資格ゼロ、中小、地方スタート。年収200万を6.5倍にした職務経歴書の書き換え手順
夜中に、職務経歴書のファイルを開いたまま、手が止まる。
実績欄のところで、カーソルが点滅している。何か書かなきゃいけないのは分かっている。でも、書けることが、思いつかない。
売上は会社の規模なりだし、同期は数人しかいないし、表彰制度もない。日々やっていたのは、目の前の仕事をなんとか回すことだけ。転職サイトのテンプレートをダウンロードして開いてはみたけれど、埋まらない欄のほうが多い。
「日々の業務はルーティンワークが中心で、特別な成果なんてない」。ネット上には、そういう言葉があふれています(https://lekky.jp/articles/1018/ )。「職務経歴書に書けるような実績・スキルがない」も、同じくらい見かける(https://magazine.meetcareer.net/column11/ )。
書けないんじゃなくて、書くものがない気がしている。 そのまま、ファイルを閉じる。
私は、その夜を何度も過ごしました。
新卒で入ったのは、地方の小さな制作会社です。年収200万円からのスタートでした。毎晩夜中まで仕事をして、土日も出ていた時期があります。終電がなくなって、自腹でタクシーに乗って帰ったこともありました。
そこから今、外資のIT企業で営業をしています。資格は、一つも持っていません。
あなたが並べている4つの言い訳
転職活動で詰まっている人の話を聞くと、だいたい4つの場所で止まっています。そして、その4つに対して、それぞれ違う説明をつけている。
① 書類が通らない。 「30代の未経験転職。書類選考で落ち続けるのは、やっぱり年齢のせい……?」(https://woman-type.jp/wt/feature/44641/ )。あるいは「中小企業だとアピールできることがない」(https://salatame.co.jp/tenshoku/chusho-oote/ )。年齢と、会社の規模のせいにしている。
② 面接で詰まる。 深掘りされると答えられなくなる、頭が真っ白になる。緊張のせいだと思っている。
③ エージェントと噛み合わない。 希望を伝えているのに違う求人ばかり来る。担当者ガチャに外れたと思っている。
④ 年収を言えない。 高く言って落とされるのが怖い。度胸がないせいだと思っている。
地方にいる人だけの話じゃありません。都市部の中小にいる人も、同じ場所で止まります。
私も、全部やりました。
そしてこの4つには、共通点があります。
全部、自分ではどうにもならない外部要因のせいにしている。 年齢は変えられない。会社の規模も、緊張しやすい性格も、担当者の当たり外れも、持って生まれた度胸も。
だから、動きようがなくなる。
先に言います。あなたが不利なのは、事実です
ここで「そんなことない、あなたにも強みがある」と言われても、たぶん響かないと思うので、先に不都合な数字を置きます。
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査を見ると、不利さは2つの方向からきています(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/dl/14.pdf )。
ひとつは、会社の規模です。
35〜39歳の賃金は、大企業がおよそ37.0万円、小企業がおよそ29.7万円。大企業を100とすると、小企業は80.3。 同じ年齢、同じ働き方をしていても、規模が違うだけで2割前後変わります。
もうひとつが、場所です。
都道府県別の賃金で全国平均を上回っているのは、たった4都府県。 東京、神奈川、愛知、大阪。それ以外の43道府県は、全部下です。
この2つは、掛け算になります。地方の中小にいれば両方を食らうし、東京にいても中小なら規模のほうは同じように食らう。
つまり、あなたの数字が小さく見えるのは、能力ではなく、置かれている場所の話です。
私は北海道の小さな会社にいたので、これは肌感覚として分かります。
どれだけ頑張っても、大手の同世代が出している数字には、絶対額で届かない。それは頑張りの問題じゃなくて、市場構造の問題でした。
だから、はっきり言います。不利です。気のせいじゃありません。
ただ、減点されている場所が違う
ここからが、この記事の本題です。
現役の中途採用担当者が、匿名で本音を話している座談会があります。そこで、書類選考で最初に見る項目について、こう語られていました。
「年収×年齢」の組み合わせを見て、自社の水準と比較する。
