世界のAI地図に突然現れた「Ulanqab」 ゴールドマンが追う12.5GWの草原都市
世界のAI地図に、ほとんどの日本人が名前すら知らない都市が突然現れた。北京でもない。深圳でもない。Alibabaの本拠地である杭州でもない。
その都市の名前は、Ulanqab(ウランチャブ、中国語表記:乌兰察布)。
中国・内モンゴル自治区にある、人口200万人未満の草原都市だ。中国を代表する経済都市でも、AI研究者が集まる大学都市でもない。少なくとも数年前まで、世界の投資家が注目するような都市ではなかった。
ところが2026年、ゴールドマン・サックスがこの無名都市を特別レポートで取り上げた。
公開記事で引用されているレポートのタイトルは、次のようなものだ。
“China Data Centers: Ulanqab Emerges as One of the Largest and Fastest-Growing AI Computing Clusters in the Asia-Pacific”
注:ゴールドマン・サックスの顧客向けレポート「China Data Centers: Ulanqab Emerges as One of the Largest and Fastest-Growing AI Computing Clusters in the Asia-Pacific」は全文が一般公開されていないため、本稿では公開抄録と政府・企業の公式資料を照合している。
日本語にすれば、「ウランチャブは、アジア太平洋で最大かつ最も急成長するAI計算クラスターの一つに浮上した」となる。
ゴールドマンは「アジア最大」と断定していない。あくまで「最大級の一つ」である。それでも、調査に出てくる数字は強烈だ。
2026年6月時点で、ウランチャブがデータセンター運営会社やインターネット・AI企業から獲得した容量コミットメントは12.5GW。稼働中だけでなく建設中、契約済み、計画中の施設を含むとはいえ、2025年7月の3.3GWから1年足らずで約4倍に膨らんだ。
2025年に実際に稼働していた約1.2GWと比べると、10倍を超える建設パイプラインだ。マレーシアの巨大データセンター集積地、ジョホール州の計画容量全体と比べても約3倍になる。
なぜ、世界のAIを動かす巨大な計算設備が、北京や深圳ではなく、誰も知らなかった内モンゴルの草原都市に向かっているのか。
ゴールドマンが注目したのは、ウランチャブの知名度ではない。
AI産業の中心を決める条件が、人材、資本、オフィスから、電力、冷却、土地、光回線へ移り始めたことだ。
ゴールドマンが見たのは「AI産業の西進」だった
ゴールドマン本社が2026年6月10日に公開した「The Outlook for Data Centers in Asia」では、中国のデータセンター需要が2025年から2028年にかけて年平均20%で成長すると予測されている。
同社の推計では、中国の稼働データセンター容量は2025年の28GWから2028年には43GWへ、需要は16GWから27GWへ拡大する。設備稼働率も57%から64%へ上昇する見通しだ。
注目すべきは、ゴールドマンがAI需要によって、新しいデータセンターの建設先が「電力資源の豊富な中国西部」へ移動していると指摘していることだ。
従来のクラウド施設は、北京、上海、深圳など、利用者や企業に近い大都市圏へ集まりやすかった。
しかし、巨大AIモデルの学習では、多少の距離よりも、大量の電力を安定して確保できることが重要になる。GPUを冷却できる気候、再生可能エネルギー、送電設備、広い土地も必要だ。
モデルを開発する研究者は北京にいてもよい。顧客や資金も北京に集まっている。
一方、何万台ものGPUを並べる施設は、北京から約240キロ離れたウランチャブに置ける。両者を低遅延の光回線で結べばよい。
つまり、人間の知能が集まる場所と、AIの計算能力が置かれる場所が分離し始めたのである。
出典:
https://www.goldmansachs.com/insights/articles/the-outlook-for-data-centers-in-asia
計画投資額5,000億元、約10兆円の建設ラッシュ
北京市の政府データポータルが掲載した資料によると、2025年末時点でウランチャブが契約したデータセンターは84件。このうち81件がAI向けの智算センターだった。
計画投資額は5,000億元を超える。1元を20円で概算すれば、約10兆円規模だ。
