2021年度 関西大学 現代文 — 野家啓一『歴史を哲学する』徹底解説
2021年度 関西大学 現代文 — 野家啓一『歴史を哲学する』徹底解説
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要約 1. 過去を繋ぐ「物語り」と記憶の諸相
過去とは「かつてあった」が「すでにない」ものであり、知覚できる現在とは経験の様態が異なりますが、人格の同一性を保つために現在と**「地続き」になっています。この断絶面と連続面を捉える鍵が「物語り(narrative)」です。 また、記憶には「以前に経験した」という付加的意識(メルクマール)が必要であり、これがないと想像と区別がつきません。さらに、すべてを一挙に思い出すことはできないため、意識にのぼる「氷山の一角」を認識する行為は「想起」**と呼ぶのが適切です。
問1:現在と過去の経験様態と連続性
【照合のマスターキー】
前半の鍵(断絶面): 知覚できる現在 ⇔ 想起しかできない過去(経験様態が根本的に異なる)。
後半の鍵(連続面): 過去と現在は地続きであり、現在の人格を形作る不可欠の要素である。
【選択肢の照合】
c:〇【正解:完全一致】 前半の「断絶面」と後半の「連続面」のマスターキーと合致。
a:× 内容不一致 後半の「切れやすい」が「地続き」という本文記述と矛盾。
b・d:× 限定の誤解 前半の「想起できない」が本文の「想起『しか』できない」という限定と矛盾。
e:× 焦点のズレ 後半の結論が、断絶と連続の両面を捉えるべきとする筆者の主張からズレている。
問2:ジェイムズによる記憶の定義
【照合のマスターキー】
前提A: 記憶には「以前の」という付加的意識(メルクマール)が必要。
前提B: 記憶はすべて一挙に思い出すわけではない(氷山の一角)。
結論: だから、「知る」ではなく**「想起する」**と呼ぶのが適切。
注意点: 前提AとBの間は「それと、」という接続語で結ばれた**【並列関係】**である。
【選択肢の照合】
b:〇【正解:論理構造の再現】 「前提A + 前提B = 結論」という構造を完璧になぞっている。
a:× 事実誤認 「すべて一挙に想起」が本文の「一挙に思い出すわけではない」と真逆。
c:× 論理のすり替え 並列関係にある前提AとBを「〜だから〜だ」という偽の因果関係で結んでいる。
d:× 矛盾 aと同様。
e:× 構成の破綻 導入部分と後半の別の結論を無理やりくっつけている。
要約 2. 身体的記憶と「物語り」による転換
自転車の乗り方などの**「手続き的記憶」は、身体に沈殿した習慣であり、言語化は困難ですが現在の行為を支えています。これは過去性を持ちませんが、連続性を保証する「歴史的身体」とも呼べるものです。 一方、言語化可能な「宣言的記憶」は、個人的体験である「エピソード記憶」と、知識として伝達可能な「意味記憶」に分けられます。歴史記述とは、エピソード記憶を意味記憶へと転換する操作であり、その装置が「物語り」**なのです。
問3:手続き的記憶の性質
【照合のマスターキー】
具体例: 自転車の乗り方、九九(身体に刻み込まれた習慣)。
性質: 過去性をもたない・言語化は甚だ困難。
役割: 現在の行為の実践的能力・過去と現在の連続性を保証する(歴史的身体)。
【選択肢の照合】
d:〇【正解:属性の正確な抽出】 前半の「身体的記憶」、後半の「現在の基盤・連続性の保証」が正確。
a:× 真逆の属性 「言語表現と密接不可分」は宣言的記憶の属性。
b:× 具体例のすり替え コンサートの例は「エピソード記憶」の例。
c:× 本文に記述なし 「無意識になれば習慣と呼ぶ」という定義はない。
e:× 方向性の誤り ベクトルを「未来へ向かう」へとすり替えている。
問4:宣言的記憶の分類
【照合のマスターキー(構造)】
エピソード記憶: 個人的体験・日付あり = 体験的過去。
意味記憶: 独立した知識・伝達可能 = 歴史的過去。
核心: 歴史記述とは、エピソード記憶から意味記憶への**「転換(物語り)」**である。
【選択肢の照合】
b:〇【正解:定義の完全合致】 各定義がマスターキーと一言一句違わず完璧。
a:× 属性の混同 「言語化困難」は手続き的記憶の属性。
c:× 価値判断の捏造 本文にない「〜より〜の方が重要」という優劣を捏造。
d:× キメラ的選択肢 「身体」という手続き的記憶の語を混ぜている。
e:× ゼロサム思考 「〜ではなく」と一方を勝手に排除している。
要約 3. 「過去自体」という幻想と歴史家の役割
記憶の食い違いに直面すると、唯一の真実としての「過去自体」を想定しがちですが、それは認識不可能な「物自体」と同様の哲学的誤りです。想起された内容こそが、われわれにとっての過去のすべてです。 記憶は広大な**「忘却の海」に浮かぶブイのようなものです。歴史家は、その断片を手がかりに一つの「物語り」を構成する**役割を担います。神のような「過去自体」の把握(神の眼)は人間には不可能です。時間に浸された存在として、到達不能な問いを捨て、物語ることに徹するべきなのです。

問5:「過去自体」の不可能性
【照合のマスターキー】
事実: 客観的な「過去自体」はどこにも存在しない。
結論: われわれにできるのは、**「より正確に思い出そうと努力すること」**だけ。
【選択肢の照合】
c:〇【正解:結論の合致】 「過去自体は見いだせない」「努力することだけができる」と合致。
d:× 内容不一致 本文は「存在論的な区別ではない」と否定している。
a・b・e:× 論理構成のズレ 本文の展開と異なる。
問6:歴史家の作業の本質
【照合のマスターキー】
手段: 史料の断片(記憶のブイ)をつなぎ合わせる。
目的: 一つの**「物語り」を構成する**こと。
ルール: 歴史家であっても「過去自体」を見ることはできない。
【選択肢の照合】
d:〇【正解:プロセスの再現】 「忘却されている現在」「史料の断片から物語を構成」をなぞっている。
b・c:× 筆者の主張と矛盾 「過去自体に接近」「ありのままに忠実」は筆者が明確に否定。
問7:「神」と「人間」の属性エラー
【照合のマスターキー】
神の眼: すべては「永遠の現在」であり、過去という次元は存在しない。
人間: 時間に浸された存在であり、「過去自体」を問うことは無意味。
【選択肢の照合】
a:〇【正解:属性の正しい割り振り】 神の「永遠の現在」と、人間の「無意味さ」を正確に対比。
b:× 真逆の記述 「永遠の現在」が神に属することを否定している。
c:× 断定の誤り 筆者が留保している神の認識を、勝手に「知覚できる」と断定。
d・e:× 構造的矛盾 神には過去という次元がないため、「過去自体」の存在を神に結びつけるのは矛盾。
問8:漢字の照合マスターキー
【解法の鉄則】 文脈から熟語を推測し、漢字の「コアイメージ(意味)」が共通するものを選ぶ。
(あ) 収拾(シュウシュウ): 正解 d 拾得(「拾・収める」イメージ)
(い) 擬似化(ギジカ): 正解 e 擬似(「似せる・なぞらえる」意味)
(う) 端的(タンテキ): 正解 e 端正(「端・まっすぐ・正しい」イメージ)
(え) 中旬(チュウジュン): 正解 a 旬日(「旬・十日間」という単位)
(お) 痕跡(コンセキ): 正解 d 血痕(「痕・あと・きず」という物理的イメージ)
今回の野家啓一氏の文章は、「客観的な過去なんて存在しない」という、一見すると常識に反する結論に向かって論理を積み上げていく非常にタフな構成です。 しかし、この「照合マスターキー」を使って選択肢を解剖すれば、筆者が用意した「客観的事実」という罠を鮮やかに回避できるはずです。 論理の武器を手に入れて、合格を掴み取りましょう!