社会人8年目の応募者なら、自社の社員が同じ8年間でどんな評価を受けているかと比べる。別の担当者は、そこに「会社」まで足して、どんな業態・企業規模で、どれくらいの評価(年収)を、何年(年齢)で受けていたか、この3つの組み合わせを見ていると言っています(https://doda.jp/guide/saiyo/015.html )。
今のあなたの年収が、前職での評価の代わりとして読まれている。
さっきの2割を思い出してください。環境による目減りが、そのまま「この人はその程度の評価しか受けてこなかった」という読まれ方をしている。
つまり、あなたは書類の1行目で、能力とは関係ないところで減点されている。
そして多くの人は、そこに気づかないまま、実績欄を書き直そうとする。書き直す場所が、そもそも違うんです。
ちなみに同じ座談会で、書類通過率も語られていました。ある会社は約40%、ある会社は約25%、ある会社は営業職なら約80%。同じ書類でも、出す先によって25%から80%まで振れる。 通過率が低いのは、あなたの書類が悪いからだけではありません。
そもそもdodaの公式データでは、内定を1社得るには27社の応募が必要という計算になっています(平均応募社数は31.9社/https://doda.jp/guide/oubo/heikin/ )。5社落ちて心が折れているなら、まだ折れる段階ですらない。
この4つは、同じ一つの問題の4つの顔だった
さっきの4つの言い訳に戻ります。
私が長いこと分かっていなかったのは、あの4つが別々の問題ではなかったということでした。分解すると、こうなります。
① 書類は、自分の実績を言語化する場所。
② 面接は、その言語化が、詰問に耐えるかどうかを検証される場所。
③ エージェントは、その言語化を、代わりに企業へ伝えてもらう相手。
④ 年収は、その言語化に、値札がつく瞬間。
全部、同じ「言語化」という一本の線の上にある。
書類が通らない人は、面接でも崩れます。面接で崩れる人は、エージェントにも伝えられていません。
エージェントに伝えられていない人は、年収の根拠も言えません。
だから、書類だけ直しても、年収は上がらない。
逆に言えば、根っこの一箇所を直せば、4つとも動きます。
参考までに、転職者2,000人への調査では、**59.1%が「普段から自分の強みを意識できていない」**と答えています(https://doda.jp/guide/ishiki/ )。
過半数です。できていないのは、例外じゃない。標準のほうです。
私は新卒200万円から、資格を一つも持たないまま、年収を6.5倍にしました。
やったことは、資格を取ることでも、大企業に生まれ直すことでもありません。やってきたことに、名前をつけ直しただけです。
ここから先では、その具体的な手順を書いています。
自分の職務経歴書の中に「通る書き方」と「通らない書き方」が両方入っていたという話。絶対額を一円も書かずに評価される数字を作る、4つの変数。書いた一行を面接の深掘りに耐えさせる検品の仕方。エージェントの報酬構造を踏まえた立ち回りと、ほとんど誰も使っていない厚労省の無料データ。そして、値札のつけ方まで。
読み終わったら、明日、自分の職務経歴書を開いて、実績欄のどこを直せばいいかが分かる状態になります。
それ以上のことは、約束しません。転職は運と縁も絡むので、これをやれば通る、とは言えない。
ただ、書けるものがないと思っていた自分の経歴に、書けるものが埋まっていたと気づくところまでは、確実に届きます。
私が、そこに気づくまでに十年かかったので。
同じ経歴が、書き方で薄くも濃くもなる
自分の職務経歴書を、ひさしぶりに頭から読み返したことがあります。
地方の小さな会社から始まって、東京に出て、デジタルマーケティングの支援会社を経て、今の外資に入るまで。一枚の紙に、十年ちょっとが詰まっている。
読んでいて、はっきり気づいたことがありました。
同じ一枚の中に、通る書き方と、通らない書き方が、両方入っている。
キャリアの前半、制作物の進行管理をしていた時期があります。だいたい6年。ここの実績欄を、私はこう書いていました。
要件定義から品質管理、運用のコンサルティングまで経験した。顧客のゴールとなる日程をヒアリングして逆算した。相手の要望だけでなく、その背景にある利害関係や事情まで理解して、他部署や協力会社と調整した。結果として、顧客が納得する仕様とスケジュールを作り、納期を守った。
読み返して、正直、思いました。
数字が、一個もない。
丁寧に仕事をしていたのは本当です。指名で相談をもらうようにもなった。でも、この書き方だと「丁寧な人なんですね」で終わる。それ以上、何も伝わらない。
一方で、同じ紙の、東京で拠点の立ち上げをやっていた時期。ここはこう書いています。
その拠点で、それまでで一番の売上を出したこと。そして、会社全体に占める東京の売上比率が、2割弱から半分まで上がったこと。
こっちは、通ります。
面白いのは、ここにも金額が一円も書かれていないことです。
売上いくらだったのか、書いていない。書けないんですよ。地方の小さな会社の、その東京拠点です。外資の営業が並べるような数字が出るわけがない。絶対額を書いた瞬間、負ける。
だから書かなかった。代わりに、母数の中でどの位置にいたかと、どれだけ動かしたかを書いた。
この二つは、会社の規模と関係なく成立します。過去最高は、母数が何人だろうと過去最高。2割弱が半分になったのは、事業の売上が何億だろうが何千万だろうが、同じ事実です。
つまり、こういうことでした。
私の実績が薄かったんじゃない。薄く見える書き方をしていた期間と、そうじゃない期間が、同じ紙の上に並んでいただけ。
ここで、多くの人が写経している転職サイトのテンプレートの話をします。
大手のサイトが配っている営業職のテンプレートを、実際に開いて見てください(例:doda「IT法人営業」職務経歴書テンプレート https://doda.jp/guide/syokureki/resume/eigyo46.html )。記入欄が、こうなっています。
会社情報の欄に、資本金・売上高・従業員数・上場/未上場を書く。取引顧客の欄に、顧客の従業員数と企業規模を書く。実績の欄に、予算達成率・売上・粗利・社内順位を書く。そして最後に、資格の欄がある。
記入例には、こんな一行まで載っています。「社長賞受賞(新規契約数xx件、全国新入社員xxx人中x位)」。
全国新入社員xxx人中。
これ、何百人と同期がいる会社にいた人しか書けない実績です。
地方の中小にいる人が、この欄を素直に埋めるとどうなるか。会社情報の欄で規模に負ける。取引顧客の欄で、相手も中小だから小さく見える。実績の欄で、絶対額に負ける。そして資格の欄が、空欄になる。
私は資格を一つも持っていません。ITパスポートもTOEICも、何もない。
だから私の職務経歴書には、資格欄がありません。
欄ごと消しました。代わりに、一番上に「スキル」という項目を置いて、そこに法人営業約10年、営業プロセスの型化とKPI設計、経営者への直接提案といった、実務そのものを並べています。
これはテンプレートを捨てた、という話です。
あのテンプレートは、悪意で作られてはいません。大企業にいて、有資格で、大きな数字を持っている人が使えば、きれいに機能します。ただ、標準形として設計されている人物像が、あなたじゃないというだけ。
自分の実績が薄いんじゃなくて、薄く見える欄しか用意されていなかった。
私がこの十年で一番遠回りしたのは、ここに気づくまでの時間だったと思っています。あの欄を埋められない自分が悪いんだと、ずっと思っていた。
違いました。埋める欄を、自分で作り直せばよかった。
じゃあ、絶対額を持っていない人間が、どうやって評価される数字を作るのか。
さっきの二つを、たまたま思いついたわけじゃありません。あの書き方には、共通する型があります。
数字がない人が、数字を作る4つの変数
「数字で書け」と言われて、書けたら苦労していません。
私も言われました。何度も。そのたびに思っていたのは、書くような数字が手元にないということでした。売上は会社の規模なりだし、同期は数人しかいないし、表彰制度もない。日々やっていたのは、目の前の案件をなんとか納めることだけ。
転職の指南記事を読むと、たいてい「数字=定量的に書くことが必須」と書いてある。実際、5000人以上の職務経歴書を見てきたという現役エージェントの方も、そこを最重要に置いています(https://note.com/taizo4120/n/ncbc2a3d13d61 )。
正しいと思います。
ただ、「数字で書け」は、数字を持っていない人には何の指示にもなっていません。
私が最終的に使ったのは、絶対額を持たなくても成立する4つの変数でした。順に説明します。
① 母数
自分がいた集団の中で、どの位置だったか。
これは規模に依存しません。5人の中の1位も、500人の中の1位も、「1位」という事実は同じ強度で書けます。むしろ母数が小さいことを隠さず「拠点3名中」と書いてしまったほうが、読み手は状況を正確に理解できる。
注意点は、母数を書かないと逆効果になることです。
「1位」とだけ書くと、読んだ側は「何人中だ?」と引っかかる。引っかかった時点で、面接で必ず聞かれます。
② 変化幅
自分が入る前と、後で、何がどう変わったか。
私が使ったのはこれでした。売上比率が2割弱から半分になった、という書き方です。変化幅は、絶対額を一切書かずに成立します。 分母がいくらでも、動いた事実は動いた事実だからです。
これは今の会社でも同じで、私は新規受注率を5%から25%前後まで改善しました。件数も金額も書いていません。それでも通じます。
③ 期間
その変化に、どれだけかかったか。
同じ「2割弱から半分」でも、5年かかったのか、2年で到達したのかで、意味がまったく変わります。期間を添えないと、読み手は最も遅い解釈をします。だいたい損をする。
私はこれで一度、実際に損をしていると思っています。書類上、期間の書き方が甘い箇所がありました。
④ 再現条件
その結果を、何をやって出したのか。
ここが一番大事です。そして、一番みんな書いていない。
①②③だけだと、読み手は「たまたま良い時期だったのでは」「担当が良かったのでは」と疑えてしまう。疑いを潰すのは、実績そのものではなく、実績の作り方です。
大手サイトのテンプレートも、実は自己PRの項目でこう指示しています。ミッションや目標に対して、どのようなKPIを策定し、主体的に行動したのかを書け、と(https://doda.jp/guide/syokureki/resume/eigyo46.html )。
正解は、無料で公開されているんですよ。
なのに書けない。私も書けなかった。
なぜかというと、KPIを策定した記憶がないからです。
当時の自分は、目の前の案件を必死にやっていただけで、「KPIを設計して逆算した」なんて意識は一ミリもなかった。
でも、振り返ると、やってはいたんです。
新規開拓が回らなかったとき、私は訪問先のリストを業種で切り直しました。反応が良い業種と悪い業種で、明らかに差があったからです。
それは今の言葉で言えばセグメントの再定義で、KPIの置き直しです。
当時そんな言葉は使っていない。やっていたことに、後から名前がついただけ。
ここが、この記事で一番伝えたい箇所かもしれません。
あなたに実績がないんじゃなくて、やったことに名前をつけていないだけ。
転職者2,000人への調査では、59.1%が「普段から自分の強みを意識できていない」と答えています(https://doda.jp/guide/ishiki/ )。過半数です。つまり、言語化できていないのは例外じゃない。標準です。
では、どう掘り起こすか。
私がやったのは、シンプルに一つの質問を、過去の仕事に片っ端からぶつけることでした。
「そのとき、何をやめて、何に替えたか」
これだけです。成果を思い出そうとすると出てこない。でも、やめたことは、意外と覚えている。
訪問件数を追うのをやめて、業種を絞った。全部の案件を平等に見るのをやめて、決裁者に会える案件だけ深く追った。見積を出す前に必ず一度ラフ案を見せるようにした。
やめて替えた、という形で出てきたものは、必ず「判断」を含んでいます。 判断が含まれていれば、それは再現条件になる。運じゃないことの証明になります。
そして、その判断の前後を見れば、②の変化幅が見つかります。何かをやめたということは、やめる理由になる悪い状態が前にあったはずだから。
私が資格を一つも持たずにここまで来られたのは、資格が要らなかったからではなく、この4つを書けるようになったからだと思っています。
資格は、持っていることを証明する紙です。この4つは、動かせることを証明する記述です。採用する側が本当に知りたいのは、後者のほうでした。
ただ、ここで手を止めないでください。
書けた、で終わる人が一番多い。
書いた一行は、そのまま次の場所に持っていかれます。
書いた一行は、面接で必ず詰められる
書類が通ったときの安心感、あれは危ないです。
私も何度か味わいました。通った、よし、と思う。そこから面接の準備として何をするかというと、書いた内容を読み返して、口で言えるようにする。志望動機を用意する。逆質問を三つ考える。
それ、ほぼ意味がありません。
面接で落ちた人の言い分を見ていると、ある共通の型があります。「深掘りされると答えられなくなる」「頭が真っ白になる」。あるいはもっと切実なのが、こういうやつです。
「全部ポジティブにスムーズに答えたのに、落ちた」
これ、実際にネット上で見かける嘆きなんですが(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14291747824 )、私は読んだとき、痛いほどわかりました。
スムーズに答えられたことは、通る理由になりません。
むしろ、用意してきた答えを滑らかに再生した人ほど、その先で崩れます。準備した答えに縛られて、想定外の角度から来た質問に対応できなくなる、というのはよく指摘されるところです(https://rookie.levtech.jp/guide/detail/338/ )。
私はこれを、商談だと思って捉え直しました。
営業をやっている人なら、痛いほど心当たりがあるはずです。提案書がきれいに通ったのに、決裁で落ちる案件。 あれと、まったく同じ構造です。
商談が詰まったとき、私が最初にやるのは、提案の中身を良くすることじゃありません。「どこで、誰が、何を判断できずに止まっているか」を分解する。 相手が止まっているのは、たいてい提案の質じゃなくて、判断材料が足りていないからです。
面接も同じでした。
面接官は、あなたを落としたくて質問しているわけじゃない。
「この人を採る」という判断をするための材料を、集めようとしている。
そして書類に書かれた一行は、材料としては不十分なんです。結果しか書かれていないから。
だから聞かれます。「それ、どうやったんですか」と。
ここで多くの人がやってしまうのが、やったことを、もう一度詳しく説明することです。訪問件数を増やしました、業種を絞りました、こういう提案をしました。
これは、判断材料になりません。行動の説明であって、判断の説明じゃないから。
面接官が知りたいのは、その一段手前です。
なぜ、その手を選んだのか。ほかの選択肢を、なぜ捨てたのか。
前の章で、「そのとき何をやめて、何に替えたか」で実績を掘り起こす話をしました。あれをやっておくと、ここで効いてきます。やめた理由が、そのまま判断の説明になるからです。
訪問件数を追うのをやめたのは、件数と受注に相関がないと思ったからです。じゃあ何を見て、そう思ったのか。反応が良かった業種と悪かった業種で、明らかに差が出ていたからです。だから業種で切り直した。
これが、詰問に耐える形です。
書類の一行に対して、「なぜそうしたか」と「何を捨てたか」を一段ずつ下に持っておく。
深掘りというのは、この階段を降りてくる質問のことです。階段が用意してあれば、降りてこられても落ちません。用意していないと、二段目で足がなくなる。
私は自分の書類を見返すとき、一行ずつ指で押さえて「なぜ?」と自分に聞くようにしています。三回聞いて答えが出れば、その一行は面接で持ちます。二回で詰まったら、その一行はまだ書けていない。書き直します。
面接対策というより、書類の検品です。
そして、ここが面白いところなんですが、この検品をやると、書類そのものが良くなります。三回の「なぜ」に耐えなかった一行は、たいてい他人の言葉で書かれている。テンプレートから借りてきた表現とか、それっぽく整えた言い回しとか。
自分の判断が入っていない一行は、面接で必ず崩れる。逆に言えば、面接で崩れない一行しか、書類に載せる価値がない。
ここまでが、自分ひとりで完結する範囲の話です。
ただ、あなたのその書類は、多くの場合、あなたが企業に直接届けるわけじゃありません。あいだに、必ず一人挟まります。
エージェントは、人格ではなく報酬構造で動く
担当者ガチャ、という言葉があります。
希望を伝えているのに違う求人ばかり送ってくる。返信が遅い。こっちの業界のことを分かっていない。話が噛み合わない。そういう不満は、あちこちで見かけます(https://axxis.co.jp/magazine/55408 )。
面白いのは、大手のエージェント自身が、公式ページでこう書いていることです。**「担当のキャリアアドバイザーを変更してほしいけれど言い出せない」**と悩む人がいる、と(https://www.r-agent.com/guide/agent/5382/ )。
サービス提供側が、自分たちに対する不満の存在を認めて記事にしている。それくらい、当たり前に起きているということです。
ただ、ここを「担当者の当たり外れ」で処理すると、何も変わりません。次の担当も、次の会社も、たぶん同じことが起きます。
人格じゃなくて、構造で見たほうがいい。
エージェントの報酬がどう決まっているか、知っていますか。
紹介した人が入社したとき、その人の理論年収の3割前後が、企業から紹介会社に支払われます。多くの事業者は、成功報酬として理論年収の30〜35%程度で届出をしていると解説されています(https://ueno.law/topics/ )。マイナビの運営メディアでは、相場として27.5〜38.5%程度という書き方もされています(https://tameni.mynavi.jp/recruitment/launch/9318/ )。
これが何を意味するか。
年収600万で決まれば、エージェントの売上はおよそ180〜210万円。700万なら、210〜245万円。
つまり、こういうことです。
あなたの年収が上がると、エージェントの取り分も、比例して上がる。
「年収の話をすると、担当者に嫌がられるんじゃないか」と思っている人が多いんですが、構造としては、真逆です。
あなたの年収を上げることは、そのまま担当者の成績になる。ここは利害が完全に一致しています。
じゃあなぜ、希望と違う求人を押してくるのか。
報酬が発生するのは、内定ではなく入社してからです。しかも一般的に、早期に辞められると手数料の一部を返金する規定を設けている会社が多いとされています。
よく言われるのは「3か月以内の退職で50%返金」という水準です(https://sales-marker.jp/report/employment-agency-commission/ )。ただしこれは業界メディア発の相場観で、公的統計での裏付けは取れていません。参考程度に受け取ってください。
いずれにせよ、「決まりやすくて、辞めにくい求人」に寄る動機が、構造的にある。 担当者が不誠実なんじゃなくて、そう設計されている。
これが分かると、立ち回りが変わります。
担当者は、審査する相手じゃなくて、代弁する相手です。
前の章で、書類の一行の下に「なぜそうしたか」を用意する話をしました。あれを、担当者にも渡してください。書類だけ送って終わりにしない。なぜこの実績が再現できるのかを、口で説明する。
担当者は、あなたを企業に推薦するとき、あなたの言葉を使います。あなたが言語化できていないことは、担当者も企業に伝えられません。
「合う求人が来ない」の何割かは、ここが原因です。
もうひとつ、ほとんど誰も使っていないカードを渡しておきます。
厚生労働省が「人材サービス総合サイト」というものを運営していて、ここで職業紹介事業者ごとの紹介手数料の実績、就職者数、離職者数、返戻金の有無が確認できます(https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/ /制度の説明はこちら https://jsite.mhlw.go.jp/saga-roudoukyoku/newpage_02303.html )。
詳細情報からは、過去5年分の就職者数と離職者数まで見られます(https://www.mhlw.go.jp/content/001338300.pdf )。
無料です。誰でも見られます。
離職者数が分かるということは、その会社が紹介した先で、人がどれくらい辞めているかが分かるということです。担当者ガチャを運のせいにする前に、見るべき数字がちゃんと公開されている。
ちなみに同じルールの中に、紹介した人への就職日から2年間の転職勧奨禁止というものもあります(無期雇用の場合)。
知らないと、単に親切な連絡だと思ってしまうやつです。
構造を知っている人と、知らない人。
同じ担当者がついても、引き出せるものが変わります。
さて、ここまで積み上げてきたものに、最後、値札がつきます。
最後に、値札をつける
年収の希望額を聞かれて、低めに答えてしまったこと、ありませんか。
私はあります。高く言って落とされるのが怖かった。謙虚にしておいたほうが印象がいいだろうと、本気で思っていました。
これ、私だけの勘違いじゃないみたいです。エンジニア対象の調査ですが、年収交渉について「積極的に行いたい」が31.8%、「できれば行いたいが、自分で交渉できるか不安」が50.6%。
合わせて82.4%が交渉したいと思っている(https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2607/03/news060.html )。
つまり、やりたくない人はほとんどいない。
やりたいけど、根拠がなくて言えない。
じゃあ、企業側はどう見ているのか。
現役の中途採用担当者が匿名で本音を話している座談会があって、これがかなり効きます(https://doda.jp/guide/saiyo/015.html )。
システム開発の採用担当者の発言が、こうです。前職が500万円で希望が800万円だったとしても、300万円上げられると考える「根拠」を説明してもらえれば問題ない。
むやみに低く書かないほうがいい。
「謙虚な人だね、素晴らしい!」とは全然思わない、と。
アパレルの担当者は、こう言っています。希望年収を保守的に書くのは、日本人だけかもしれない。
読んだとき、正直、痺れました。私が何年も怖がっていたものは、向こう側には存在していなかった。
壁は、度胸じゃなかった。根拠でした。
そして同じ座談会で、もっと重要なことが語られています。
採用担当者が書類で最初に見るのは、「年収×年齢」の組み合わせなんだそうです。社会人8年目なら、自社の同年次と比べて、同じ8年間でどんな評価を受けてきたかを見る。
別の担当者は、そこに「会社」まで足して、どんな業態・企業規模で、どれくらいの評価(年収)を、何年(年齢)で受けていたかを見ている、と言っています。
今のあなたの年収が、前職での評価の代わりとして読まれている。
ここで、無料パートで触れた統計を思い出してください。従業員規模の小さい企業にいる35〜39歳の賃金は、大企業のおよそ8割です(令和6年賃金構造基本統計調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/dl/14.pdf )。
つまり、環境による2割の目減りが、そのままあなたの評価として読まれている。
理不尽です。でも、これが現実に起きていることです。
だから、値札は自分でつけるしかない。
やることは、この記事でずっとやってきたことと同じです。
書類に書いた実績(母数・変化幅・期間・再現条件)を、次の会社で何をいくら動かせるかに翻訳する。
これが根拠です。
「頑張ります」でも「御社で成長したい」でもなく、前職で◯◯を◯◯まで動かした手順を、御社の◯◯に適用できる。
この形になっていれば、金額は言えます。
そして前の章の通り、その金額を企業に伝えるのは、多くの場合あなたではなく担当者です。
担当者の取り分も、あなたの年収に連動している。 味方に根拠を渡して、代弁してもらう。それだけの話です。
日割りチェックリスト(印刷して使ってください)
在職中に一晩で終わる量ではありません。3日に割ります。
□ 1日目:検品(30〜40分) 職務経歴書を印刷。実績欄を一行ずつ指で押さえ、「なぜ?」と三回聞く。答えの出ない行に印。今日は印をつけるだけで終わらせる。
□ 2日目:書き直し(1行15〜20分。印のついた行のうち、強い順に3行だけ) 穴埋めフォーマットに流し込む。①母数/②変化幅/③期間/④再現条件が入っているか確認。②が思い出せない行は、当時の資料や社内チャットを遡る。各行に比較対象を一つ添える(他拠点、前任者、前年同期)。
□ 3日目:整合と仕上げ(40分) 「面接で裏側を全部言えるか」で検品。言えない行は下げる。一番強い行を職務要約の3行目までに要約して置く。資格が武器にならないなら資格欄を下げるか消す(資格必須の求人は当然この限りではありません)。一番上に「スキル」を置き、実務そのものを並べる。
□ その後 担当者にはメール添付だけで済ませず、口で説明する時間をもらう。人材サービス総合サイトで、その紹介会社の①離職者数②6か月以内離職状況③職種別平均手数料率を確認。スカウトの公開設定を点検。応募は30社を5/18/7で配分し、打ち切り基準を紙に書いてから始める。希望年収は3階建てで組み、相手に言うのは3階だけ。
私は新卒で、年収200万円からのスタートでした。
地方の小さな制作会社で、毎晩夜中まで仕事をして、土日も出ていた時期があります。終電がなくなって、自腹でタクシーに乗って帰ったこともありました。
年収200万でタクシーで毎晩帰っていたら生活もできず、彼女にお金を借りていました。
そこから今に至るまで、年収は6.5倍になっています。
ただ、これは自慢話じゃないんです。むしろ逆で、そもそもの出発点が低すぎたという話でもある。
参考までに、30代で転職した人のうち「1割以上年収が増えた」のは、3人に1人ちょっとです(令和6年雇用動向調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf )。
6.5倍という数字は、この分布のどこにも載りません。外れ値です。
再現しろとは言いません。できるとも言いません。
ただ、その途中で私がやったことは、資格を取ることでも、大企業に生まれ直すことでもありませんでした。やってきたことに、名前をつけ直しただけです。
明日から、この順番でやってください。
まず、自分の職務経歴書を印刷して、実績欄の一行ずつを指で押さえて「なぜ?」と三回聞く。
答えが出ない行に印をつける。ここまでで、たぶん30分もかかりません。
次に、印をつけた行を、「そのとき何をやめて、何に替えたか」で書き直す。ここで、母数・変化幅・期間・再現条件の4つが入っているか確認する。
そのうえで、担当者に書類を渡すときは、書いてある内容を口で説明する時間を必ずもらう。 メール添付だけで済ませない。
そこまでやったら、希望年収は正直に書いてください。
低く書いても、誰も褒めてくれません。