契約済みの標準ラックは400万架を超え、50万架が建設済み、33万架が稼働していた。2026年に入ると、契約プロジェクト数は89件まで増えている。
ただし、5,000億元がすでに投資されたわけではない。
2025年末までの累計実投資額は約399億7,500万元。計画額の8%弱にとどまる。ラック稼働率も66%だった。
この違いは重要だ。
ウランチャブは、10兆円のAI産業がすでに完成した都市ではない。10兆円規模の建設計画が集まり、それを実際の稼働設備へ変えようとしている都市だ。
国内外の巨大企業は、何をウランチャブに置いているのか
内モンゴル自治区政府の資料によると、2025年6月時点で、ウランチャブの算力産業に関する契約投資額はすでに2,500億元を超えていた。
その内訳には、100億元超のプロジェクトが5件、50億元超が8件、10億元超が48件含まれていた。Alibaba、VNET、中金数据、Kuaishou、Huawei、Appleなどの名前が挙げられている。
ただし、これらをすべて「ハイパースケーラー」と呼ぶのは正確ではない。企業によって役割が違う。
・Huawei CloudとAlibaba Cloudは、巨大なクラウドサービスを運営する事業者
・GDSとVNETは、データセンターを建設して顧客へ提供する運営会社
・Apple、ByteDance、Kuaishouなどは、自社施設の保有者または大口需要家
・DeepSeekやZhipu AIなどは、大規模モデルを動かす計算需要の発生源
立場は違うが、これらの企業が同じ地域に集まることで、ウランチャブは単独企業の拠点ではなく、AIインフラの集積地になり始めている。
Huaweiは約15万台のサーバーを収容
Huaweiは2013年、ウランチャブで最初の大規模データセンター建設を始めた。
Huawei公式資料によると、ウランチャブ拠点は同社にとって華北最大のクラウドデータセンターで、約15万台のサーバーを収容できる。
外気を利用した冷却システムなどにより、年間平均PUEは1.15。一般的な冷水設備と比較して、3,000ラック当たり年間3,000万kWhの電力を節約できるとしている。
出典:Huawei公式資料
Alibaba Cloudはウランチャブを正式な提供地域に組み込んだ
Alibaba Cloudは、ウランチャブを「中国北部6」リージョンとしてサービス提供地域に組み込んでいる。
2025年5月には、リアルタイムデータ処理サービス「DataHub」のウランチャブ地域での提供開始を発表した。
ウランチャブは単なるバックアップ施設ではない。Alibaba Cloudのサービスを支える正式なクラウド地域として使われ始めている。
GDSは今後5年間で300億元超を投資
中国の大手データセンター運営会社GDSは2026年6月、ウランチャブ市政府との戦略提携を発表した。
計画では、今後5年間で300億元超、日本円で約6,000億円規模を投資する。複数の高密度データセンターとGW級キャンパスを建設し、電力の80%以上を再生可能エネルギーで賄うとしている。
GDS自身が発表文の中で、ウランチャブを「Token之都」、つまり「トークンの都」と表現している。
これは単なる宣伝文句ではない。
風力や太陽光から得た電力をデータセンターへ送り、GPUで計算し、最終的にAIが利用するトークンへ変える。ウランチャブは、電力をAIの生産物へ変換する巨大工場として設計されている。
出典:GDS公式発表
VNETも供給能力の大部分をウランチャブへ向ける
VNETもウランチャブを大規模拡張の中心に据えている。
同社の2026年第1四半期資料によると、今後12カ月で予定する516MWの新規供給の大部分がウランチャブに割り当てられる。
公開されたゴールドマンの調査抄録では、VNETのウランチャブ拠点は2026年第1四半期時点で398MWが稼働中、388MWが建設中。さらに将来開発用として約1GWを保有していると分析されている。
利用済み容量は約300MWで、ゴールドマンの推計ではウランチャブ市場の約3分の1を占める。
寒さと強風がAI時代の資産になった
企業がウランチャブへ集まる理由は、主に四つある。
・年間平均気温は4.3度
・年間約10カ月、外気を冷却に利用できる
・北京までのネットワーク遅延は最短4.2ミリ秒
・風力・太陽光発電を大規模に確保できる
データセンターでは、サーバーを動かす電力だけでなく、GPUから発生する熱を逃がすためにも大量の電力が必要になる。
