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58歳からの転職戦記③――外資系Finance Headに本当に求められているもの

前回は、ここ2年間の求人票を振り返りながら、Finance Headの募集理由を5つに分類してみた。

Replacement、Growth、Transformation、Build from Scratch、そしてOwnership Change。

同じFinance Headという役割でも、企業が置かれている状況によって、求められる役割はまったく違う。ちなみにタイトルとしては意外と広くて、
Finance Manager, Senior Finance Manager、Finance Director、Senior Finance Directorまで会社の規模や組織で変わってくる。

では、その中で実際に何が求められているのか。

今回、過去のJDを改めて読み返してみて、かなりはっきり見えてきたことがある。

Finance Headに求められる条件は、大きく分けると二つある。

JDに明記される「顕在スキル」と、JDには書き切れない「潜在スキル」だ。

58歳からの転職では、私はむしろ後者のほうが重要だと思っている。

まずは顕在スキル――Accountingは「資格」ではなく「前提条件」

Finance HeadのJDを見ると、まず大量に並ぶのがAccounting、Controllership関連の要件である。

例えば、

  • Monthly / Quarterly / Annual Closing

  • JGAAP

  • US GAAP / IFRS

  • Statutory Reporting

  • Consolidation

  • Audit

  • Tax

  • Transfer Pricing

  • Treasury / Cash Management

  • Internal Control

  • SOX

  • Balance Sheet Management

などだ。

ここは、もはやFinance Headとしての基礎資格に近い。

基礎理解力を証明するUSCPA資格は必須である。

FP&AやBusiness Partneringがいくら得意でも、Accountingが分からない候補者はSenior Financeポジションではやはり不利になる。

