王神愁位伝 第3章【鳥界境の英雄】 第42話
第42話 黄金の鎖
ーー前回ーー
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"ズキン・・・!!!ズキン・・・!!!ズキン・・・!!!"
頭蓋骨を、内側から叩きつけるような激痛が、幸十に襲いかかる。
(痛っ・・・!!!)
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『あ、あの・・・もしかして、道に迷ったっちゃ?』
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(頭に響く・・・この声っ・・・)
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『す、凄い!!君凄いよ!!どうして、こんな山の中で1人で暮らしてるんだ?一緒に外へ出ようよ!!』
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(・・・誰かの・・・・記憶?)
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『感謝されるっちゃ~、嬉しいっちゃ!共に生き、共に栄える。こんなに大事なことを気づかせてくれて、ありがとうっちゃ!』
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(っ・・・頭が・・・)
頭に激痛が走る中、温かな感謝の念が、幸十の胸に流れ込んでくる。そして、それまでの温かさが、一瞬で冷たい絶望に塗り替えられた。
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『・・・違う、違う!!こんなことに・・・こんなことになるなんて・・・違う!!』
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(胸が・・・苦しっ・・・!!!)
頭と胸の両方から激痛を伴い、うずくまる幸十。血を吐くような慟哭と、深い後悔。何が起きているのか、混乱していると——
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『ごめん・・・ごめん・・・ごめんよ、朱鳥。』
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「!!!」
"パァァァァァァァァア!!!"
その瞬間、幸十の意識を灼く記憶の奔流は、眩い光と共に途絶えた。
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(急げ急げ急げ!!狗鷲の持ってる瓶に、まだ”朱鳥の羽”が残っている!!もうどうでもいい!こいつごとオルカ様の元に・・・)
懐に、ごく微量の”朱鳥の羽”を残す狗鷲を、ヌチはもはや肉塊に近い身体で、足の残骸で鷲掴みにし、闇雲に飛び去ろうとする。
身体はもはや成体をなさず、どう動いているのかもわからない。ただ、肉体が尽きるその瞬間まで、何があっても月族領地へ戻らねばならないという、狂信的な使命感だけが、その残骸を突き動かしていた。
(急げ!俺は”選ばれし者”!!王神愁位伝に選ばれたんだ!!俺の急所もまだ分からねぇ奴らに、こんなところで・・・)
"ガシッ!"
「?」
すると、ヌチの足に、まるで意志を持った蛇のように、何かが絡みついた。
(・・・っ!!?なんだ?!鎖・・・?)
その瞬間——戦場に、低く、しかし有無を言わせぬ声が響き渡った。
「第一血響、黄金の鎖」
"パァァァァァァァァア!!!!"
(なっ・・・!?!!)
鎖が、目を焼くような神々しい黄金に輝いたかと思うと、ヌチの残された身体から、生きていくための力そのものが、瞬く間に抜き取られていく。
(・・・っ?!あ、あのガキか!!?触ると力が抜けるやつ!!しかも、さっきと全く威力が桁違いじゃ・・・ぁぁぁあっ!!崩れていく!!!)
ヌチの、足と羽と目と心臓という最小限のパーツで構成された個体が、抵抗虚しく瞬く間に溶解するように崩壊していく。羽が抜け、飛行は困難に陥り、ついにヌチは、執着していた狗鷲を諦め、その手を離した。
「狗!!!」
落ちそうになる狗鷲の身体に、血を流し蹲りながらも叫ぶ雀。
しかし——
"シュン!!!ガシッ!!!"
幸十が鎖を周囲に纏わせながら、コウモリの翼を広げ狗鷲を抱えた。
(あいつ・・・ついに血響を・・・。でもあの力は・・・なんなんだ?!?)
黄金に輝く鎖を武器とし、今までに誰も見たことのない、規格外の力を使う幸十に、そこにいた全ての者が、一瞬、己の使命を忘れ、目を奪われていた。
(・・・・ッチ!離せ!!!離せ!!!)