ウランチャブの寒さは、従来の経済では不利な条件だった。しかしAI時代には、冷却設備の消費電力を下げる資産になる。
強風も同じだ。以前は厳しい生活環境の一部だったが、いまでは風力発電を通じて計算資源へ変換できる。
ゴールドマンの調査抄録では、ウランチャブのデータセンター向け電力価格は1kWh当たり0.33~0.36元。北京・天津・河北地域より約50%低いとされている。
しかも、再生可能エネルギーを専用線でデータセンターへ直接送る「グリーン電力直結」の整備も進んでいる。
ウランチャブは「寒くて風が強い地方都市」から、「冷却と発電を同時に確保できるAI電力都市」へ意味を変えた。
需要は本当に存在するのか
巨大な建設計画だけなら、地方政府主導の過剰投資で終わる可能性もある。
しかし、ウランチャブでは実際の利用量も増えている。
公開されたゴールドマンの調査抄録によると、2025年末の利用容量は約800MWで、前年比70%以上増加した。
2026年6月時点の利用可能な計算能力は約165EFLOPSとなり、前年の2倍を超えた。これは中国全体の利用済みデータセンター容量の約5%、AI計算能力の約7%に相当するという。
2026年上半期にデータセンターが消費した電力は3.3TWh。前年同期比で90%増加し、市全体の電力消費に占める割合も4.3%から7%へ上昇した。
北京市の政府資料では、ウランチャブが北京から受け入れた大規模モデルの学習処理は6万Pを超えている。
計画だけが膨らんでいるわけではない。北京を中心とする東部地域の計算需要が、すでにウランチャブへ流れ始めている。
AI競争は「モデル、半導体、電力」の三層になった
ウランチャブから見えてくるのは、AI競争の第三段階だ。
第一段階では、誰が強いモデルを作れるかが競争の中心だった。
第二段階では、GPUやAI半導体をどれだけ確保できるかが重要になった。
第三段階では、確保した半導体をどこに置き、何MWの電力を、何カ月で接続できるかが競争になる。
AIデータセンターは、以前のような「サーバーを置く不動産」ではない。
発電、送電、蓄電、冷却、通信、半導体、建設を一体で運用する産業設備だ。
そのため、データセンター運営会社の仕事も変わる。
ラックを貸すだけではなく、再生可能エネルギーを調達し、自社発電と蓄電設備を管理し、電力市場の変動を吸収する。最終的には、電力をどれだけ効率よくAIトークンへ変換できるかが競争力になる。
ウランチャブで起きているのは、データセンター産業とエネルギー産業の融合である。
12.5GWは期待であると同時に、供給過剰リスクでもある
ウランチャブの数字は強烈だが、成功が保証されたわけではない。
12.5GWという計画容量は、中国全体の2025年の稼働容量28GWの約45%に相当する。一都市だけでこれほどの設備が計画されれば、完成時期と需要がずれた場合、稼働率の低下やデータセンター賃料の下落が起きる。
ゴールドマンも、中国のAI需要と設備投資には強気である一方、大量供給によってデータセンター賃料が大幅に上昇する可能性は低いと分析している。
また、中国では電力よりも先端AI半導体が当面の制約になる可能性がある。
建物と電力を用意しても、十分なGPUを搭載できなければ、計算能力は収益に変わらない。
地域経済への波及にも注意が必要だ。政府資料によると、2024年のウランチャブにおける算力関連産業の売上高は2.6億元、納税額は756万元だった。巨大な設備投資と比べると、地域産業への波及はまだ初期段階にある。
見るべき数字は、契約投資額や計画GWだけではない。
・何MWが実際に稼働したか
・どれだけのGPUが導入されたか
・稼働率がどこまで上昇したか
・電力消費が計算収入に変わったか
・地域に雇用と関連産業が残ったか
この5つが、巨大計画と実際の産業成長を分ける。
ウランチャブは、AIを動かす物理的中心の候補である
古い産業地図では、都市の価値は人口、市場、港への近さで決まった。AI時代には、電力を大量かつ迅速に確保できるか、GPUの熱を安く逃がせるか、大都市と低遅延で接続できるかが、新しい立地条件になる。
寒い。風が強い。土地が広い。
かつて地方都市の弱点だった条件が、AIデータセンターにとってはそのまま競争力になる。
ただし、5,000億元の計画があることと、5,000億元の産業が完成することは同じではない。12.5GWのパイプラインがあることと、12.5GWが稼働して収益を生んでいることも違う。
だからこそ、ゴールドマンはUlanqabという聞き慣れない都市を追っている。ウランチャブは、世界のAIの中心になったわけではない。
