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陽だまりのオープンカフェ

東京の喧騒が、遠い異国の出来事のように感じられる午後。麻貴は、主人の実家がある鹿児島の小さな集落を歩いていた。

街灯すら見当たらないその道は、どこまでも続く青い空と、目に刺さるような緑に包まれている。見晴らしは最高だが、遮るもののない太陽が容赦なく降り注ぐ。麻貴は、ポツリポツリと点在する木陰を見つけては、そこへ飛び込むようにして歩を進めた。

「暑いなぁ……」

独り言がこぼれる。通りには人影もなく、静寂が支配している。けれど、この集落には目に見えない「温度」があった。

「まきちゃん、おかえりー!」

不意に声をかけられ、振り返る。そこには、縁側で涼んでいた近所の女性が、魔法のようにアイスクリームを差し出していた。

「あっちゅっで、これくいやんせ(暑いから、これ食べなさい)」

難解な鹿児島弁は、麻貴にはまだ外国語のように聞こえる。けれど、差し出されたアイスの冷たさと、その笑顔の意味を間違えるはずもなかった。
続いて別の家からは、「お茶飲んでいきなさい」とジュースが運ばれてくる。

「どこもかしこも、天然のオープンカフェみたい……」

麻貴は、もらったばかりの「ぼんだこ」を口に運んだ。お盆に食べるというその白玉団子の素朴な甘さが、歩き疲れた体に染み渡る。手には、さきほど近所の方からいただいたばかりの、立派なゴーヤが重たそうに揺れていた。

東京で生まれ育ち、アスファルトの熱気の中で生きてきた自分。
そんな私が、この言葉も通じないほど遠い地で「おかえり」と言ってもらえる。

(あぁ、ここで暮らすのもいいかもしれない……)

ふと、そんな思いが頭をよぎった。
「田舎暮らしなんて甘くないよ」と誰かが笑うかもしれない。厳しい冬や、不便な生活、複雑な人間関係もあるだろう。けれど、麻貴の胸の中には、静かで、それでいて揺るぎない確信が芽生えていた。

「私、どこでだって生きていける」

そこに根拠なんて、一つもなかった。
立派な資格があるからとか、貯金があるからとか、そんな理由はどうでもいい。
ただ、今こうして太陽の下で笑い、見知らぬ誰かの優しさに触れ、ゴーヤを抱えて歩いている自分を、そのまま信じていた。

自信に理由は必要ない。
「私なら大丈夫」と自分自身が思ってあげれば、それで世界は完成するのだ。

麻貴は再び、次の日陰を目指して一歩を踏み出した。
鹿児島弁の難解な、けれど温かい声が、背中を優しく押してくれているような気がした。


一般社団法人パラダイス・バードのカウンセラー紹介
TEAMS PARABA | paradisebird

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