力が抜けてもなお、逃げようと暴れるヌチの残骸に、幸十は冷徹な眼差しで、伸びる鎖を容赦なく巻き付かせていく。
"シュルルルル・・・ガチッ!!"
「逃がす・・・かぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
(っくそ!!お前ら如きに捕まるかぁぁぁぁああ!!非愁位:共鳴!!!)
"ピカッ!!!"
ヌチは、最後の断末魔のように残りの力を全て振り絞り、自壊を覚悟した特大の攻撃を繰り出した。その威力は、これまでの攻撃の比ではなく、周囲全てを悍ましい光と熱で包み込んでいく。
(まずいぞ!この威力、鳥界境全体を破壊するつもりか!!!!?)
その場にいた全員が、絶望的な未来を悟った、その時——
”ギュッ!ジャラ・・・・”
「第一血響、黄金の鎖!!!」
幸十は、狗鷲を抱えた腕とは逆の腕で、鎖を力強く握り締め、再び叫んだ。 その瞬間、伊久磨たちの頭上に、先ほどよりも更に神々しく、硬質に輝きを増した黄金の鎖が稲妻のように伸び、上空に鉄壁の鎖の壁を作り上げた。
「・・・なにを・・・っ、あいつ、幸・・・よせ!!!!」
伊久磨は咄嗟に何かに気づき、叫ぼうとした時——
"ズバァァァァァァァァァァァアアン!!!!"
全身を押し潰すような凄まじい爆風と熱波が、伊久磨たちを襲った。
「きゃぁぁぁあ!!!」
「うわぁぁぁああ!!」
”ググググググ・・・!!!”
雀と千鶴は、身体の限界を堪え、全身の力を振り絞って、その場から全員が吹き飛ばされないよう、自分たちの武器を地面に刺し掴み、他の仲間を庇うように自らの身体を張って踏ん張った。伊久磨たちもまた、爆風と、雀たちの身体に挟まれながら、硬直したまま耐え抜く。
"スサァァァァァァァア・・・"
数分後、ようやく爆風が収まり、辺りに静寂が戻る。
「・・・げほっ・・・がっ・・・お、おい!!全員、無事か!!?」
拝理が、周囲の仲間たちに、安堵と焦りの混じった声で呼びかける。飛んできた岩や木で傷を負った者もいたが、雀たちの決死の防御により、誰も吹き飛ばされずに、なんとかやり過ごせたようだった。 全員が、一旦大きく息を吐き出し、安堵の吐息が漏れる。
"ヒュュュュュュュュュュュユユユ・・・ボトッ!ボトボト・・・"
「!」
全員が、反射的に再び構える。 そこに、音を立てて落ちてきたのは、真っ黒に焦げたヌチの目だった。続いて、心臓や羽、足といった残骸が次々と落ちてくる。もはや自己再生の力も尽きたのか、原型を留めぬバラバラの状態で、地面に散乱した。
「っ!さっちー!!!」
雀は急いで上空を見るも、何もなく、あるのは先程の爆発の衝撃で昇るきのこ雲のみ。
幸十と狗鷲の姿は見えず、一向に降りてこない。
(飛ばされたか?!!・・・・っ、)
伊久磨も、一抹の不安を覚えながら上空に視線を向け探すも、二人の姿はどこにも見当たらなかった。
「・・・クックックック!あっはっはっはっは!!」
「なっ!!」
すると、ヌチの千切れていた口が動いた。
その様子に、全員が恐怖と嫌悪で身体を硬直させる。
「あいつら、死んだ死んだ!!俺の共鳴の威力、思い知ったか!!鳥界境全体を焼き殺そうとしたが・・・幸十、下に爆撃いかねえようにして、全部くらいやがった!!馬鹿が!!あっはっはっは!!」
ヌチの言葉に全員目を見張った。
「嘘っちゃ・・・嘘っちゃ!!何馬鹿なことを!!」
「嘘だと思うなら探してみればいい、クック!!もう身体も粉々になって、消えてんよ!!!」
「このぉぉぉぉぉお!!!!・・・ぐっ!!」
”ドサッ!”
