王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第44話
第44話 名誉を守る者たち
ーー前回ーー
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ー太陽城 雲の宮殿(通称:コウモリの洞窟)ー
「・・・なるほど、そう言うことでしたか。いや~、綺麗に色々端折られてますね~。ここまで来ると、ソール軍隊員を味方に付けた参謀本部を、お見事と言うべきかどうか。」
「感心してる場合じゃないだろう!はぁ・・・。琥樹と洋一からは何も連絡無しか?ってか、伊久磨はどこいった?」
バンの問いに、部屋のドア付近に佇むココロは口を開いた。
「はい。幸十の行方を探して、ソール中飛び回ってますが・・・。全く見つからないようです。伊久磨は・・・分かりません。」
バンは伊久磨と岳を連れ帰った後、今までの経緯を聞き、急ぎ坂上に報告していた。
「それにしても・・・二人の話しだと、ソール軍の隊員たちと真っ向から違う経緯になるぞ。あっちは、ロストチャイルドも、ソール軍隊員の死亡も、全て朱鳥家のせいにしようとしている。一部月族が登場して、戦闘が繰り広げられたと付け加えられてるが・・・。だが、伊久磨たちの話だと、全て月族の思惑で、朱鳥家はそれを阻止するため懸命に戦ったことになる。まだ、ソール軍の副隊長が口を開いてないことが救いだが・・・こりゃあ・・・俺たちに部が悪すぎる。」
「ど・・・どうして?ほ、本当のことなのに・・・」
ソファに座り、目を潤わせながら岳が聞いた。拳を握り、悔しそうな表情を隠しきれないようだ。
命を懸けて戦い守ってくれた狗鷲・雀・千鶴・幸十が、今では反逆者扱いされ、いい気がしないのは当たり前である。
そんな岳に、ココロが言った。
「軍部の主張に、参謀本部もお墨付きを与えてるんだ。たぶん、そっちの主張の方が参謀本部にとって都合が良かったんだろうね。自分たちが取り付けた月族との協定が破られたなんて、面子が丸潰れだから。このままじゃ、偽りの話が事実として塗り替えられるのも時間の問題・・・」
「あの時も・・・獅司の時も、そうだったんだ。」
「・・・え?」
岳がボソッと呟いた言葉に、そこにいた全員が目を見張った。しかし、岳は言葉を止めることなど出来なかった。
「・・・獅司たちの罪なんて・・・本当・・・なのかな?!僕今回、狗鷲さんに初めて会って、戦ってる姿見たけど・・・到底そんなことするような人に見えなかった!!逆に、攻撃してこようとするソール軍たちまで一生懸命守って・・・踏ん張って・・・庇って・・・死んじゃったんだ・・・自分の命も顧みず!!罪人のレッテルをはられたって、”英雄クズれ”と罵られたって!!!最期まで・・・最期の最期まで、僕たち太陽族を守ろうと、誰よりも戦ったんだ!!!みんなで一緒に生きてこうって!!共存共栄・・・それを壊しているのは・・・僕たちの方じゃないか・・・。」
岳の瞳からは大粒の涙が流れていた。
いつもは大人しく、伊久磨の後ろに隠れて発言しない岳。そんな岳が言葉を止めることなく話す姿に、驚かされる一同。
「・・・・・・・。」
王族殺しを策略したとされる獅司の話しは、基本タブー視されている。そんな状況の中、どう話しかけていいのか、誰も分からず暫く沈黙が部屋に流れた。
暫くすると、奥にいた坂上が、岳の前まで来て腰を屈めた。
そして、悔しそうに力強く握る岳の拳を優しく握った。
"ピクッ"
「・・・辛かったですね。誇り高き英雄が、目の前で亡くなってしまい・・・。」
坂上の言葉に、岳は目を見開き、彼の顔を見た。
岳は正直、怒られるか叱責されると思っていた。王族を殺そうとした獅司を擁護するなど、許されるものではなく、反逆だと言われてもおかしくない言葉だからだ。もし、参謀本部の前で言えば即処刑の判断をされてもおかしくない。
——しかし、岳は確実に見てしまったのだ。
かつて、”ソールの英雄”と呼ばれた男の、誇り高き最期を。それを汚す者など、到底許せない。
その気持ちを、坂上は否定せず受け入れた。そんなの当たり前だと言うかのように。
戸惑う岳に、彼は安心されるかのように、青く澄んだ瞳を緩めて、優しく微笑んだ。
「岳くん。それでは、狗鷲さんや、私たちの仲間の栄光を取り戻すため、お願いしたいことがあります。」
「え?」
「あ、ミドリさんも。」
「え、私?」
奥に座っていたミドリは、坂上に話を振られ、拍子抜けした顔をしていた。
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ー太陽城 空の宮殿ー
2階。そこには太陽族が誇る書庫がある。
何千冊という本が集まり、故人たちのありとあらゆる知識が集まる宝庫である。
短い夜が来て真っ暗の中、人っ子ひとりいないその広い書庫の奥に、何やら明かりが灯っていた。
"コツ・・・コツ・・・コツ・・・"
その明かりの方へ向かう1人の人物。
その人物は近づくと・・・
"コンコンッ"
"ビクッ!"