ただし、ここで少し注意したい。

今のFinance Headに求められているのは、

「自分で一番うまく仕訳を切れること」

ではない。

むしろ、

「Accountingの品質について最終責任を負えること」

である。

「経理実務業務は、Accounting Managerの仕事なので」

とは言えない。

最終的にFinance Headが説明責任を負う。

Accountingの重要性が下がったのではない。

逆だ。

できて当然になった。

ここが、この2年間のJDを読んでいて非常に強く感じた点である。

どの項目を重視するのかも業界や企業によって違う。

候補者を分けるのは「何年働いたか」より「何を変えたか」

そして今回、JDを分析していて最も面白かったのがProject Experienceである。

以前なら、

「Finance経験10年以上」

「管理職経験5年以上」

といった経験年数がかなり重視されていた。

もちろん今でも書かれている。

しかしSeniorポジションでは、それだけでは候補者を差別化できなくなっているように見える。

それより重要なのが、

「その10年間で、どんなプロジェクトを経験したのか」

だ。

単なる業務経験ではなく、

何を導入したのか。何を作ったのか。何を変えたのか。

という実績である。

① ERP / System Implementation

最も分かりやすいのがERPだ。

SAPやOracleなどの使用経験は、多くのFinance人材が持っている。

しかし最近のJDでは、

implementation

enhancement

という言葉がかなり重要になっている。

つまり、

「SAPを使ったことがあります」

ではなく、

「Finance側からSAP導入をリードしました」

という経験である。

システム導入では、会計知識だけでは足りない。

業務プロセスを理解し、

ITと話し、

業務部門と話し、

会計要件を整理し、

テストし、

業務効率と日本特有の業務の扱いを深く考え、将来性も考慮して
意思決定する。

こうした経験は、Finance Headとしてかなり強い武器になる。

というかこれからのAI時代にはより泥臭く動いた経験が宝物になる。

② Finance Transformation

さらに増えているのがFinance部門そのものを変える仕事だ。

例えば、

  • Finance Operating Modelの変更

  • Shared Service Centerへの移行

  • Outsourcing

  • Standardization

  • Harmonization

  • Automation

  • Digitalization

などである。

つまり、Finance Head自身が、

Finance部門を運営する人から、Finance部門を作り替える人

へ変わっている。

これは結構大きな変化だと思う。

既存のプロセスをきれいに回すだけなら、経験豊富なControllerでもできる。

しかし、

「そもそもこの仕事は日本でやる必要があるのか」

「この作業は自動化できないか」

「このプロセスはGlobalと統一できないか」

と考え始めると、仕事は完全にTransformationになる。

自明ではあるが、外資系でここまでやるにはそれなりの

英語力が必要である。これに関してもいつかしっかりと思うところを

書いてみたい。

③ Process Improvement

これも2026年のJDでは、ほぼ標準装備になってきた。

以前なら、

continuous improvement mindset

くらいの表現でもよかった。

つまり、

「改善意識があります」

である。

しかし最近は、もっと具体的だ。

実際にFinance Processを変えた経験があるか。

例えば、

Closingを5日短縮した。

手作業のレポートを自動化した。

Forecast processを作り直した。

Approval workflowを変更した。

という実績である。SMARTでアピールできるようにまとめる

のが良い。

何を、どのように変え、その結果どうなったのか。

そこまで説明する必要がある。

④ M&A / PMI / Integration

M&A経験は、まだすべてのFinance Headポジションで必須ではない。

しかし、今後の差別化要素としてかなり有力だと思う。

買収後には、

Accounting policy、勘定コード体系を合わせる。

日系企業からUSGAAPなどは典型だ。

Reporting方式を変える。

ERPを統合する。

Internal Controlを入れる。

組織を再設計する。

Synergyを追う。

Financeが関与するテーマが一気に増える。

しかも通常業務を止めるわけにはいかない。

こうした環境で働いた経験は、Transformation能力の証明にもなる。

個人的には、今後Finance Headを目指す若い人には、機会があれば一度はM&A後のIntegrationを経験してほしいと思う。

特にこういう変革には4大ファームのような外部の変革のプロが入る場合が

多い。これは事業会社側のファイナンスとしてキャリアを積む過程では

かなりの資産になる。ビビらず取りに行くことをお勧めする。

⑤ Business Launch / Market Entry

業界によって重要になるプロジェクトも違う。

Healthcareなどでは、新製品LaunchやMarket Entryが非常に重要だ。

Finance Headが、

  • Product Launch

  • Brand Investment

  • Market Access

  • Pricing

  • Contract Negotiation

  • New Business Opportunities

  • New Products

  • Capex

といった意思決定を支援する。

ここまで来ると、Financeは数字を管理する部門ではない。

R&DでのGateシステムや、開発から製造へのつなぎなど

は書籍だけでは学べない組織と役割の複雑さがまたおもしろい。

その過程では、自社の強みに意識が集中してしまうが、ファイナンスリーダーとしては、市場の動向や競合の動きにも意識を払っておくのも重要である。

変革の最中でこそ、「変化」の兆しに敏感でいることが重要だ。

⑥ Cost / Manufacturing Transformation

製造業では、さらに特殊な能力が求められる。

  • Standard Cost

  • Inventory

  • Manufacturing Variance

