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映画「フロントライン」事実に基づく物語が、事実をデフォルメするのは正しい

私は「based on a true story」映画が好きだ。そしてハリウッド映画には実に多い。安易に既存の原作に頼らず、実際にあった興味深い出来事をフィクションに仕立てる映画は、背景に事実があるからこそ胸に迫るものがある。だからと言って決して、事実のままにはなっていない。そこが誤解されるところで、ドキュメンタリーではないのだから、事実を上手にデフォルメして映画として面白くしていいし、するべきなのだ。
ところが日本の事実ベースの映画は面白いものが少ないように思う。岡本喜八や今村昌平の作品は良いものが多いが、他の多くはイデオロギーが立ちすぎ、また事実にこだわりすぎて面白くない。
最近では2023年の「Winny」が素晴らしかった。脚本を何年もかけて改稿を重ねたそうで、事実をどう脚本化すればいいかにちゃんとこだわり、ちゃんと面白く、事実だからこそ訴えるものもあった。

そして公開中の「フロントライン」が面白い。丁寧に事実に取材し、それを映画として面白くデフォルメしている。正しいデフォルメだと言える。
舞台は2020年2月、横浜港停泊中の豪華客船ダイヤモンドプリンセス。誰もが記憶する、日本で最初に新型コロナ感染が起きた場所だ。主人公はDMATのリーダー、結城。災害対応の医療チームなのにウイルス対応に駆り出され、使命感に燃える熱い男を小栗旬が演じる。主人公らしいキャラクターで、彼を通して物語にすんなり入れる。
その相棒で、船に乗り込んで対処するDMAT実働部隊のトップ、仙道。このキャラがいい!クールにやるべきことに取り組み、ぶっきらぼうで結城に言うべきことはストレートに言う。窪塚洋介の役作りがカッコよく、誰しも惚れるだろう。
結城とともに港の司令室でDMATとの窓口役となる厚労省の役人、立松もいいキャラだ。松坂桃李が、最初は医師に無理強いする嫌なやつかと思いきや、実は医師たちのために機転を利かせるナイスガイを演じている。
現場の医師として、その苦悩を象徴するキャラが真田。黙々と治療に取り組みつつ、次々に迫る困難を背負う苦しみを、池松壮亮が巧みに演じる。
この4人のキャラクター設定が本当によくできていて、それぞれの立場の違い、それによる相剋も描き分けた上で、同じ目標に向かって団結する姿に胸が熱くなる。
聞くところでは、モデルとなった人物それぞれは、(当たり前だが)この役者たちのようなイケメンではないらしい。もっとおっさん臭かったりするそうだ。でもあの時あの現場では、みんなイケメンだったのだ!松坂桃李が演じた厚労省の役人は2人を合わせたキャラクターだと説明されている。そのデフォルメも、正しい!
あの船、のちに全国に広まるコロナ禍のフロントラインで、無名のこんなに頑張ったやつらがいた。この映画が訴えたいのはそれ以上でもそれ以下でもない。ただそれを知った私たちは、彼らに今さらながら感謝し拍手したい。
(以下、ネタバレあり)

ハリウッド映画を見ているとCDC(疾病予防管理センター)がよく出てくる。感染症が発生した時はCDCが司令塔となって対処する。コロナ禍でDMATは同じような存在と思っていたが、あくまで災害時の医療チームだとこの映画で知った。神奈川県庁がここを頼るしかないと連絡し、結城は戸惑いながら使命感を持ちチームとともに動いた。
感染症への対処で辛いのが、世間から批判され、家族が差別されることだ。そのうえ、客船での感染症の対応は、世間から見えずモタモタしているように感じてしまう。
私自身も、もう忘れてしまったがそうだったように思う。何やってんの?この人たち大丈夫なの?そんな目で見ていた。
極め付けが、船内に入った医者、六合承太郎によるYouTube配信だ。このモデルとなった医者の名前も忘れてしまったが、あの動画でDMAT批判が高まった。なんだ、全然ダメなのか。告発者がたった1人いると、なぜかそれだけを信じてしまう。
最悪なのが、この時のマスメディアだった。六合医師の動画にすっかり乗っかって、DMATと厚労省への批判に世論を導いた。
いまはSNSがデマの温床のように言われるが、この時は検証することなくSNSの動画をテレビ局がこぞって紹介した。描きたかったのはそこなのだろう。
完全に面白がってるだけの報道部門の責任者が登場する。最初は指示通りに報道する女性記者も出てくるが、途中から悩み始める。
少々図式的すぎる。あんなにわかりやすく視聴率しか気にしない報道責任者もいないだろうし、あれほどわかりやすく改心する記者もいないだろう。これもデフォルメだし、大きく見ればこんなものかもしれない。
主人公たちの使命に身を捧げる姿が尊く、そこを見てもらいたい映画だろうが、同時にメディアの問題をはじめ様々なことに思いが行く。それこそが「事実に基づく映画」の役割だと思う。
この映画の中心人物は企画・脚本・プロデュースにクレジットされている増本淳だろう。フジテレビで「コードブルー」などのプロデューサーだったが、2019年にフリーランスになっている。
きっとあの船で起こったことを描きたいと思いををふくらませ、一人一人に取材し、先述のキャラクターも考えて脚本化したのだと思う。そこには届けたいという「熱」がある。あの時からたった5年で公開にこぎつけたのもすごい。並の思いではできないはずだ。コンテンツに「熱」が一番大事だと、思い知らされる映画だと思う。

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