王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第26話
第26話 狗鷲の主人<前>
ーー前回ーー
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「非愁位:共鳴・・・・禍つ双牙」
"ピカァァァァァァァァア!"
「!!!!雀様!千鶴ーーー!!」
モルは、何か唱えると同時に・・・
"ッドン!!"
「狗!!!」
突如として辺り一面を覆うように光出す。咄嗟に雀と千鶴を庇った狗鷲は、その光が身体に直撃したかと思うと・・・
"ドドドドドドーーーーン!!!!!!!"
「ぐっ・・・!!!!!!!」
腕に纏った”朱鳥の鎧”を盾に、迫りくる衝撃を受け止めようとする――が、その力は、狗鷲の経験したどの猛威とも次元が違っていた。
——潰される。このまま、身体の細胞一つ残さず消滅させられる!
凄まじい風圧が全身を叩きつけ、内側から水を飲み込むような圧力が肺を握りつぶす。炎が混じった熱気が呼吸を奪い、雷の閃光が視界を焼き尽くす。まさに五感が、存在そのものが、塵芥と化す寸前だった。
(こんの力は・・・なんちゃ・・・!!!)
薄れゆく意識の中、狗鷲はモルの攻撃がセカンドの枠を超えていることに、かすかな疑問を投げかけた。しかし、諦めるという選択肢はなかった。再び体勢を立て直そうと、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
”ググググググ・・・・!!!!!!”
(やっと・・・やっと会えたっちゃ・・・!雀様・・・千鶴・・・わっちが・・・わっちが守るっちゃ・・・!!!朱鳥を・・・この太陽族を・・・!!!家鳥との・・・鷲鷹様との約束っちゃ!!!!!!)
「第七血響!!!!紅蓮飛翔撃!!!!!」
咆哮と共に、鮮やかな、だが猛々しい炎を纏った翼が狗鷲の身体を包み込み、モルの圧倒的な攻撃に抗うべく、渾身の力で押し返す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」
”ドドドドドドドドドドドド・・・・ダーーーーーーーーーーン!!!!”
互角の、いや、それ以上の力がぶつかり合い、その瞬間、広大な鳥界境が揺れるような轟音と共に爆発した。
狗鷲の身体は、その苛烈な衝撃に乗り上げられ、為す術もなく空中へと投げ飛ばされる。
(あぁ・・・早く・・・早く戻らんと・・・。わっちが・・・朱鳥家の・・・右羽として・・・わっちが・・・)
鳥界境の空から地へ落ちていく狗鷲は、微かな意識の中呟くも、抗えず瞳は閉じていく。そんな中、走馬灯なのだろうか。昔の記憶が、脳裏に浮かんできていた。
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『・・・ぬ』
ん?
『・・・い』
このお声は・・・
『狗!』
『・・・鷲鷹・・・さま?』
『・・・なんちゃー、ぼーっとして。また誰かに虐められたっちゃ?』
あぁ・・・・長い夢でも見てたっちゃ?
目の前にいるこの輝かしいお方が・・・わっちの主が・・・
『・・・?頭でも打ったかえ?ほら、いつまでそこにいるっちゃ。お前は、わっちの右腕。朱鳥家の右羽っちゃね!!今日も共に来てくれんじゃろ?』
そう・・・わっちは、わっちは朱鳥家の右羽っちゃ。——鷲鷹様の右羽っちゃ!!!
