世界のペット事情 #4|デンマーク編
犬にやさしい国は、犬に厳しい国でもあった!?
みてくれてありがとうございます。「世界を見れば日本が見えてくる」ということで、MaNiYa編集部が、海外のペット事情について調べてまとめています。
第4回は、デンマークです。
デンマークと聞くと、まず思い浮かぶのは、ヒュッゲという言葉かもしれません。
あたたかい部屋、心地よい灯り、家族や友人との時間、無理をしすぎない暮らし。
そんなイメージのあるデンマークでは、犬もまた、人の暮らしの近くにいる存在です。北欧らしいシンプルで機能的な犬用品ブランドもあり、犬連れ旅行の情報も整えられていて、犬は生活の中に自然に入っているように見えます。
けれど、調べていくと、デンマークの犬社会は、ただ「犬にやさしい国」とは言い切れないことがわかってきました。
デンマークには、犬の登録制度があります。
犬種によっては、所有や繁殖が禁止されています。
そして2025年7月からは、犬の繁殖に関する新しいルールも始まりました。
犬を社会に迎え入れるために、どこまでルールを作るのか。
犬の自由と、人間社会の安心を、どう両立させるのか。
そして、犬を「かわいい」と思う気持ちの前に、犬の健康や母犬の身体をどこまで考えられるのか。
デンマークの犬事情からは、そんな問いが見えてきます。
犬にやさしい国は、犬に厳しい国でもある。
今回は、その理由を考えてみたいと思います。
ヒュッゲな国の、意外に強い犬のルール
デンマークは、犬と暮らすことが珍しい国ではありません。
コペンハーゲン大学は、デンマークでは猫より犬の方が好まれる傾向があると紹介しています。20年前と比べても、犬を飼う家庭の割合や、飼い主にとっての重要度、病気になった時に治療費をどれだけ払うかという点で、犬が猫を上回っているとされています。(出典:University of Copenhagen “Danes favor canines over felines”, 2021)
犬は、暮らしの中で大切にされている。でも、大切にされているからこそ、かなり強いルールの中にも置かれています。
デンマークでは、すべての犬を登録する必要があります。Danish Dog Registerは、デンマーク政府が1993年にすべての犬にID番号を付け、登録することを義務づけたと説明しています。また、デンマークに輸入された犬は、到着後1か月以内に登録する必要があります。(出典:Danish Dog Register)
犬は、ただ家の中でかわいがる存在ではありません。
社会の中で、誰が責任を持つ犬なのかを明らかにする存在でもあります。
この考え方は、フィンランド編で見た「犬の見える化」とも重なります。
犬を守るためには、犬がどこから来たのか、誰が飼っているのか、どんな責任のもとに暮らしているのかを、社会の中で見えるようにする必要がある。
デンマークの犬社会は、まずそこから始まっているように感じます。

ペットショップで衝動買い、はない
日本では、犬を迎える入口の一つとして、ペットショップがあります。
一方、デンマークでは、犬を迎えるときには、ブリーダー、Danish Kennel Clubの子犬情報、保護団体、個人間、あるいは海外からの輸入などが入口になります。Danish Kennel ClubのHundewebでは、子犬販売リスト、ブリーダーガイド、ドッグショー情報、DKKが登録している犬のデータベースなどを見ることができます。(出典:Danish Kennel Club “Hundeweb”)
これは、衝動買いを減らすという意味では大きな意味があります。
店頭で一目惚れして、その日のうちに連れて帰る。その出会い方は、犬にとっても、人にとっても、必ずしも良いとは限りません。
犬を迎えるということは、その子の一生を引き受けること。
だからこそ、犬と出会う入口そのものを、少し立ち止まれる形にする。
ただし、ペットショップ販売が中心ではないからといって、問題がすべて解決するわけではありません。
便利に、早く、安く子犬を欲しいという需要が残れば、その需要はオンライン取引や海外からの輸入に流れる可能性があります。デンマークの犬購買行動に関する研究でも、東欧などからの合法・違法の輸入があり、特にチワワやフレンチブルドッグなどの人気犬種で問題になりやすいと指摘されています。(出典:Austrian Veterinary Associationほか, 2017)

北欧デザインの思想が宿る犬用品
デンマークの犬文化を見ていて面白いのは、犬用品にも北欧らしさが出ていることです。
たとえば、DOG Copenhagenというデンマーク発のドッグギアブランドがあります。2015年に設立されたブランドで、ハーネス、首輪、リードなどを展開し、機能性、耐久性、シンプルなデザインを大切にしています。(出典:DOG Copenhagen)
日本の犬用品には、犬をかわいく見せる服や小物もたくさんあります。
それは、日本の「うちの子文化」の豊かさでもあります。
一方で、デンマークの犬用品には、犬を飾るというより、犬との暮らしを快適にする道具としての美しさを感じます。