「雀!!!」
ペラペラと不気味に喋り続けるヌチの口に攻撃しようとするも、力の入らない雀。
その様子に、ヌチは勝利を確信したかのように、ひたすら笑い続けた。
そして——
「はぁ・・・全く。・・・・手間かけやがって!!!!!」
"ザッ!!!"
ヌチのちぎれた腕が、最後の生命力を振り絞るように再び動いたかと思うと、その矛先は、奥で震える子供たちに向けられた。
「まずい!!子供たちが!!!」
「っ!!岳!!」
子供たちの近くにいた岳が、考えるよりも早く、身一つで子供たちを庇おうと、前に躍り出た。
しかし——
”シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウ・・・・”
「セカンド、雷の解放・・・」
「第七血響 雷管・轟天!!!!」
"ズドーーーーーーーーン!!!"
「ぐぁぁあああ!!!」
"ビリ・・・ビリビリビリッ・・・"
岳の目の前で、天地を揺るがす轟音と衝撃と共に、神の怒りのような雷がヌチの腕に直撃した。 それを見た拝理は、その技の正体に気づき、ハッと勢いよく顔をあげる。
と同時に——
"バタバタバタバタツ・・・・!!!!"
「囲め!!!!!」
複数の足音と共に、土色の隊服を着た十数の隊員たちが現れ、無惨にも散っているヌチの身体を囲った。
そして・・・
"ズリ・・・ズリ・・・"
その後に、何やら引きづるような音を立てて現れたのは大きな男。大きな煙管を肩に担ぎ、前が閉めきれてない隊服を着て、土色の太陽が刻印されたマントを羽織う。
「・・・おいおいおいお~い。俺たちのソールで、やーけにどんちゃん騒ぎしてくれたなあ??ぁあ?」
ゆっくりゆっくりと、大地を揺らすような大きな足音をさせ、現れたのは——
「・・・っ、多聞軍隊長!!!」
軍部の元帥兼ソール軍の軍隊長であり、セカンド最強の称号、天神でもある多聞だった。
多聞は、隊員たちが囲んだヌチの身体に、冷たい視線を向けた。ヌチの腕は電流により真っ黒に焦げ、痺れて動けないようだ。
そして、その腕に刻まれた、”月の刻印”をじっと見つめた。
「軍隊長!!そいつはバラバラですが、まだ・・・うっ!!」
拝理が気を付けるように叫ぶも、身体が限界かうずくまる。
「副隊長!!」
「・・・・・。」
その様子を一瞥した多聞は、状況を瞬時に把握するように周囲を見渡し、共に連れて来たソール軍隊員たちに、有無を言わせぬ声で命令した。
「ヌチを捕縛して、軍に持って帰るぞ。気持ち悪ぃだろうが、そこら辺に落ちている身体の残骸全てだぁ。——お前らはあ・・・ボッロボロだなぁ。一先ず治療してから、詳細は聞こうかあ。」
すると、多聞と共に来たソール軍隊員たちが、伊久磨たちを連れてこうとする。
「ま、待ってください!!まだ俺たちの仲間が・・・、狗鷲さんと幸十が・・・!!!」
必死に叫ぶ伊久磨に、多聞は気だるそうな視線を向けた。
(紫紺の隊服・・・コウモリたちも一緒だったんかぁ?)
「・・・・。」
多聞は、何も言わず向きを変え、立ち去ろうとする。その冷酷な対応に、焦った伊久磨が多聞に駆け寄ろうとする。
「ちょ・・・ちょっとまってくださ・・・」
"ガンッ!"
「いっくん!!」
「いくまっち!!!」
”ガン!トン!ドシ!!”