"共存共栄"
わっちら朱鳥家の家訓であり、掟っちゃ。
かつてセカンドは、神から与えられた力を保持する者として、王族の次に・・・いや、同等くらいに崇められていた時があった。
特に、古代からセカンドの力を保有し、王族に仕えていた獅司たちは別格っちゃ。

——原初の血脈、セカンドの祖。歴史を紡ぐ始祖の名家。煌龍家
——この世の守護神、強靭な肉体。戦場を舞う神の翼をもつ名家。朱鳥家
——王家の眼と耳、情報の支配者。闇を操る知略の名家。蛇ノ目家
——深淵の叡智、世界の掌握者。謎に包まれた禁忌の名家。羅皇家
朱鳥家のご先祖さまは・・・なんちゅうか、どえらい引っ込み思案やったらしい。この入り組んだ鳥界境に住み、外の人々との交流を怖がっていたっちゃ。
そんなある日、外の人間が誤って鳥界境に入り、迷子になっちまった。困り果てた人間を気の毒に思ったんかあ、ご先祖さまは鳥界境からでれるよう道案内をしたそうっちゃ。
すると、その人間は大層喜び感謝したそうっちゃ。同時に、先祖さまの人並外れた強靭な身体を目の当たりにして、外の世界に出るよう促した。
先祖さまは、初めて感謝されたことが嬉しくて嬉しくて、外の人々とも交流を持つようになって。己の力でみんなを助け、喜んでもらえるんが、先祖さまは大層大好きだったそうっちゃ。
その内、ご先祖さまにもセカンドの力が宿り、周囲の人々を助け感謝されることで心が満たされ、時には助けてもらうこともあったそうっちゃ。そこから、"共存共栄"が家訓として引き継がれてきた。
わっちの幼い頃には、”守護神”とまで言われるほど、朱鳥家は太陽族の人々を助け、無くてはならない存在になっていたっちゃ。
・・・だが、わっちはどうも、ご先祖さまの引込み思案の部分をかなり強く引き継いだらしい。
戦時が続いた時代だったからか、親なんていたのかさえも知れず、物心ついた頃には1人だったっちゃ。
わっちの自慢できるのは、誰よりも身体が強靭だったこと。だから、1人でも野垂れ死ぬことはなかった。
だが、心は人一倍臆病で、同じ朱鳥家の人間さえも遠ざけるように、鳥界境の端の端、人っ子一人いない小さな岩山で暮らしていた。
——そんなある日、いつもの様に川に水汲みに行った時出会ったっちゃ。生涯この人に捧げていいと思える主に。
”~~~♪~♪~~~♪”
"カラカラカラッ・・・"
『ん?なんちゃ~、お前。見たことないな。その容姿は・・・朱鳥家の人間っちゃーね・・・?んん?』
川のほとりで、あのお方は草を咥えて鼻歌を歌っちょった。
わっちも大きいが、同じくらい大きな体系。人懐っこさを感じさせるお顔立ちに、どこか風格のある雰囲気。
久々の人に、わっちは驚いて持ってたバケツを落とし、近くの草むらに頭を隠した。大きなお尻を隠すことを忘れて。
そんなわっちを、あのお方は盛大に笑ってくださった。
『クッ・・・はっはっはっはっは!!おっっまえ、デカい図体して何してっちゃ?今更隠れてって・・・くくっ、でっかい尻が隠れきれてないっちゃ。』
ずっと笑っているあのお方に、わっちは観念して草むらから顔を出したんちゃ——
『がっはっはっはっは・・・』
"グラッ・・・・"
『あ』
"ボッチャーーン!!"
笑いすぎて、座っていた岩から川に落ちた。
『あ!』
わっちはとっさに、落ちたあのお方の元に行き、手を出し引き上げようとした。
『だ・・・大丈夫っちゃ?』
この川は場所によっては流れが速く危ない。でも幸い、あのお方が落ちた場所は浅瀬だった。
勢いで出してしまったわっちの手を、じっと見つめられ、手の行き場を失っていると——
"ガシッ"
『え』
いきなり腕を掴まれ、あのお方はニッと豪快に笑って言った。
『よし!!お前に決めた!!』
『え、え?』
それだけ言って、そのままそそくさと帰って行かれた——が、次の日。あのお方は何人か共を引き連れ、再びわっちの前に現れた。
『よ!昨日ぶり!!』
『・・・っひ?!』
こんなに人が居るのは初めてで、怯えて布団に包まってしまった。しかし、そんなわっちにあのお方は、呆れるでもなく嫌悪するでもなく、嬉しそうに近づいて来た。
『わっちは鷲鷹。朱鳥家の次期家鳥っちゃ。お前の名は?』
『え、あ・・・い・・・狗鷲・・・』
『おお!お前も名前に鷲が入ってるっちゃね!よし、狗!!お前は今日からわっちの右羽っちゃ!』
『え・・・う?』
引きこもりだった当時のわっちは、それがどんなに凄いことかは知らなかった。