しかし、世界のAIを実際に動かす物理的な中心が、大都市から電力都市へ移る可能性を最も極端な形で示している。
ウランチャブを理解することは、中国の一地方都市を知ることではない。
AI産業の価値が、モデルから半導体へ、そして半導体を動かす電力、冷却、土地へ広がっていく過程を理解することなのである。
主な出典
Goldman Sachs「The Outlook for Data Centers in Asia」
https://www.goldmansachs.com/insights/articles/the-outlook-for-data-centers-in-asia
Goldman Sachs「Tracking Trillions: The Assumptions Shaping the Scale of the AI Build-Out」
https://www.goldmansachs.com/insights/articles/tracking-trillions-the-assumptions-shaping-scale-of-the-ai-build-out
ウランチャブ個別レポート名を掲載した公開記事
https://longbridge.com/en/news/297210211
ウランチャブ個別レポートの公開抄録
https://www.sina.cn/news/detail/5331380234094069.html
北京市政務サービス・データ管理局掲載資料
https://data.beijing.gov.cn/xydt/qtss/80616af19a8f4dd086802f41cd683c83.htm
内モンゴル自治区政府資料
https://www.nmg.gov.cn/zwyw/gzdt/msdt/202506/t20250625_2745453.html
GDS公式発表
https://www.gds-services.com/zh_cn/newsshow_334.html
VNET 2026年第1四半期資料
https://ir.vnet.com/static-files/7c8a1ea4-5bac-4e7f-8cca-ba43d5c348b2
Huawei公式資料
https://digitalpower.huawei.com/cn/news/data-center-facility/363
Alibaba Cloud公式資料
https://www.alibabacloud.com/help/zh/datahub/product-overview/datahub-ulanqab-regional-service-announcement
※ウランチャブだけを対象にしたゴールドマン・サックスの顧客向けレポート全文は、同社の一般向け公式サイトでは公開されていない。英語タイトルと12.5GW、800MW、165EFLOPSなどの個別数値は、レポートを引用した公開記事と抄録に基づく。投資額、ラック数、企業の進出状況については、中国政府および各社の公式資料で照合した。
おまけ:日本版ウランチャブはどこか 政府が選んだ9地域を「実行力」で比較する
2026年4月、経済産業省は「データセンター集積型GX戦略地域」の有望地域として、次の9地域を一次選定した。
・北海道
・秋田県
・宮城県
・栃木県
・茨城県
・富山県
・香川県
・福岡県
・鹿児島県
政府が重視しているのは、単に土地が広い、寒い、再生可能エネルギーが多いという条件ではない。
・大容量電力を短期間で接続できるか
・複数経路の通信網を整備できるか
・脱炭素電源を安定供給できるか
・災害時にも運用を継続できるか
・実際に利用する事業者が存在するか
・自治体が用地、許認可、地域調整へ関与するか
経済産業省は、競争力、実現可能性、事業者ニーズ、自治体のコミットメントを今後さらに精査するとしている。
したがって、公式候補になっただけでは不十分だ。投資の視点では、「企業名」「稼働時期」「通電容量」「顧客」が確認できる地域を上位に置く必要がある。
北海道:規模と事業者では最も先行している
北海道には、すでにソフトバンクとさくらインターネットという明確な運営事業者がいる。
ソフトバンクは苫小牧で50MW規模から稼働を始め、将来的に300MW超へ拡張する計画。さくらインターネットは石狩でH200やBlackwell世代のGPU基盤を稼働させている。
・電力:再エネの潜在量は大きい