  • Plant Performance

  • Productivity

  • Supply Chain

  • Capex

  • Cost Reduction

などだ。

製造業Financeは、P&Lだけ見ていても分からない。

工場へ行き、

何を作っているのか。

どこに在庫があるのか。

なぜVarianceが出ているのか。

どこがボトルネックなのか。

を理解する必要がある。

これは製造業Finance人材にとってかなり強い差別化要素だと思う。

特に昨今の円安と中国を中心とする地政学的なダイナミックな動きの中で

製造拠点としての日本が注目され直しているように思う。

製造を経験したことのない若手ファイナンスの皆さんは先を見据えて

積極的にチャレンジしても良いと思う。

外資系ファンドの日系製造業の買収、カーブアウトは本当に増えてきている。

フィジカルAIというビッグワードにおびえるのではなく、それを見極めてやる、くらいの意気込みでちょうど良いのではないだろうか。

ここからが本題――Senior採用では「潜在スキル」が効いてくる

さて、ここまでの内容は比較的分かりやすい。

資格や経験として履歴書に書けるからだ。

しかしSenior Finance採用になると、それだけでは足りない。

むしろ差が出るのは、

JDのQualification欄には書き切れない能力だ。

私は今回のJDから、大きく7つあると感じている。

① Influence without Authority

日本語にすると、

「権限がなくても人を動かせる力」

である。

Matrix組織では極めて重要だ。

直属の部下ではないSales Director。

海外のRegional Finance。

工場長。

HR。

IT。

そうした人たちと仕事を進めなければならない。

「私がFinance Directorだからやってください」

では動かない。

相手の立場を理解し、論理を作り、関係を築きながら動かしていく。

Seniorポジションでは、この能力が非常に重要になる。

Competencyの一つとしても良く問われる能力の一つである。

② Constructive Challenge

Finance Business Partnerの重要な仕事の一つが、

「Noと言うこと」

だと思う。

GMが、

「この投資をやりたい」

と言ったとき、

数字が合わなければ、

「やるべきではないと思います」

と言わなければならない。

もちろん単なる反対ではない。

代替案を示す。

条件を変える。

リスクを説明する。

だからConstructive Challengeなのである。

Business Partnerとは、経営者の言うことを何でも聞く人ではない。

経営判断の質を高めるために、時には経営者とぶつかる人

でもある。

このポイントが重視されるかどうかは、レポートラインを見ればよくわかる。

グローバルファイナンスレポートであればこの能力を重視しているとみて

間違いないだろう。

③ Business Acumen

これも非常によく使われる言葉だ。

しかし、かなり曖昧でもある。

私はシンプルに、

「この業界で、この会社は、どこで儲かっているのかを理解する力」

だと考えている。

どの商品が利益を出しているのか。

どの顧客が儲かっているのか。

なぜ競合より高く売れるのか。

どこにコストがかかっているのか。

何が会社の競争力なのか。

会計知識だけでは分からない。

Businessそのものを理解する必要がある。

④ Ambiguity Tolerance

TransformationやStartup、PMIでは、情報が全部そろうことなどほとんどない。

70%くらいの情報しかない。

それでも判断しなければならない。

Senior Financeになればなるほど、

「情報が足りないので判断できません」

とは言いにくくなる。

仮説を置く。

Scenarioを作る。

リスクを示す。

そして判断する。

これも経験を積まないとなかなか身につかない能力だと思う。

特に激動の状況こそ、50代候補者にとってはチャンスである。

⑤ Storytelling

私は、この能力が今後さらに重要になると思う。

Financeは数字を作る。

しかしBusinessは数字そのものでは動かない。

例えば、

「Gross Marginが2ポイント下がっています」

と報告するだけでは足りない。

Business側が知りたいのは、

「So what?」

である。

だから何なのか。

何をすべきなのか。

どの商品を止めるのか。

どの顧客を攻めるのか。

どの価格を変えるのか。

数字をBusiness Actionへ翻訳する。

これがFinanceのStorytellingだと思う。

自分のコツとしては、便利なパーセンテージに終始せず

Absolute Amount、実額も織り交ぜて相手に届けることである。

平均売価が億なのか万円、千円の商材なのかで、周りの

金額意識はおのずと決まっている。そこに刺さるように

上手く使い分けるのだ。

⑥ Leadership / Talent Development

これもSeniorになるほど重要だ。

Finance Headは、

自分が一番会計に詳しい人

である必要はなくなっている。

むしろ、

人を育てる。

次のManagerを作る。

Successorを作る。

Finance Organizationを作る。

という能力が求められる。

自分がいなくても回る組織を作れるか。

これはLeadershipとして非常に大きい。

特に50代、自分の後の組織の永続性、Successionも

常に考えることが重要だ。

⑦ Change Leadership

そして2026年のFinance Head求人を見ていて、私が最も重要だと感じているのがこれだ。

Change Leadership。

変更する仕組みを考えるだけではない。

その変更を、人に受け入れてもらう。

反対する人と話す。

不安を取り除く。

必要ならぶつかる。

そして最後までやり切る。

システム導入でも、

Shared Service移行でも、

組織変更でも、

最終的に一番難しいのは人である。

だからFinance Transformationが増えれば増えるほど、この能力の重要性は上がっていくのだと思う。

特にファイナンス以外の人にどう売り込めるか、商品、その売り方、マーケティングの仕方、その管理の仕方、小売りならSNSの発信からイベントまで、時には消費者として興奮し、興味・関心を普段から滲み出していると
ベースが出来上がる。実は多くのファイナンス職を差別化するのはこういう
普段の姿勢だったりする。