この点は、MaNiYaが考える「知識に基づいた愛」ともつながります。

“かわいい”より先に、健康であること
デンマーク編で最も重要なのは、2025年7月から始まった犬の繁殖に関する新しいルールです。
Danish Kennel Clubの発表によると、2025年7月1日から、対象となる多くの犬種とそのミックス犬について、繁殖前に健康検査を行い、健康状態を把握することが義務づけられます。また、子犬の健康や福祉に明確なリスクをもたらす遺伝的特徴を持つ犬は、繁殖に使ってはならないとされています。(出典:Danish Kennel Club “Healthy Dog Breeding in Denmark: A New Regulation Sets a Global Standard”, 2025)
新しい繁殖ルールで大切なのは、子犬の健康だけではありません。
繁殖に使われる雌犬、つまり母犬の福祉にも目が向けられていることです。
Danish Kennel Clubの発表では、雌犬が何歳から何歳まで子犬を産めるか、何回まで出産できるか、出産間隔をどうするかといったルールも含まれていると説明されています。(出典:Danish Kennel Club, 2025)
子犬を愛するなら、母犬のことも見なければいけない。
デンマークの繁殖規制は、そんな当たり前だけれど見落とされやすいことを、制度の中に入れようとしているように見えます。
血統書の外側にいる犬まで、どう守るか
もう一つ注目したいのは、デンマークの新しい繁殖ルールが、血統犬だけに閉じていないことです。
Danish Kennel Clubは、新しい規制によって、DKKに登録されていない犬にも健康検査が求められるようになると説明しています。また、DKK血統書のない犬の健康情報も登録できる犬の健康ウェブサイトを立ち上げる方針も示しています。(出典:Danish Kennel Club, 2025)
これは、フィンランド編で見た仕組みとの違いとしても面白い点です。
フィンランドの公開繁殖データベースは、主にケネルクラブに登録された犬が対象でした。つまり、信用ある繁殖の世界では強い仕組みですが、登録外の犬やミックス犬まで完全に網羅しているわけではありません。
一方でデンマークは、新しい繁殖規制の中で、血統書のある犬だけでなく、より広い犬の健康管理へ向かおうとしているように見えます。
もちろん、制度が始まったばかりで、どこまで実効性を持つのかは今後を見る必要があります。
それでも、「血統書がある犬だけを守ればよい」という考え方から一歩進み、どの犬も健康に生まれる権利がある、と考えようとしている点は重要です。

非常に強い犬種規制
デンマークでは、13の犬種とそのミックス犬について、所有や繁殖が禁止されています。対象には、ピットブル・テリア、土佐犬、アメリカン・スタッフォードシャー・テリア、ドゴ・アルヘンティーノ、アメリカン・ブルドッグ、カンガールなどが含まれています。(出典:Danish Veterinary and Food Administration “Danish Legislation on Dogs”)
VisitDenmarkの旅行者向け情報でも、これらの犬種の飼育、繁殖、輸入は禁止されており、違反した場合には罰金や飼い主への刑罰だけでなく、犬が安楽死の対象になる可能性があると説明されています。(出典:VisitDenmark “Dog-friendly Denmark”)
犬を守ることと、人を守ることのあいだで
デンマークの犬法には、犬の命と人の安全のあいだで揺れてきた歴史もあります。
2014年、デンマーク議会は犬法を改正し、迷い犬を撃つことを違法にしました。また、犬が人や他の動物を激しく攻撃した場合に、飼い主が犬の専門家による評価を求められるようになりました。デンマーク政府は、この改正について、犬の飼い主により大きな安心を与えるものだと説明しています。(出典:Danish Ministry of Food, Agriculture and Fisheries “The Danish dog law”)
ペットショップがなくても、問題は消えない
デンマークの犬流通を見ていると、日本にとって大きな示唆があります。
日本では、ペットショップで子犬を販売する文化が批判されることがあります。
衝動買いにつながる。
親犬の繁殖環境が見えにくい。
売れ残った犬がどうなるのか不透明。
かわいい時期だけが商品化されやすい。
こうした批判には、考えるべき点があります。
一方で、デンマークを見ると、ペットショップ販売が中心ではないからといって、犬の流通問題がすべてなくなるわけではないこともわかります。
需要がある限り、子犬はどこかから来ます。
国内の良いブリーダーから迎えられればよいですが、人気犬種への需要が強ければ、オンライン取引や海外からの輸入、場合によっては違法な流通に流れる可能性があります。
つまり、犬を守るには、売る場所だけを変えるのでは不十分です。
犬を迎える人が、何を見て、何を聞き、どんな情報をもとに選ぶのかを変える必要があります。
