへ変えていきました。

売上目標にも、明確な意味が生まれます。

今年、新たに迎える人がいる。
すでに働いている人たちの雇用も続ける。
その人たちが来年も安心して働くために、これだけの利益が必要になる。

数字の先に、具体的な人の顔があったのです。


「社会貢献」と「経営」を分けない

障がい者雇用は、しばしば社会貢献として語られます。

本業で十分な利益を出した会社が、余力を使って取り組む活動。

採算とは別に行う、善意の行為。

しかし、RRクリーニング社では、障がい者雇用と本業を分けませんでした。

障がいのある人を迎える。
働き続けられる仕事をつくる。
そのために必要な利益を確保する。

それらは、すべて一つの経営活動でした。

社会的に意味があるからといって、採算を考えなくてよいわけではありません。

反対に、採算が厳しいからといって、目的を諦めるわけでもありません。

果たしたい目的を先に決め、その継続に必要な利益を設計する。

第一話でRさんがたどり着いた、
「利益は、幸せの継続のためにある」
という考え方が、具体的な経営の仕組みになっていました。

しかし、人数を先に決めたことで、もう一つの問題が見えてきます。

利益を用意するだけでは、人は働けない。
その人が力を発揮できる仕事も、同時につくらなければならなかったのです。


「できそうな仕事」を探すだけでは続かなかった

採用した人たちは、主にクリーニング工場で働きました。

けれど最初から、一人ひとりの強みを理解できていたわけではありません。

現場では、まず、
「障がいのある人にも、できそうな仕事は何だろう」
と考えました。

簡単な仕事。
危険が少ない仕事。
判断をあまり必要としない仕事。
繰り返し行う単純作業。

そうした業務を既存の工程から切り出し、担当してもらおうとしました。

一人や二人なら、その方法でも対応できます。
しかし、毎年採用を続けていくと、やがて限界が訪れました。

「できそうな仕事」を探すだけでは、人数分の仕事を用意できない。
単純な仕事ばかりでは、本人の能力も十分に生かせない。

人を迎えることを先に決めた結果、工場の仕事のつくり方そのものが問われ始めたのです。


人を仕事へ合わせるだけでは、限界がある

一般的な職場では、先に仕事の形が決まっています。

この時間までに出勤する。
この手順で作業する。
この速さで処理する。
複数の仕事を覚え、状況に応じて判断する。

そこへ人を合わせます。

できないことがあれば、訓練してできるようにする。
間違いがあれば、注意して直してもらう。

しかし、障がいのある人が工場で働く割合が増えるにつれ、その方法だけでは対応できなくなりました。

人を既存の仕事へ合わせようとすれば、できないことばかりが目につきます。

けれど、仕事の側を変えれば、本人の特性が力になるかもしれません。

作業工程を分ける。
道具の置き場所を変える。
指示の出し方を変える。
判断が必要な工程と、反復作業を分ける。
集中しやすい仕事へ配置する。

Rさんたちは、人を変えるのではなく、仕事の設計を変える必要に迫られていきました。


雇用が、会社の隠れた問題を見えるようにした

毎年、新しい人を迎える方針は、会社に次々と課題を持ち込みました。

仕事を増やすには、営業力が必要です。
利益を残すには、経費や無駄を減らさなければなりません。
一人ひとりが働けるようにするには、工程や設備を見直す必要があります。

その課題へ向き合うなかで、RRクリーニング社には、

新規顧客を開拓する力。
コストを管理する力。
生産工程を設計する力。
人へ仕事を教える力。
多様な人を受け入れる力。

が、少しずつ育っていきました。

正確には、障がいのある人が問題を持ち込んだわけではありません。

これまで一部の社員の器用さや経験で覆い隠されていた問題が、その人たちを迎えたことで見えるようになったのです。


願いを、継続できる仕組みに変える

始まりは、Rさんの母親の願いでした。

教え子たちに、卒業後も働く場所をつくってほしい。

その願いを、父親である社長が受け入れました。

けれど、願いだけでは雇用を続けられません。

毎年、雇う人数を決める。
必要なコストと利益を計算する。
営業目標へ落とし込む。
経費を見直す。
そして、一人ひとりが力を発揮できるように、仕事の工程をつくり直す。

母親の願いは、採用方針になりました。
採用方針は、利益計画になりました。
利益計画は、会社全体の行動と、仕事の再設計へつながりました。

個人の思いが、会社として継続できる仕組みに変わったのです。

RRクリーニング社は、余裕ができてから雇用を始めたわけではありません。

今年は何人を迎えるのかを先に決めたから、その人たちを支えられる事業をつくろうとしました。

必要なのは、理想か利益かの二者択一ではありません。
果たしたい目的を定め、その目的を続けるための利益と仕事を設計することです。

利益は、ただ多ければよい数字ではありません。
人を迎え、雇用を続け、仕事をつくるために使いこなす道具なのです。


【今日の問い】

Q:あなたの会社では、実現したい未来から必要な利益を考えているでしょうか。

一般的な人員計画では、今ある仕事を回すために、必要な人数を考えます。

しかし、先に実現したい未来を決めると、問いの順番が変わります。

どのような人を迎えたいのか。
その人たちに、どのように働き続けてもらいたいのか。
そのために必要な費用と利益はいくらか。
どの顧客へ価値を届け、どの仕事を増やすのか。

そして、迎えた人の力が成果になるように、どの仕事や仕組みを変えるのか。

利益が出てから目的を決めるのではありません。

先に果たしたい目的を決め、そこから必要な利益と仕事を考える。

この順番へ変えると、売上目標や利益目標は、前年を上回るためだけの数字ではなくなります。

実現したい未来を継続するための条件として、意味を持ち始めるのではないでしょうか。


~次回予告~

毎年、雇う人数を決め、その雇用を支える利益を計画してきたRRクリーニング社。

しかし、採用する人が増えるにつれ、
「障がいのある人にもできそうな仕事」
を探すだけでは追いつかなくなりました。

既存の仕事へ人を当てはめる方法そのものに、限界が見えてきたのです。

そこでRさんたちは、人の弱みを直すのではなく、強みが成果になるように仕事をつくり直し始めます。

同じ作業を、長時間正確に続けられる人。
一度見ただけで、大量の配送情報を記憶できる人。
これまで「障がいの特性」と見られていたものが、仕事の置き方を変えると、誰にもまねできない強みとして現れました。

次回、「できる仕事」を探すのをやめた~強みが成果になるように、仕事をつくり直す~へ続きます。

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

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