浮かれる私
会社の電話越しに聞こえた、よそ行きの声。
それだけで、心が少し浮かれてしまった。
ーー
新入社員の私のデスクの内線電話が鳴ることは、めったにないの。
だから、この電話は関本さんからだと確信したの。
家の電話だったら、5回くらいベルの音を待ってから受話器を上げると思うの。
でも、ここは会社。
電話が鳴ったら今やっている作業の手を止めて、すぐに出なければいけないの。
「はい、森本です。」
「お疲れさまです。関本です。」
私の好きな関本さんの声。
少しよそ行きの声だわ。
「渡辺から聞いてると思うけど、お詫びに食事をご馳走するよ。」
「気にしてませんよ?でもありがとうございます。」
事務的なやり取り。
彼女のことは聞けなかった。
関本さんからの答えに、がっかりしたくなかったから。
会社の内線を使ってデートの約束をする先輩たち、たくさんいるんだろうな。
こんなシチュエーション、ドキドキするわよね。
電話を切ったあと、しばらく手が止まった。
帰り道、何を着ていこうかばかり考えていた。
何を着ていこう?
張り切りすぎても、楽しみにしていたと思われるかな?
通勤の時に着ていくような洋服にしよう。
ロングスカートと、ハイヒール。
ハイヒールなんて、背伸びしているように見えるかな?
ローファーにしよう。
まだまだ下手なメイクを念入りにして、鏡の前でスカートをふわりとさせたり、笑顔の練習をしたの。
浮かれすぎてるわ。私。
関本さんには、彼女がいるの。
そのことは、しっかり頭に入れておかないと。
私はまるでデートに行くみたいに浮き足だっていたわ。
あの憧れの関本さんと二人で。
何を話したらいいのかわからないけど、子どもっぽく見られたらイヤだな。
今夜だけは、関本さんの彼女って見られたい。
玄関を出ると、いつもの風景がキラキラと輝いていたの。
思わず笑顔になる。
道端の雑草さえも愛おしく感じてしまう。
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