知られざる玉依姫――神武天皇の母に秘められた海の物語

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“日本神話と歴史”のオタク。神社でよく働くおとなしい巫女さん
神武天皇の母って、どんな人だったんだろう
ホノ😊「神武天皇の母って、どんな人だったんだろう」
イサ🌸「たしかに、神武天皇の名前は知っていても、お母さんがどんな存在だったかまでは、あまり意識しないかもしれませんね」
ホノ😊「うん。正直、私は“そういえば誰なんだろう”って思った」
イサ🌸「その母とされるのが、玉依姫(たまよりひめ)です。
けれど玉依姫は、ただ“神武天皇の母”というだけの存在ではありません。
海の神(綿津見)の一族に生まれ、皇統へつながる子を育て、最後には初代天皇の母となる、とても重要な姫神なんです」

ホノ😊「いきなりすごいね。“母”っていうより、神話の中心人物みたい」
イサ🌸「はい。しかも玉依姫は、最初から海の世界と深く結びついています。というのも、玉依姫は海神・綿津見神(ワタツミ)の娘で、豊玉毘売(トヨタマヒメ)の妹とされているからです」
ホノ😊「つまり、海の神さまの娘なんだ」
イサ🌸「そうなんです。そしてこの物語は、玉依姫本人から始まるというより、まずは姉の豊玉毘売と、山幸彦(ヤマサチヒコ)の物語から動き出します」
物語のはじまりは、山幸彦が海へ行ったこと
ホノ😊「ここで山幸彦がつながるんだね」
イサ🌸「はい。天孫の系譜に連なるホオリノミコト(山幸彦)が、兄の大切にしていた釣針を失くし、それを探すために、海神の宮へ向かったところから話が始まります」
ホノ😊「釣針をなくした話が、そんな大事な神話につながるんだ」
イサ🌸「神話は、そういう小さなきっかけから大きな流れが生まれるのが面白いところですね。海神の宮へ行った火遠理命(ホオリノミコト)は、そこで海神の娘である豊玉毘売と出会い、やがて夫婦になります」

ホノ😊「海の宮で出会って結ばれるって、すごく神話っぽくていいなあ」
イサ🌸「ええ。そして釣針を見つけ、のちに火遠理命は地上へ戻るのですが、その時、豊玉毘売はすでに子を宿していました」
ホノ😊「ここから玉依姫につながっていくんだね」
イサ🌸「ちなみに、地上へ戻ると先程の兄といろいろあるのですが、今回は省略します」
見てはいけない出産と、残された子
イサ🌸「豊玉毘売は出産のために地上へ来て、海辺に鵜の羽で屋根を葺こうとして、まだ葺き終わらない産屋で子を産みます」
ホノ😊「まだ完成してない産屋で産むんだ」
イサ🌸「はい。そのため生まれた子は、鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)と呼ばれるようになりました。神武天皇の父にあたる方ですね。」
ホノ😊「名前の由来が、その場面そのままだね。インパクトが強い」
イサ🌸「ただ、この出産にはひとつ大事な約束がありました。豊玉毘売は、出産の姿を決して見ないでほしいと夫に伝えていたんです」
ホノ😊「でも……見ちゃうんだよね」
イサ🌸「はい。火遠理命はその約束を破ってしまいます。見られた豊玉毘売は恥じて、海の国へ帰ってしまうんです」