・冷却:非常に有利
・土地:大規模拡張が可能
・通信:東京との距離と回線多重化が課題
・企業:ソフトバンク、さくらインターネット
・現在地:大規模投資と実稼働の両方が確認できる先行地域
最大のリスクは、将来計画のMWと、実際に顧客が利用するMWの差である。
宮城:電力会社が土地、GPU、通信を束ねる実行型
宮城では、東北電力とゲットワークスが七ヶ浜町に「宮城AIデータセンター」を建設し、2026年7月からサービスを開始した。
東北電力はH200を使ったGPUクラウドも提供し、シスコとは分散型AIデータセンターのネットワークを共同設計している。
・電力:東北電力が直接関与
・冷却:北海道ほどではないが比較的有利
・通信:仙台の通信拠点と東京への近さが強み
・拡張:コンテナ方式で段階投資が可能
・企業:東北電力、ゲットワークス、シスコ
・現在地:小規模ながら、構想から稼働へ進んでいる
注目点は、東北電力が電力販売だけでなく、土地、データセンター、GPUクラウド、法人向けAIまで取り込もうとしていることだ。
福島:公式区分以上に、実際の事業が進んでいる
福島はデータセンター集積型の9地域には含まれていないが、会津若松市と浪江町が「脱炭素電源活用型」の有望地域に選ばれた。
さらに、白河ではIDCフロンティアが大規模施設を運営し、大熊町ではRUTILEA系のAI福島やタイズAIがAIインフラを稼働させている。
・電力:既存の産業・電力インフラを利用できる
・冷却:北東北ほどではない
・通信:東京から比較的近い
・政策:復興支援と産業誘致を利用できる
・企業:RUTILEA、AI福島、タイズAI、IDCフロンティア、東北電力、日立製作所
・現在地:巨大キャンパスではないが、稼働案件が複数存在する
福島の優位性は、風や寒さではなく、「すでに設備と企業が存在すること」である。
青森・秋田:自然条件は強いが、顧客確保が分岐点
青森は冷涼な気候、風力、広大な土地を持つ。2026年には青森県、東北電力、NTT東日本、DBJ、新むつ小川原が誘致協定を締結した。
秋田では、約50ヘクタールの用地と300~500MW規模の再エネポテンシャルを掲げるAIデータセンター構想がある。海底ケーブルの陸揚げ拠点を持つ点も強い。
・電力:風力を中心に大きな潜在力
・冷却:国内上位
・土地:大規模キャンパス向き
・通信:追加投資と回線多重化が必要
・企業:東北電力、NTT東日本、DBJ、bitgritなど
・現在地:自然条件と政策は強いが、大口顧客が見えにくい
青森では過去に、寒冷地型データセンターが顧客確保に苦戦し、運営会社が民事再生へ進んだ。自然条件だけでは成立しないことを示す重要な事例だ。
香川:規模より、既存事業と収益化で見る候補
香川では、四国電力グループのSTNetがデータセンター「Powerico」を運営している。
Powericoは1ラック最大21kVAに対応し、STNetは遠隔GPUクラスターと液冷GPUサーバーの実証を進めている。四国電力の情報通信事業は2025年度に売上高527億円、経常利益112億円を計上した。ただし、これは通信やクラウドを含むセグメント全体の数字である。
・電力:四国電力グループとの一体運営
・冷却:寒冷地には劣る
・通信:四国内の既存ネットワークを保有
・災害分散:東京・大阪から離れたBCP拠点になり得る
・企業:四国電力、STNet
・現在地:数百MW構想ではないが、既存顧客と利益のある事業基盤を持つ
香川はウランチャブ型の巨大拠点ではなく、分散型AIインフラとして現実性が高い。
鹿児島:発電所跡地をAI拠点へ変える南の有力候補
2026年7月、薩摩川内市、鹿児島大学、九州電力、ソニーネットワークコミュニケーションズは、AIデータセンター集積に向けた協定を締結した。
計画地は九州電力の川内発電所跡地である。既存の産業用地と電力設備をAIインフラへ転換する点で、ソフトバンクの大阪・堺モデルに近い。
・電力:九州電力が直接参加
・冷却:寒冷地より不利
・土地:発電所跡地を活用
・通信:ソニーネットワークコミュニケーションズが参加
・企業:九州電力、ソニーネットワークコミュニケーションズ
・現在地:稼働前だが、電力、通信、大学、自治体がそろった
九州は再エネと原子力を組み合わせやすく、24時間の脱炭素電力を設計できる可能性がある。これは変動する風力だけに依存する地域より有利になり得る。
福岡:電力より、顧客とアジア接続が強い
