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聖女の涙と、リアリストの浮き輪

第一章:銀幕の向こう側
リビングのソファで、美穂はあふれる涙を拭えずにいた。テレビ画面には、冷たい海に沈みゆくジャックと、彼の手を握りしめるローズの姿。
「なんて素敵なんだろう……。自分の命に代えても愛する人を守るなんて。これ以上の愛がある?」
二十数年前、当時の恋人と映画館で観た時も、エンドロールが終わっても席から立ち上がれなかった。あの日流した涙と、今、目の前でポップコーンを口に運ぶ旦那様に感じる愛おしさは、美穂の中で一本の線で繋がっていた。

第二章:究極の質問
「ねえ、あなた」
美穂は、感動の熱が冷めないうちに彼に問いかけた。
「もし、一人旅の船が転覆して、自分だけが浮き輪を持って助かったとするじゃない? 目の前には、助けを求める老人や子供、大人がたくさんいる。あなたなら、どうやって助ける?」
美穂の頭の中には、ジャックのように凛々しく手を差し伸べる旦那様の姿が浮かんでいた。しかし、返ってきた言葉は、想像の斜め上をいくものだった。

「助けないよ」

「……え?」
「タイタニックの内容にも、別に感動しないしね」

美穂の思考はフリーズした。今、この人は何と言ったのか。助けない? あの映画に感動しない?
「ちょ、ちょっと待って! 自分は浮き輪を持ってて、目の前で人が溺れてるのよ!? 普通、助けるでしょ!」
「いや、自分を犠牲にはできないでしょ。自分の安全が確保されてれば子供は助けるかもしれないけど、大人は助けないね。自分で泳いでもらうしかない。だって、自分を犠牲にできないから」

美穂は絶句した。目の前にいるのが、急に冷酷なエイリアンのように見えた。
(なんて薄情なヤツなんだろう! こんな人と一緒に人生を歩んでいくなんて……!)

第三章:鏡に映った「薄情」の正体
それから月日が流れ、美穂はメンタリスト、そしてカウンセラーとして多くの心に触れてきた。ある時、ふとあの日の会話を思い出し、ふっと笑いがこぼれた。

あの時、旦那様が言っていたことは「冷酷さ」ではなく、究極の「誠実さ」だったのだと気づいたからだ。

自分を犠牲にしない。それは、誰に何を言われようとも、世界でたった一人の「自分」という存在を最後まで見捨てないという覚悟。
一方で、綺麗な言葉で「助けるべき」と並べ立てていた自分はどうだっただろうか。もし実際にその場に立ったら、パニックになり、誰の手も握れず、理想と現実のギャップに絶望していたかもしれない。

「綺麗事を言っていた私の方が、よっぽど自分の本音に薄情だったわ」

終章:新しい愛のカタチ
今の美穂にはわかる。
自分という存在は、命を懸けて守るに値する大切な宝物なのだ。自分が満たされ、安全であってこそ、初めて他者への本当の慈しみが生まれる。

「ねえ、あなた。やっぱりあの時の答え、正解だったわ」
隣で相変わらずマイペースに過ごす旦那様を見て、美穂は心の中で呟く。

映画の中のジャックは美しい。けれど、現実の世界で「自分を大切にする」という旗を掲げ続ける目の前のリアリストも、負けないくらいにかっこいい。

美穂はもう、エンドロールが終わっても座り込んだりはしない。自分の足でしっかりと立ち、自分という一番大切なパートナーを連れて、今日という一日を歩き出すのだ。


一般社団法人パラダイス・バードのカウンセラー紹介
TEAMS PARABA | paradisebird

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