朱鳥家のトップに君臨するんは、家鳥。
その家鳥を側で守り支える、家鳥の次に偉いのが右羽だ。
右羽を目指すんは、朱鳥家の誰もが持つ夢だったっちゃ。
当時、次期家鳥とされた鷲鷹さまは、何故か、わっちを右羽に選んだっちゃ。
何が何だか分からんかったが、そこからは怒涛の日々だったっちゃ。ずっと1人で暮らしていたわっちは、外のことは勿論、朱鳥家のことさえ知らず知識を詰め込まれる日々。要領が悪く覚えが遅いわっちに、誰もが呆れ、右羽にふさわしくないと言っとった。
いつも明るく、みんなに囲まれ尊敬される鷲鷹様と、出来の悪いわっち。どう考えても不釣り合いで、この方を支えることの出来る立派な右羽になれるのだろうか。わっちはいつも不安に思っていたっちゃ。でも——
『お前たちは、見る目がほとほと無いっちゃね~。残念で仕方ないっちゃ~。』
鷲鷹さまは、皆に不満を言われる度にそう言ってくださっていた。
そんなわっちでも一つ、セカンドの力を使いこなす能力は誰よりも秀でていた。人並外れた強靭なこの身体が後押ししてくれ、戦場で負けることは無かった。そこから周囲の目が変わった。その様子を鷲鷹さまは嬉しそうにしていた。
それからは色んな人に頼られるようにもなり、今まで感じたことのない、生きている心地がした。
共存共栄。
共に生き、共に栄える。
こういうことか。こんなに人生を豊かにしてくれるのか。
ご先祖さまがどうしてこの言葉を掟としたのか、その時わっちは身に染みて実感していた。
同時に、あの小さな岩山で死んだように過ごしていた自分を、こんなに豊かな世界に導き、信じてくれた鷲鷹さまに報いるため、どんな戦場でも必死に戦った。
そうしたらいつの間にか、次期家長と右羽であるわっちらを、”ソールの英雄”と呼ぶ人たちが増えていった。わっちらがいれば、次の朱鳥家も安泰だと。誰もがそう言ってくれてたっちゃ。
そんな日々を過ごす中で、ずっと疑問だったことを、鷲鷹さまに聞いたことがある。
『鷲鷹さま、なしてわっちを右羽にしたんですか?』
唐突な質問に、鷲鷹さまは太陽の昇る空を見上げておしゃった。
『・・・ん?あぁ、狗と初めて会ったあの日、右羽の選定日だったんちゃ。』
『選定日・・・え!?なんでそんな重要な日にあそこに・・・』
『なんでって、そりゃサボるためっちゃ。』
『え』
『くくっ、なーに阿呆面してっちゃ。はっはっは!!あーーうぅん・・・狗、知っちょるか?俺のような家鳥になる人間には、みーーーんな頭を下げることは簡単にするっちゃ。ぺこぺこぺこぺこ。そんなん見てると虚しくなってくるっちゃね、そいつらのこと、ぺこちゃんって心の中で呼んどった。ははっ!そんなぺこちゃんたちから、選んだってつまらないっちゃね。』
『ぺこちゃん・・・』
『でもな、狗。』
そう言って、満面の笑みを向けてくださった鷲鷹さまの表情は、今でも眩しいくらいに記憶に残ってるっちゃ。
『そん中で、わっちに手を差し伸べてくれたんは、今も昔も狗だけっちゃ。』
川に落ちた鷲鷹様を、咄嗟に助けようと出した手。
当時は何も考えず出した手が、わっちと鷲鷹様を繋いでくれたのかと驚いたっちゃ。
同時に、鷲鷹様は遠い先、明るい将来を夢見てらっしゃった。
『俺は、こんな馬鹿げた戦争を終わらせたいと思っちょる。俺たち人間は共存共栄。太陽族も月族も関係ない。セカンドもプライマルも。男も女も。共に生き、共に栄える。いつまでもいがみ合ってるだけじゃ、生まれるのは悲劇だけっちゃ。今は戦うしかない状況っちゃ・・・・でも、悲しみや憎しみを背負う人生ほど、辛いもんはないっちゃね。』
そして、神々しく鳥界境を照らす太陽に手を延ばし、鷲鷹様は言った。
『だから、俺はどんな状況になっても、共に生きるため、皆んなに手を差し伸べよう。だけど、1人じゃ難しいっちゃ~。だから、お前も変わらず、これからも俺に手を貸してくれ、狗。共に生き、共に栄えよう。』
ぁあ、この輝かしい人を主人として生きられるわっちは、なんと幸せなんだろう。わっちは涙が出るほど嬉しかったっちゃ。
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・・・・だから
わっちはまだ・・・まだこんなところで、くたばる訳にはいかないっちゃ。
朱鳥家の・・・鷲鷹様の右羽として。
ーー次回ーー
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