福岡は寒冷地ではないが、企業、通信、人材、アジアとの接続性を持つ。九州電力グループは福岡都市圏ですでに3つのデータセンターを運営している。
九州電力、IIJ、QTnet、1FINITY、ノーチラス・テクノロジーズは、複数地域のGPUとデータセンターを連携させ、再エネの発電状況に応じて計算処理を移動させる実証も進めている。
・電力:九州電力が供給
・冷却:不利
・通信:国内外の接続で有利
・需要:企業と研究機関が集まる
・企業:九州電力、IIJ、QTnet
・現在地:巨大学習拠点より、九州の分散型AIネットワークの中核候補
栃木・茨城・富山は、現時点では評価保留
3地域も政府の一次審査を通過しているが、候補市町村は公表されていない。経済産業省は、土地や電力の空押さえを防ぐためとしている。
そのため、
・どの変電所を利用するのか
・何MWを想定しているのか
・どの企業が運営するのか
・いつ稼働するのか
が確認できない。
栃木と茨城は東京への近さ、富山は水力と冷涼な気候が魅力だが、現在の公開情報だけで上位候補と断定することはできない。
企業で見るなら「地域を押さえた電力会社」が面白い
この競争で最も直接的にチャンスを取り込める可能性があるのは、地域の電力会社だ。
・北海道電力:苫小牧、石狩、Rapidusによる需要増
・東北電力:GPUクラウド、宮城AIデータセンター、誘致事業まで直接展開
・北陸電力:富山の公式候補に関与する可能性はあるが、詳細は未公表
・四国電力:STNetを通じて既存の収益基盤を保有
・九州電力:福岡の既存施設、薩摩川内、地域分散GPU実証へ展開
この中で、現時点でAIデータセンター事業への踏み込みが最も明確なのは東北電力である。ただし、まだ同社全体の利益を動かす規模かは確認できない。
直接運営する企業
・ソフトバンク:苫小牧、堺、GPUクラウド
・さくらインターネット:石狩、高火力、国産クラウド
・IIJ:既存データセンターと九州分散基盤
・STNet:香川のPowericoと遠隔GPU構想
ここは上振れ余地が大きい一方、GPU稼働率、減価償却、陳腐化リスクも負う。
地域を選ばず需要を取り込める企業
・富士電機:受変電設備、UPS、電源盤
・ダイキン工業:高密度AIサーバーの冷却
・フジクラ、住友電気工業:光ファイバーと電力ケーブル
・日立製作所:AI基盤、電力、データセンター構築
・NTT:地域通信網、IOWN、データセンター間接続
投資対象としては、特定の地域が勝つことに賭ける運営会社より、全国の建設案件へ設備を供給できる企業の方が、需要を広く取り込める可能性がある。
現時点の整理
・大規模AI学習の本命:北海道
・事業化の速さ:宮城、福島
・再エネ大型拠点の候補:秋田、青森
・既存収益とBCP需要:香川
・発電所跡地の再利用:鹿児島、大阪・堺
・企業需要と国際接続:福岡
・詳細待ちのダークホース:茨城、栃木、富山
日本版ウランチャブは、一つの都市に集約されない可能性が高い。
寒冷地で大規模学習を行い、都市近郊で推論を処理し、各地域のコンテナ型拠点でデータを処理する。日本では「一つの巨大AI都市」より、電力事情に合わせて計算処理を移動させる分散型ネットワークの方が現実的である。
政府の一次選定で最も見るべきなのは地域名ではない。
その地域に、電力会社、通信会社、運営会社、資金提供者、そして実際に料金を払う顧客がそろっているかである。
主な公式資料:
経済産業省「GX戦略地域制度の有望地域」
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260424007/20260424007.html
九州電力・IIJなどによる分散型デジタルインフラ実証
https://www.kyuden.co.jp/press/2025/h250924-1.html
九州電力・ソニーネットワークコミュニケーションズなどの薩摩川内市協定
https://www.kyuden.co.jp/press/2026/h260722-1.html
STNet「遠隔GPUクラスター実証」
https://www.stnet.co.jp/archives/001/202511/press_20251104.pdf
東北電力「宮城AIデータセンター」
https://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1247944_2558.html
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