ペットショップをなくすことだけが答えではありません。
でも、ペットショップが今のままでよいわけでもありません。
日本で考えるなら、ペットショップを「かわいい子犬に出会う場所」から、「犬を迎える責任を学ぶ入口」に変えることができるかもしれません。
親犬の情報が見える。
健康検査の情報が見える。
繁殖者の情報が見える。
遺伝病リスクを説明する。
飼育費や医療、老犬期、防災まで含めて説明する。
売るだけでなく、迎えた後も相談できる。
そうした透明性があれば、ペットショップは単なる販売場所ではなく、犬と人の未来をつなぐ場所になれるかもしれません。
MaNiYaとして考えたいこと
MaNiYaが大切にしているのは、犬への愛を、知識と倫理によって社会に翻訳していくことです。
犬を愛している。
かわいい。
一緒に暮らしたい。
その気持ちは、とても自然で、とても尊いものです。
でも、犬を愛することは、犬を自由にすることだけではありません。
犬が健康に生まれること。
母犬が守られること。
犬の出自が見えること。
人間社会の不安にも向き合うこと。
犬を迎える前に、必要な情報を知ること。
デンマークの犬事情を見ていると、犬を守るためには、やさしさだけでは足りないのだと感じます。
ルールが必要な場面もあります。
登録が必要な場面もあります。
厳しい線引きが必要だと考えられる場面もあります。
犬への愛を、社会の仕組みに変えること。
それは簡単ではありません。
でも、犬を見えないまま売らない。
犬を見えないまま迎えない。
犬を見えないまま愛さない。
そのために、情報を見えるようにし、選び方を変え、犬を迎える入口を変えていくことはできるはずです。
MaNiYaとしては、犬を迎える前のチェックリストや、ケア記録、ペット防災、地域でのつながりづくりを通じて、犬への愛を行動に変える仕組みを考えていきたいです。
愛は、気持ちだけでは終わらない。
知ることから、愛は深くなる。
デンマーク編は、そんなことを教えてくれます。
おわりに
デンマークは、犬にやさしい国です。
でも同時に、犬に厳しい国でもあります。
犬は登録され、繁殖には健康検査が求められ、母犬の福祉にも目が向けられています。
一方で、13の犬種とそのミックス犬は禁止され、すべての犬に開かれた国とは言い切れません。
犬を守るために、どこまでルールを作るのか。
人の安全を守るために、どこまで犬の自由を制限するのか。
かわいい子犬を迎える前に、母犬の身体や、繁殖の背景まで考えられるのか。
デンマークの犬事情は、私たちにたくさんの問いを投げかけます。
日本では、ペットショップで犬と出会う文化が今も身近にあります。
それを単純に否定するだけではなく、犬を迎える入口を、もっと透明で、もっと学びのあるものに変えていけるのではないかと思います。
犬にやさしい社会とは、犬を何でも自由にする社会ではないのかもしれません。
犬が健康に生まれ、安心して暮らし、人間社会の中で受け入れられる条件を、みんなで考える社会なのだと思います。
世界を見れば、日本が見えてくる。
デンマークの犬事情から、日本のペット流通と、これからの犬との暮らしを考えたいと思いました。
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主な参考資料
Danish Kennel Club|Healthy Dog Breeding in Denmark: A New Regulation Sets a Global Standard
2025年7月1日から始まる犬の繁殖規制、健康検査、遺伝的特徴を持つ犬の繁殖制限、母犬の福祉に関するルールについて参照。Danish Veterinary and Food Administration|Danish Legislation on Dogs
デンマークの犬法、13犬種とそのミックス犬の所有・繁殖禁止について参照。Danish Dog Register
デンマークにおける犬の登録制度、輸入犬の登録について参照。Danish Kennel Club|Hundeweb
DKKの子犬販売リスト、ブリーダーガイド、犬のデータベース、ドッグショー情報について参照。Danish Kennel Club|About DKK
デンマーク・ケネルクラブの概要、会員数、設立年について参照。University of Copenhagen|Danes favor canines over felines
デンマークでは猫より犬が好まれる傾向があるという調査について参照。DOG Copenhagen
デンマーク発のドッグギアブランドとして参照。VisitDenmark|Dog-friendly Denmark
犬連れ旅行と禁止犬種に関する旅行者向け情報について参照。Danish Ministry of Food, Agriculture and Fisheries|The Danish dog law
2014年の犬法改正、迷い犬への対応、専門家評価について参照。環境省|災害、あなたとペットは大丈夫?
日本におけるペット防災、同行避難、備えに関する資料として参照。
