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魔法の小瓶と、標準装備の「6割」

ある日の夕暮れ。
麻貴は、キッチンで「カチッ」と小気味よい音を立てて、茶色の小瓶を開けた。

「ふぅ……。今日も一日、やり切った!」

グイッと飲み干すと、独特の甘みと苦みが喉を通り抜ける。なんだかよく分からないけれど、細胞のひとつひとつに「お疲れ様!」とスタンプを押されたような、あの独特の“元気になった気”が体に満ちていく。この「チャージ完了!」という感覚が、彼女は何よりも好きだった。

ふと横を見ると、ソファーで旦那さんがのんびりとテレビを眺めている。
彼は滅多に、この「魔法の小瓶」に手を伸ばさない。

「ねぇ、あなたも一杯どう? 元気出るよ?」

麻貴が誘うと、旦那さんはいつもの穏やかな、どこか悟りを開いたような顔で笑った。

「いや、いいよ。栄養ドリンク飲むほど頑張る必要なんて、ないじゃん」

その言葉に、麻貴の手が止まる。
(出た……! 隠れ『がんばり教』の私には一生出てこない発想……!)
彼はいつだって、麻貴が「もっと、もっと」と自分を追い込みそうになる時、ひょいと肩の力を抜いてくれる、人生の師匠なのだ。

最近、麻貴は自分の講座やカウンセリングで、相談者たちにこう伝えている。
「みんな、6割の頑張りでいいんだよ」と。
真面目で一生懸命な人ほど、10割どころか12割の力で走り続け、ある日突然ブレーカーを落としてしまうから。

「ねぇ、今日講座で『6割の頑張りがちょうどいい』って話してきたんだ。私自身も気をつけなきゃな、と思って」

麻貴がそう報告すると、旦那さんは「ふ〜ん」と興味なさそうに、でも確信に満ちた声で返した。

「俺、高校生くらいから頭は6割くらいしか働かせてないよ」
「……え、6割?」
「そう。それが俺の『標準装備』。フル稼働なんてさせないよ。疲れるし、そもそも必要ないしね」

標準装備が、最初から6割。
麻貴が「いかに6割に抑えるか」を修行中だというのに、彼は数十年前からその境地に住んでいたのだ。

麻貴は、空になった栄養ドリンクの瓶を眺めながら、思わず吹き出した。
「やっぱり、敵わないなぁ」

全力で走って、時々魔法の小瓶に頼る自分。
最初から省エネモードで、ゆらゆらと人生を楽しむ彼。
正反対だからこそ、磁石のように引き寄せられたのかもしれない。

「よし。私も明日は、もっとしっかり『6割』を使いこなしてみようかな」

麻貴がそう言うと、旦那さんは「それがいいよ」と、6割くらいの適当な相槌を打った。

キッチンの窓の外には、夜の帳が下り始めている。
頑張りすぎる夜も、6割で過ごす夜も。
隣に「師匠」がいる限り、麻貴の心のブレーカーは、今日も落ちることなく穏やかな明かりを灯し続けている。


一般社団法人パラダイス・バードのカウンセラー紹介
TEAMS PARABA | paradisebird

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