2025年と2026年で何が変わったのか

ここまで整理すると、この2年間の変化がかなりきれいに見えてくる。

2025年のFinance Head像を一言で表すなら、

Controller + Business Partner

だった。

Accountingをきちんと守る。

Controllingを行う。

FP&Aを回す。

GMを支援する。

この延長線上にFinance Headがいた。

ところが2026年になると、明らかに役割が広がっている。

私は、

Business Leader + Transformation Leader + Finance Guardian

と呼びたい。

Strategy。

Scenario Analysis。

Growth。

Financial Performance。

Governance。

Digitalization。

Transformation。

Talent Development。

Succession Planning。

ここまで同時に要求される。

Finance Headは、

「Financeを管理する人」から、「Financeを使って会社を変える人」へ

変わりつつある。

この変化はかなり大きい。

AIではないが、Financial Transformer、自分の世代だとこれまで述べて

来たスキルと能力別のロボットが変形して合体して一つの大きなロボットに

なる、そんなイメージをもってしまう。そういえば最近Amazonで懐かしの

ボルテスファイブのリメイクをやっていたな。

実はこういうアニメやプラモデルにはまっていた子供時代の経験が

これまで長くものづくり企業で働いてきた原動力になっているね。

これもまたキャリア理論と絡めて書いてみたいね。

今の子はフィジカルなおもちゃよりゲームが中心で育っているので

ソフトウエアファーストビジネス社会には順応していけると思うね。

だからこそものづくりへのExposureは国がしっかり設計しないと

すたれていきそうな気がするね。

Accountingの比重が下がったように見える理由

JDの職責をざっくり分類してみると、私は次のようなイメージを持っている。

2025年は、

Accounting / Tax / Compliance:約50~55%

FP&A:約25~30%

Business Partnering / Strategy:約20%

くらい。

それが2026年には、

Accounting / Tax / Compliance:約35~40%

FP&A:約25~30%

Business Partnering / Strategy / Transformation:約30~40%

くらいまで変化しているように見える。

もちろん、これは私が収集したJDをもとにした概算である。

ただ、重要なのは数字そのものではない。

Accountingの重要性が低下したわけではないからだ。

むしろ、

Accountingは「できて当然」のHygiene Factorになった。

これが一番しっくりくる。

Accountingをきちんと守れる。

これは入場券。

そこから先で差がつくのが、

FP&A → Business Partnering → Transformation

なのである。

あるFinancial ControllerのJDでは、Business & Financial Analysisが職務の75%を占めると明記されていた。

肩書はControllerなのに、仕事の中心はBusiness Analysis。

これは今のFinance職の変化を象徴しているように思う。

BIツールが発達したので、レポートを作る時間を節約して

変化の理由と改善を具体的に提言できるか、そこから変革を

リードできるか、ファイナンスに限らず業務や役割がどんどん

蒸留されてピュアな能力がより重要視されるどんなイメージだ。

でも泥水と同じで、揺れてすぐにドロドロになる、多くの粒子(情報)

をスクリーニングして上澄みを見通せるようにする能力と経験が

大事だし、文字通り、「泥臭い」業務や経験がキャリア開発の

土台になるね。

58歳の自分は、どこで戦えるのか

こうしてJDを整理すると、58歳という年齢をどう捉えるかも少し変わってくる。

年齢だけを見れば、もちろん若い候補者より不利になる場面はある。

しかし、

ERP導入。

Finance Transformation。

組織変更。

M&A。

Cost Improvement。

Business Partnering。

Leadership。

こうしたProject Experienceは、一朝一夕では積めない。

だから私自身の転職活動でも、

「何年Financeをやってきました」

ではなく、

「どんな変化の局面にいて、そのとき何をしたのか」

を整理し直す必要があると思っている。

58歳のキャリアを年数で説明するのではなく、

経験したTransformationの数と質で説明する。

これは、これからの転職活動で一つ試してみたいテーマである。

そして若いFinance人材にも伝えたい。

もし将来Finance Headを目指すなら、

「次のタイトルは何か」

だけで仕事を選ばないほうがいい。

次の3年間で、どんなProject Experienceを取りに行くのか。

ERPなのか。

M&Aなのか。

工場改善なのか。

新規事業なのか。

Finance Transformationなのか。

それを考えてキャリアを作る。

計画的に泥んこ遊び?遊びではないけど遊ぶくらいの余裕と

没入感、こういう仕事ができるならはやりの「静かな退職」なんてのも

減るんだろうな。キャリアの泥んこ遊び、コロイドの状態から

どうやって先を見通せる仕組みを作れるのか、これまた面白い

研究分野に出会えたな。


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