ホノ😊「それは切ないなあ。子どもはどうなるの?」
イサ🌸「そこで登場するのが、妹の玉依姫です」
玉依姫は、まず“母”になる前に“育てる人”だった
ホノ😊「やっと玉依姫が出てきた」
イサ🌸「はい。玉依姫は海の国から地上へ送られ、姉が残していった鵜葺草葺不合命を養い育てる役目を担います」
ホノ😊「なるほど。いきなり神武天皇の母になるわけじゃなくて、まずは子どもを育てるところから始まるんだ」
イサ🌸「その通りです。ここがとても大事なんです。玉依姫は、まだ“神武天皇の母”ではありません。まずは、皇統へつながる子を育てる女性として物語に現れます」
ホノ😊「たしかに、それだけでもかなり大きな役目だね」
イサ🌸「はい。玉依姫は、神話の流れを支える“つなぎ役”なんです。目立たないようでいて、実はとても重要な場所に立っています」
育てた子の妃となり、神武天皇の母になる
ホノ😊「でもここから、さらに大きな役割になるんだよね」
イサ🌸「はい。成長した鵜葺草葺不合命は、玉依姫と結婚します」
ホノ😊「育てた相手が、のちに夫になるんだね。神話らしい、不思議な流れだなあ」
イサ🌸「そうですね。そして二人のあいだに、五瀬命(イツセノミコト)・稲氷命(イナヒノミコト)・御毛沼命(ミケヌノミコト)・若御毛沼命(ワカミケヌノミコト)の四柱が生まれます」
ホノ😊「ここで神武天皇が出てくる?」
イサ🌸「はい。最後の若御毛沼命が、のちの神倭伊波礼毘古命(カミヤマトイワアレヒコノミコト)、すなわち神武天皇とされます」
ホノ😊「ここでやっと、“神武天皇の母・玉依姫”につながるんだ」
イサ🌸「はい。つまり玉依姫は、
海神の娘であり、
姉の子を育てた養育者であり、
さらに初代天皇の母でもあるんです」
ホノ😊「役割がひとつじゃないんだね。むしろ何重にも重なってる感じがする」
玉依姫は、海の神の力を皇統へつなぐ存在
イサ🌸「まさにそこが玉依姫の大きな特徴です。玉依姫は、ただ“母”というだけではなく、海の神の力を皇統へつなぐ存在として描かれています」
ホノ😊「海の世界と天皇の系譜が、ここでつながるんだ」
イサ🌸「はい。山の神の娘(コノハナサクヤヒメ)、海の神の娘との婚姻を重ねながら、最後に神武天皇の誕生へ至る。玉依姫は、その流れを完成させる役目を担っているんです」
ホノ😊「“神武天皇の母”っていう一言だけだと、そこまで見えてこないね」
イサ🌸「そうなんです。玉依姫の面白さは、その肩書きの奥にあります」
名前そのものにも意味がある
ホノ😊「しかも、“玉依姫”っていう名前も、なんだか特別な感じがする」
イサ🌸「はい。『玉依』という名は、単なる個人名というより、神霊が依りつく女性、神意を受ける姫という意味合いを持つと考えられています」
ホノ😊「それ、すごくしっくりくるね。玉依姫って、血筋だけじゃなくて“神を受ける人”でもあるんだ」
イサ🌸「そうですね。だから玉依姫は、血筋の上でも役割の上でも、神と人の境をつなぐ女性として理解されてきました」
イサ🌸「ちなみに、京都の下鴨神社摂社にも玉依姫を祀っていますが。こちらは違う神様とされています。」
ホノ😊「同じ名前なのが気になる。」
イサ🌸「『玉依』という意味合いは同じでしょうが、こちらも深掘りすると面白そうですね。」
千葉には、玉依姫を祀る神社がある
ホノ😊「確か千葉県にも玉依姫を祀っている神社があったよね?」
イサ🌸「はい。千葉県には、玉依姫を祀る玉前神社(たまさきじんじゃ)があります」

ホノ😊「玉依姫を祀っているのはなんで?」
イサ🌸「この神社の信仰がとても強く海と結びついているからでしょう。千葉県の文化財説明では、上総十二社祭りについて、玉前神社の神霊は海中から玉として現れたと伝えられています」
ホノ😊「海の中から玉として現れるって、すごく神秘的だね。しかも玉依姫の玉だ。」
イサ🌸「はい。そして玉依姫を中心に、諸神が年に一度集まる祭りだと説明されています」
ホノ😊「神話の中の玉依姫が、そのまま土地の信仰につながっている感じがする」
イサ🌸「さらに一宮町の説明では、この祭りは玉依姫が上陸したと伝えられる太東崎(タイトウミサキ)に、その一族の神々が集まることに由来するとされています」
ホノ😊「ということは、地元では玉依姫は“神武天皇の母”ってだけじゃなくて、海からこの地にやって来た神さまなんだね」
イサ🌸「その通りです。玉依姫は、皇祖神話の中の存在であると同時に、海から来訪する神、この土地に現れた神としても受け止められてきたんです」
まとめ
ホノ😊「こうして見ると、玉依姫って思っていたよりずっと大きな存在なんだね」
イサ🌸「はい。玉依姫は、
海神の娘として生まれ、
姉の子を育て、
その子の妃となり、
やがて神武天皇の母となる。
そして今もなお、海と結びついた神として祀られているんです」
ホノ😊「“神武天皇の母”っていう入口から入るけど、本当の面白さはその先にあるんだね」
イサ🌸「そう思います。玉依姫の歴史は、海の神話と皇統神話が重なる場所を見せてくれる、とても魅力的な話なんです」