「やっぱり、ここにいたのか。伊久磨。」
そこに現れたのはココロだった。その視線の先、明かりが灯された方には、机に大量の本を敷き詰め、読み漁っている伊久磨の姿があった。
雲の宮殿に帰ってきてからというもの、休めずにいるのか、傷は治ってきていたが、眼鏡の下の瞳には、大きなクマができていた。
「・・・ココロさんこそ。こんな時間に・・・」
魔が悪そうな表情でココロを見る伊久磨に、ココロはそのまま近づいた。
"コトッ"
「・・・ほら。豆じいが心配してたぞ。全く食事をしに来ないって。」
本が敷き詰められた机に、ココロが”コウモリの食堂”から持ってきたサンドイッチを置いた。そのサンドイッチを見ると、伊久磨は手をつけず視線を落とした。
そんな彼にココロはため息をつくと、机に置かれた本に目をやった。
"獅司が犯した罪"
"獅司はなぜ王族を殺そうとしたのか"
"獅司の許されざる実情"
"セカンドの今後、獅司のいない時代で"
「・・・何か、手掛かりは見つかったか?」
「え?」
ココロに本を見られて、バツが悪そうにしていた伊久磨だったが、ココロの言葉に拍子抜けした表情で視線を向けた。
そんな彼の様子に、ココロは思わず微笑んだ。
「ははっ。なんだよ、その間抜けな顔。」
「え、あ、いや・・・」
「”獅司を擁護するなんて、いい加減にしろ!”って言われると思った?」
「・・・ま・・・まぁそりゃ・・・」
言葉に詰まる伊久磨に、近くの椅子にココロは座ると話を続けた。
「・・・・実はさ、元々坂上さんは言ってたんだ。獅司は罪を犯してないんじゃないかって。」
「え・・・そ、そうなんですか?!」
「うん。だから、鳥界境で見つけた雀と千鶴を引き取ったんだ。太陽王に直談判して、免罪符まで貰ってね。俺は危ない発想だなって思って、反対してたけど。・・・でも、話を聞けば聞くほど、確かに抜けてる点があるんだよね。」
「抜けてる点?」
「そう。実際、王族を殺そうとしたって言うけど、いつ、どこで、どんな風にっていう具体的な話がどこにも残ってないんだ。・・・じゃない?」
ココロは、積み重なる本を見ながら伊久磨に言うと、彼は力強く頷いた。
「そ、そうなんです!どこにも・・・どの本も抽象的な話ばかりで・・・」
「だよね。それにね・・・”太陽の記録”にも残ってないんだよね。獅司のことは。」
「え。」
伊久磨はココロの言葉に、再び驚き目を見開いた。
《太陽の記録》
それは、太陽族がこの世に生を受けた古代から、現在に至るまでの全ての出来事を、余さず刻み続けてきた絶対の記録書である。
この記録は、太陽族の歴史における”揺るぎない「真実」”とされ、その内容に異を唱えることは、すなわち太陽族の根幹を否定することに等しい。
この厳重な記録が、途絶えることなく古代より継承されてきたのは、太陽王家すら手を出せない、とある一つの家門の使命によるものであった。
その家門こそ、グレイス家。
太陽王に次ぐ、太陽族内での絶大な権力を握る司法庁の最高権力者を歴代務めてきた家門であり、ココロの生まれ育った家である。グレイス家は、常に中立を義務付けられ、時に王の判決さえも覆すほどの権限を持つ、記録と裁定を下す最重要家門とされている。

驚き、開いた口が塞がらない伊久磨に、ココロは懐から鍵を取り出した。
「まさか・・・その鍵・・・」
「行ってみる?”太陽の記録”が、ある場所へ。」
ココロの問いかけに、伊久磨は戸惑いつつも頷いた。
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書庫の入り口をまっすぐ進むと、受付がある。
通常はそこに人がいるが、今は夜だからか不在にしていた。その受付の裏に太陽が描かれた壁が聳え立つ。
そこに伊久磨とココロが来ていた。
「え、ここ・・・?」
「うん。」
すると、ココロは壁の太陽マークに手を置く。
同時、太陽マークの周辺を、規則性があるように押していく。
——すると
"ガチャ"
「!」
太陽マークの真ん中が開き、何やら鍵穴のようなものが出てきた。
すると、ココロが持っていた鍵を入れ捻った。
"ガガガガガガガガガ・・・!!"
「・・・っ!あ、開いた?!」
壁が真っ二つに割れ、その先に狭い階段が現れた。
ココロは伊久磨の持っていた明かりを手に、階段を降りていく。伊久磨も驚きつつも、ココロについていった。
「・・・今、洋一と琥樹が、幸十の行方を探してる。中々見つからないんだけどね。」
長い階段を降りながら、ココロが話し始めた。ココロの言葉に、伊久磨が暗い表情をするも続けた。
「大丈夫。幸十は生きてるよ。・・・シャムスの時も、もう無理だって時、幸十は自分の安全よりも、子供たちやシャムスのために戦って生き残ったんだ。どんなに痛めつけられても、何があっても。強いよ。幸十は強い。」
ココロの確信じみた言葉に、伊久磨は先を歩くココロをじっと見つめる。
「それに、岳も頑張ってるよ。」
「岳?」
「うん。狗鷲さんは英雄だって、この間、雲の宮殿で泣きながら必死に言ってね。初めてだよ。岳があんなに主張をしている所を見るのは。」
「岳が・・・」
驚く伊久磨の様子に、ココロはクスッと笑った。
「それで、坂上さんにちょっとしたおつかいを頼まれて、外出しているんだ。ミドリさんと。それに・・・伊久磨。坂上さんから、今回の”太陽の核”で、壇上に立たないかって言われてるんでしょ?」
「え、あ、まぁ・・・」
——”太陽の核”。
1年に一度、全ての太陽族民が集まるイベント。
主要人物たちが太陽城に一斉に集まり、他地方の族民たちは、各地の地方庁や軍基地で行われる中継で、太陽城の様子を見守るのである。いつも議題が立てられ、それに関する議論がされていく。
今回の議題はもちろん、坂上が提言した2点。ロストチャイルドの件と、今回の朱鳥家の件とされている。
議題により、討論する者が数人壇上に上がるのだが、それを坂上が伊久磨にと話を持ってきたのだ。
坂上は強制ではないと伝え、伊久磨に選択の機会を与えていた。
そうこう話しているうちに、階段を降り、とある部屋の前に来た。
再びその扉には鍵がかかっており、ココロは持っていたもう一つの鍵で開けた。
「唯一、今回の件について発言していないソール軍の副隊長を、こっちにつかせられないか画策しているけれど・・・。それだけに賭けるのは危ないからね。坂上さんやバンさんも、色々動いているみたい。雲の宮殿は今空っぽだ。だから、俺も少しでも力になるなら・・・」
”ガチャ”
そう言って扉を開く。
すると——
「っ!な、なんだこれ・・・」
天井が見えないほど高いこの部屋中に飛び散る書類。生き物かのように、部屋を自由に飛び回っている。
「これが全部、”太陽の記録”だよ。まぁ、太陽族ができたときからの記録だから・・・こんなに飛び散ってるかな。」
「は・・・はは。これ・・・俺入って大丈夫なんすか・・・」
「んー・・・まぁ、見つかったら捕まるか、捕まらないかで言ったら・・・捕まるかな。」
「え、」
「・・・実は獅司のこと、罪は犯しただろうって俺は信じてたんだ。少し疑問点はあるけど、それは当時、和平時代に入る手前の激戦時だったから、記録するに出来なかったんだろうって。でもさ、この間の伊久磨と岳が話した鳥界境での出来事・・・あんなに必死に話す2人を見せられたら、その疑問がまた、湧き上がって来てね。」
——石橋を叩いて叩いて叩きまくって渡る。
それがココロのスタンスだ。無闇に信じない。
それは司法庁にいるグレイス家が、真実を見極めることを本文としてきたからだ。そんなココロが、証拠もない中、どうしてこうも自分たちを信じるのか。
「ココロさん、なんか・・・変わりましたね。」
「そうかな?・・・まぁ、でも。幸十に出会ってさ、理屈だけじゃないのかなって、少し思うようになったのは事実だよ。」
「え?」
「自分が信じたいと思うものを、信じて進んでみるのも・・・時には必要かもしれないってね。」
ココロの表情を見て、伊久磨は察した。
自分のようなセカンドとプライマル、どっちつかずの家族に捨てられた人間ではなく、プライマルの頂点にいる人物。
伊久磨にとって、ココロは家門も優れ、才能もあり、全てに恵まれてる人だと思っていた。
しかし、ココロにも悩みや葛藤があったのだと。今、目の前にいる人物も自分と同じ人間であり、同じコウモリ部隊の仲間なんだと。そう実感した瞬間、伊久磨は自然と口が開いた。
「俺・・・ココロさんのこと、羨ましくて。」
「え?」
「頭いいし、戦術だって・・・何千と見つけて天秤にかけてって、そんなの普通のプライマルは出来ないっすよ。何年かけたって。今回だって、俺なんか、どうしたらいいか、全然名案思いつかないし、パニック起こして作戦失敗させたり・・・。それで・・・狗鷲さん・・・死んで・・・」
頭を抱える伊久磨の瞳からは、一筋の涙が流れていた。
今までひたすらに隠していた後悔の念が、このタイミングで解放されたようにポロポロと出てくる。
「その後はどうしたらいいか・・・。雀・千鶴・幸十が守ってくれるまま、何も策思いつかなくて・・・俺。何のためにいたんだよって・・・セカンドにもプライマルにもなりきれない俺は・・・!!」
溢れ出す伊久磨の言葉を、黙って聞くココロ。
伊久磨は暫く涙流すと、目元を拭き再び話した。
「・・・だけど、こんな俺でも・・・俺でいいって・・・そう言ってくれたんだ・・・!!」
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「他人が求める君じゃなくて・・・伊久磨にしかできない、伊久磨としての生き方を、選ぶんだ。」
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『伊久磨くんは・・・プライマルっちゃろ?それなのに・・・あんな機敏に動いて、頭も動かして皆を助けてるっちゃ。そんなん・・・他の誰も容易に出来んことっちゃ。お前さんは・・・素晴らしいっちゃ。』
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「だから!!俺は、俺にしか出来ない事をするんだ!!誰からも信じられないあいつらの・・・代弁者に!!!」
「!」
「俺が見て・・・聞いた・・・あいつらの本当の事実を!!俺の言葉で、歪んだ事実を、真っ直ぐに正してやる!!!」
拳を握りしめ、歯を食いしばり言い張る伊久磨の瞳には、覚悟を決め、自身の歩む道を決めた者の表情をしていた。
その表情に、ココロは驚きつつも、どこか嬉しそうにすると・・・
"バンッ!!"
「っい・・・!」
「その調子じゃないか!!!」
喝を入れるかのように、ココロが伊久磨の背中を叩くや否や、ココロは手を二回叩くと、部屋中に飛び散る”太陽の記録”に向かって叫んだ。
”パンパン!”
「1832年、旧獅司の侵犯が起こった前後の記録を全て見せて。」
その瞬間——
”シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウ・・・・”
「っ?!」
高い天井まで飛び散らかっていた書類が、ココロたちの目の前に整理され集まってくる。その様子に、伊久磨は驚き涙が引っ込んでいると・・・
「よし、伊久磨。やるぞ。」
「・・・っ、はい!」
そして2人は、目の前に積み上げられた太陽の記録を、短い夜が明けるまで、ひたすら目を通していったのだった。
ーー次回ーー
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