叫び暴れる伊久磨を、ソールの隊員が容赦なく気絶させた。
——と同時に雀・千鶴・岳も、限界を迎えた身体に抵抗する間もなく気絶させられ、全員そのまま、後悔と絶望が残る鳥界境を後にしたのだった。
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「遥さまー!!遥さまー!!どこに行かれたんですかー!!ど、どどどどどどどどうする維澄!な、なななななななんでもっとちゃんとお側にいなかったんだ!!あのお方に何かあったら私は・・・・っぐ!!」
「・・・・。」
「おい、無視するな!このまま、遥さまに何かあれば、私は死をもって・・・」
「・・・・・。」
「止めてくれよ!!!このままだと、遥さまを探す前に、私が死んじゃうぞ!!!?」
「・・・・・はぁ。」
海に面するこの地域は、まるで夢想の中に描かれた理想郷のようであった。
波打ち際には、パステルカラーの柔らかな色彩を纏った建物が、穏やかな光の中に整然と立ち並ぶ。その明るい景観は、争いという概念から遠く隔てられた、平和そのものの象徴である。
地面には、青々とした生命力溢れる草木が広がり、無数の花々が宝石のように大地を彩る。その光景は、自然が織りなす圧巻の芸術作品であり、見る者すべての心を奪った。
場所によっては、澄んだ川が銀の糸のようにキラキラと輝きながら流れ、人々の頭上、遥かな夜空には、数えきれないほどの星々が、永遠の静寂を讃えるかのように瞬いていた。
"チュンチュン・・・"
そんな場所の、少し外れた丘。
「・・・なあ、城抜け出して大丈夫か?また右京のやつが発狂して、死のうとするぜ。あいつ、図体でかくても、心臓はみみっちぃから。」
「あははは、大丈夫だよ。最終的に、維澄あたりが止めるから。咲夜は優しいねぇ~。」
静寂を破り、その夢のような光景の中に、二つの影が滑り込んできた。一人は若き青年、そしてもう一人は、幼い少年。
青年は、まるで頭上で輝く星々の光を纏っているかのようだった。
陽光を受けて黄金の粉を撒いたようにキラキラと輝くブロンドの癖毛は、首筋で低く無造作に束ねられている。見た目は二十代そこそこだが、その立ち姿には既に、人を惹きつけてやまない異様なまでの存在感が宿っていた。 髪と同じく光を宿すぱっちりとした瞳は、どこか遠い世界を見つめているようで、その非凡な容姿が、彼がただの人ではないことを雄弁に物語っていた。
対照的に、少年の姿は尖っていた。短く切り揃えられた髪は、彼の感情を映すかのようにツンツンと鋭く伸び、同じく吊り上がったその瞳には、周囲の美しさなど眼中にないと言わんばかりの、刺々しい不機嫌さが宿っている。
「キモいこと言うな!!本当に知らないからな!」
「ははっ、それでも、僕に着いて来てくれるんだー?」
「・・・っ、何かあったら、俺たちが困るんだ!」
"ゴソゴソ・・・"
「何かって・・・この中立を保つ星族領地に、誰が攻撃するって言うんだい。僕だっているし・・・」
その男性は、上がった丘の長く伸びた草むらを進みながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「・・・・何か探し物か?」
「んー?・・・いや、見違えかもしれないけどさぁ。さっき部屋から外見てたらさ、ここら辺に落ちてくるのが見えたんだよねえ。」
「落ちる?何が?」
「んー・・・お星さまとか?ははっ。」
ふざけるその男性に、少年は呆れた表情でそっぽを向く。その時——
”ガサッ、ピタッ・・・”
「あ。」
「はぁ・・・、”お星さま”でも見つけたか?」
「いや・・・これは・・・。どっちかと言うと・・・・、傷だらけの太陽・・・かな?」
その言葉に少年が振り向くと、すぐさま構えた。
「・・・・っ!?!なんだこいつら!」
そこにいたのは、無造作に伸びたスカイブルーの髪を持つ大男と、ふさふさのオレンジの髪に、黄色く輝くまつ毛が特徴の少年が、血だらけの状態で倒れていた。
ーー次回ーー
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