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実践するドラッカー 実践編 第18話:強みを生かし合う組織を作る①(全5話)

事例5-1:守ろうとするほど、苦しくなる~決断できなかった日々

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

■突然のバトンタッチ

Eさんは、ある会社の事業部長として働いていました。

ある日、当時の社長から、信頼する上司とともに呼び出されます。
そこで告げられたのは、一言でした。

「会社のこれからを、君たちに任せたい」

それが、新しい経営の始まりでした。
上司は社長に、
Eさんは専務に就任します。

■ 地域に根ざしたビジネス

舞台は、山地が多く小さな商圏が点在する、人口およそ200万人の県。

この会社は、固定店舗に依存せず、
移動店舗や簡易店舗によるテイクアウト型の飲食事業を展開してきました。

地域ごとの需要に合わせて機動的に出店できる、その柔軟さが強みでした。

■ 成長の先にあった"複雑さ"

先代社長は、小さな規模から事業を立ち上げ、
倍々のペースで成長させ、年商20億円を超える規模へと育て上げました。

しかし、規模が大きくなるにつれ、判断すべきことが増え、条件が複雑に絡み合い、全体が見えにくくなっていきます。

「企業経営が、楽しくなくなってきた」

先代社長がそう感じ始めたころ、会社は多角化へと踏み出します。

■ 多角化がもたらした"ほころび"

8年前、新たな事業の柱をつくろうと、
店内飲食型の麺類やカフェにも乗り出しました。

しかし、売上は伸びても収益性は悪化し、
当期損益は赤字に転じます。

2年前から不採算店の閉鎖を進めましたが、結果として6,000万〜7,000万円規模の負債を抱えることになりました。

影響は、数字だけにとどまりませんでした。

「役員会議では数字の話ばかりで、人のマネジメントは後回し。
社員は皆、顔を合わせれば誰かの批判を口にしていた」

Eさんは当時をそう振り返ります。
一体感をもって成長してきた組織は、静かに崩れていきました。

誰もが忙しい。しかし、同じ方向を向いている実感はない。
「会社として動いている」感覚が、失われていったのです。

■ 混乱の中での承継

そのさなか、先代社長はこう言いました。

「自分も年だし、若いあなたたちに任せたい」

組織が揺らぎ始めたまさにそのタイミングで、経営は引き継がれたのです。

当時は、これ以上ないほど難しい出発点に思えました。
しかし、あとから振り返ると、
むしろこのタイミングだったからこそよかった
とEさんは言います。

混乱のさなかであったからこそ、
「自分たちで考えなければならない」
という意識が自然と生まれた。

もし業績が安定した時期に引き継いでいたとしたら、
前のやり方をそのまま踏襲し、
何も問い直すことなく過ごしていたかもしれない、と。

ピンチは、思考の起点でもあったのです。

■「すべてを守ろう」とした結果

引き継いだ直後、二人はこう考えます。

「すべてを守らなければならない」

先代が築いた事業、これまでの取引先、地域ごとに積み重ねてきたやり方。どれも、簡単に手放せるものではありません。

むしろ、
「守り切れなかったら、会社が持たないのではないか」
という不安の方が大きかったのです。

しかし、すべてを維持しようとするほどに、判断は増え続け、
優先順位はつけられず、問題は先送りされていきます。

気づけば、二人自身が疲弊していました。

■ 決断できないまま、消耗していく

仕事はある。売上もある。
それでも「このままでいいのか」という違和感が、消えません。

本来であれば、どの仕事に集中し、
どの仕事をやめるのかを決断しなければなりません。

しかし実際には、
続ける理由はいくらでも見つかり、
やめる決断だけができない。

結果として、すべてを抱え込んだまま、
時間とエネルギーだけが消耗していきます。

より深刻だったのは、意思決定の歪みでした。

構造的な問題であるはずの不採算を、
店長個人の能力の問題にすり替えて責めていたのです。
売上規模が縮むことへの恐れが、本質的な判断を妨げていました。

それが、最も苦しい状態でした。

■「このままではいけない」

そんな日々の中で、一つの感覚だけははっきりと残っていました。

「このままではいけない」

ただ、そのときはまだ、何を変えればいいのか、
言葉にすることができなかったのです。

■ ドラッカーとの出会い

そうした状況の中で、「実践するドラッカー講座」に出会います。

そこで初めて、
ずっと胸の中にあった違和感に「言葉」が与えられていきました。
なかでも、深く刺さったのが次の一節です。

本当に行うべきことは優先順位の決定ではない。優先順位の決定は比較的容易である。集中できるものがあまりに少ないのは、劣後順位の決定、すなわち取り組むべきでない仕事の決定とその決定の遵守が至難だからである。

『実践するドラッカー 思考編』第5章 集中する力
/劣後順位の原則p.234
(経営者の条件 p.149)

読んだ瞬間、Eさんの中で何かがつながりました。

「自分たちは、何から手を付けるかという"優先順位"ばかり考えていた。何からやめるかという"劣後順位"を、主体的に考えることをしていなかった」

その気づきが、次の一歩への扉を開きます。

■ 次回予告

次回は、
勇気をもって「やらないこと」を決めた瞬間と、
その意思決定のプロセスを見ていきます。

【今日の問い】

Q:あなたの会社に、「やめるべきだと感じながら、決められていない仕事」はないでしょうか。

私たちは問題が起きると、「何を追加するか」「何をもっと頑張るか」を考えがちです。
しかしドラッカーは、成果を上げるために本当に難しいのは、「何をやめるか」を決めることだと言います。
なぜなら、続ける理由は、いくらでも見つかるからです。

長年続けてきた仕事。
お世話になった取引先。
かつて成功したやり方。
一度始めた事業。

そこには、思い入れも責任感もあります。

だからこそ、「やめる」という判断は、単なる効率の問題ではなく、不安や恐れとも向き合う意思決定になります。

Eさんたちもまた、「すべてを守らなければならない」と考えていました。しかし結果として、仕事を抱え込み続けることで、

判断が遅れる
問題が先送りされる
人を責める空気が生まれる
本当に大切なことに集中できなくなる

という状態に陥っていきました。

「やめること」を決められない組織は、忙しくはなります。しかし、前には進みにくくなります。
だからこそ、問い直す必要があります。

・ その仕事は、本当に今の自分たちの強みを生かしているのか。
・ それを続けることは、未来を強くしているのか。

「やめる」という決断は、失うことではありません。

本当に大切なものを守るために、限られた資源とエネルギーを集中させる行為でもあるのです。

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