読書 | コエーリョ『11分間』
コエーリョの『11分間』を再読しています。この本は何年か前に、英訳で読みました。
コエーリョの英訳はたいへん分かりやすく、多読に向いているかな、と思って何冊か持っています。
今回の再読では、英訳と日本語訳を並行して読んでいますが、英語で読んでも日本語で読んでも、大きく印象が変わるということはありません。だから、コエーリョの文章もさることながら、英語への翻訳も日本語への翻訳も、質が高いのではないか、と思っています。
この記事では、『11分間』の内容に関することではなく、英訳と日本語訳を対照しながら、文法と翻訳について思ったことを書きます。
⚠️テキストは、
日本語訳は、旦敬介(訳)の単行本版(角川書店、2004年初版)、
英語訳は、Margaret Jull Costa (訳)(HARPER)を用います。
英文法的に気になったところ
(1) flat adverb の使用
Feelings could wait, now what she needed to do was to earn some money, get to know the country and return home victorious.
感情にはしばらく待っておいてもらって、今重要なのは、お金を稼ぐこと、この国を知ること、そして故郷に凱旋することなのだった。
「return home victorious」は「凱旋帰国する」ということなのですが、私が注目したのは「victorious」という言葉です。
本来ならば「勝ち誇って」ということなので、「victoriously」という副詞になるべきところです。
以前の記事でも触れたことがありますが、これは「flat adverb」です。
一応おさらいしておくと、たとえば「深刻に受け止める」という場合、
「take it seriously」という言い方も、
「take it serious」という言い方もできます。
「take it seriously」と言う場合は、
『「seriously」に「take」する』、つまり、seriouslyはtakeという動詞にかかります。
「take it serious」も意味はほぼ同じですが『「it is serious」ということを「take」する』ということになります。
「return home victorious」の「victorious」を見て少し違和感を覚えたのは、まだ、私が十分に「flat adverb」を認めたくない気持ちがあるからでしょうね。
(2) that の使い方①
The first thing she did was telephone her mother's neighbor to say that she was happy, had a brilliant career ahead of her and that there was no need for her family to worry.
彼女はまず、母親の隣の家の女に電話をかけて、自分は幸せにやっているし、仕事でも素晴らしい未来が約束されているから、まったく心配しないでいい、と伝言を頼んだ。
ここで注目したいのは「that」の使い方です。
英訳では、「~to say that she was happy, had a brilliant career ahead of her and that there was no need for her family to worry」となっています。
省略しないで書くならば、次のようになりますよね?
~to say
that she was happy,
that she had a brilliant career ahead of her, and
that there was no need for her family to worry.
つまり、「say」のあとには、「~ということ」という「that 節」か「3つ」あるはずです。
しかし、2番目の「that節」では、「that she」が省略されて、簡素化されています。
一般的には、「I think that S+V」「I know that S+V」のような「that」は省略可能ですが、that節を重ねる場合は、2番目以降の「that」は省略できないとされています。
I think
① that S+V~
② that S+V~
③ and that S+V~ .
このような構文のとき、「that」を省略できるのは、「①」だけですが、上述のコエーリョの英訳では、2番目の「that she」が省略されていて、実に面白いと思いました。
(3) that の使い方②
At the moment, I'm far too lonely to think about love, but I have to believe that it will happen, that I will find a job and that I am here because I chose this fate.
今現在、私はひとりぼっちすぎて、愛のことなど考えられない。しかし、これもじきに過ぎ去って、仕事も手に入るのだと自分を納得させる必要がある。そして、今ここにいるのはこの運命を私自身が選択したからだということも。
まず、解釈の問題から。
「it will happen」 に相当する日本語訳は、「これもじきに過ぎ去って」である。
GROK に同じ箇所を翻訳させたら次のようになった。
「今はあまりにも寂しすぎて、恋愛なんて考えられないけど、それでも信じなきゃいけない。きっとうまくいくって、仕事が見つかるって、そして私がここにいるのは自分でこの運命を選んだからだって。」
「it will happen」の「it」は、文脈から見て「愛(恋愛)に出会うこと/恋人ができること/愛されること」を指しています。原文全体:
At the moment, I'm far too lonely to think about love, but I have to believe that it will happen...
「今は寂しすぎて恋愛なんて考えられないけど、でも(その愛は)きっと起こる(=訪れる)と信じなきゃいけない」という意味です。つまり「it」=「love(愛、恋愛関係)」が自分に訪れること、というのが自然な解釈です。訳すときも「恋愛がうまくいく」「愛が訪れる」「誰かと出会える」などと意訳されることが多い部分ですね。
🙄
『「恋愛なんか考えられない」けど、「恋愛が考えられることが起こって」』ということだから、「これもじきに過ぎ去って」と訳されたのだろう。
ところで、ここでも、(2)と同じように、「believe」のあとに3つの「that節」が続いている。
感想
コエーリョのどの作品も、他の作家に比べると、非常に読みやすい。
私には文学的な価値判断はできないけれども、コエーリョの小説は多読するのに最適だと思っている。
細かく見ていくと、それなりに、かなり複雑な構文が使われているのですが、内容は頭に入りやすい。なんでなんでしょうね。
ポルトガル語から英訳されているので、英語が原文の英文学よりも、翻訳の過程でわかりやすく訳されているのかもしれません。ポルトガル語はわからないので何とも言えませんけどね。

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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします