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映画感想文『コート・スティーリング』 実は繊細で綺麗なマクガフィン映画

監督:ダーレン・アロノフスキー/2025年 米(日本公開2026年1月9日)

1998年、ニューヨーク。メジャーリーグのドラフト候補になるほど将来有望だったものの、運命のいたずらによって夢破れた若者・ハンク(オースティン・バトラー)。バーテンダーとして働きながら、恋人のイヴォンヌ(ゾーイ・クラヴィッツ)と平和に暮らしていたある日、変わり者の隣人・ラス(マット・スミス)から突然ネコの世話を頼まれる。親切心から引き受けたのもつかの間、街中のマフィアたちが代わる代わる彼の家へ殴り込んでは暴力に任せて脅迫してくる悪夢のような日々が始まった! やがてハンクは、自身が裏社会の大金絡みの事件に巻き込まれてしまったことを知る──が、時すでに遅し!
警察に助けを求めながら戦々恐々と逃げ続けていたある日、ついに大きな悲劇が起こる。理不尽な人生に堪忍袋の緒がブチギレたハンクは、一念発起して自分を巻き込んだ隣人やマフィアたちにリベンジすることを決意する──!

公式サイトから(長えよ)

※ごく個人的な感想です。ネタバレあったらごめんなさい。


ダーレン・アロノフスキーは痛覚作家

この手のジャンル、何て言うの?クライム・アクション?正直、普段はあまり食指が動かないジャンルです。
それでも劇場へ足を運んだのは、監督がダーレン・アロノフスキーだったから。
『レスラー』(2008年)と『ブラック・スワン』(2010年)しか観ていないんですけどね、彼の手腕は好きなんです。

私がこの監督の特徴だと思っているのは、「身体的な痛みの描写が巧い」こと。
観てて「痛ててっ」ってなる。
特に『レスラー』と『ブラック・スワン』が「肉体映画」だったということもありますけどね。なんだ?肉体映画って?

本作でも、皮膚縫合のくだりとか「痛ててっ」ってなります。
しかも、その「肉体の痛み」と「精神の痛み」がリンクする。巧いんですよ。
公式サイトの粗筋が言うところの「ついに大きな悲劇が起こる」とかね。
てゆーか、ヒドいネタバレだな。配給会社は猫に指を噛まれてしまえ。

嘔吐はするけど綺麗な映画

いわゆるノンストップ・アクション的な触れ込みで宣伝されていますが、その手の映画が陥りがちな大味さはなく、むしろ非常に丁寧な映画だと思うんです。
特に小道具やかせの使い方。
ライターや安息日、車の運転とか。
それぞれのアイテムや設定が、単なる背景でなく、ストーリーの歯車としてちゃんと機能している。こんな綺麗な「映画的小道具」を久しぶりに見た気がします。

原題は野球用語で「盗塁失敗」。
転じて「チャンスを掴もうとして失敗すること」や「悪事が露見する」といったニュアンスを含むそうです。
このタイトルも含めて、いろいろ見事で、全体的に映画として綺麗なんですよ。嘔吐ですら、その使い方が綺麗。
ま、野球要素の小道具として使うのはバットくらいだけどね。

マクガフィン映画として

構造としては典型的な「巻き込まれ型サスペンス」。
ヒッチコックの『知りすぎていた男』(1956年)や『北北西に進路を取れ』(1959年)の系譜ですね。

で、主人公が巻き込まれる要因が、公式サイトによれば「裏社会の大金絡みの事件」。これもヒドいネタバレだ。配給会社はタンスの角に足の小指をぶつけて痛ててってなれ。

で、この「大金」、ヒッチコックが言うところの「マクガフィン」というやつです。
それを巡って登場人物たちがドタバタ行動する動機付けであれば、中身は大金だろうが機密書類だろうが何でもいい。

例えば、『ミッション:インポッシブル3』(2006年)の「ラビットフット」とかね。なんだ?「ラビットフット」って?
あるいは山中貞雄の傑作『丹下左膳余話 百萬両の壺』(1935年)の「こけ猿の壺」。あれも立派なマクガフィン。
私が2024年のベスト1に推したイーサン・コーエン『ドライブアウェイ・ドールズ』(2024年)に至っては、マクガフィンが「大人の玩具」だからね。最高だな。

そう考えるとこの映画、全体構成も巧いし、小道具の伏線もよく効いていて完成度は高いんですが、「マフィアの大金争奪戦」という根本的な設定がありきたりで残念なんだよなあ。
直球ど真ん中って感じ?あ、野球だからいいのか?

(2026.01.18 グランドシネマサンシャイン池袋にて鑑賞 ★★★☆☆)

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